番外編1、家族と領地へ
今日は家族が大公領に移動する日だ。領地の屋敷がとりあえず形になったので、皆はこれからマリーが王立学校に入学するまでは領地で過ごすことになる。
「お兄ちゃん、早く行こうよ!」
「はーい、ちょっと待ってね」
マリーはやっと領地に行けるということで、数日前からテンションが高い。まだ朝早いのに、向こうに持っていく自分の荷物を持って準備万端みたいだ。
「マリー様、お荷物は私がお持ちいたします……!」
「ううん。これは私が持ちます。だってその方がお引越しっぽいでしょう?」
少し畏まってマリーがそう発すると、メイドさんは苦笑を浮かべつつ頷いた。
「かしこまりました。ではせめてそちらのお荷物をカバンに詰めましょう」
それからもバタバタと朝から準備をして、家族皆が俺の部屋に集まった。ちなみに領地へと向かう方法は転移だ。
数日前にやっと王都の屋敷から大公領の屋敷に直接向かえるようになり、行き来がかなり楽になった。
「ファブリスは一緒に行く?」
『うむ、我も行こう。ついでに魔物の森の駆逐もしたら良いんじゃないか?』
「確かに。じゃあファブリスも一緒ね」
満面の笑みを浮かべて鞄を抱えたマリーと、少しだけ緊張している様子の父さんと母さん、そして皆のメイドや従者、護衛。さらに俺とファブリス、ロジェ、ローランの大所帯で転移を発動させた。
転移先は大人数だし最初ということもあり、大公邸の庭にした。すると目の前に広がった開かれた綺麗な景色に、マリーが感嘆の声を上げる。
「……すっごく綺麗!」
「本当ね。とても見晴らしがいいわ」
「小高い丘になってるんだ。まだまだ発展し始めたところだけど、街になってきてると思わない?」
大公邸を一番に優先してもらったから街にあるのは俺が魔法で建てた簡易の建物ばかりだけど、それでも人の営みがあるからか最初の頃よりも街らしくなってきている。
「ねぇ、お兄ちゃん。あの広場みたいなところは何? 人がたくさん走ってるところ」
「ああ、あそこは広場だよ」
この街には店も少なく屋台なども決まったものしかないので、皆が遊ぶ場所を作ろうということで、とりあえずだだっ広い広場を作ったのだ。
そしてボールを作って、サッカーのルールを知ってる限りで皆に教えた。そしたら皆がサッカーにどハマりして、毎日のようにあの広場では試合が開催されている。
「面白い遊びをやってるから、今度見に行ってみる? 見学するだけで楽しいよ」
俺は何度も試合に参加してるんだけど、さすがに大公家の子女であるマリーを参加させるのはどうかと思い、見学という提案にした。
するとマリーは瞳をキラキラと輝かせながら俺の顔を見上げ、大きく頷く。
「見にいきたい!」
「じゃあ今日は片付けや紹介もあるし、明日か明後日かな」
それから楽しみな予定が決まったことでご機嫌なマリーと共に屋敷に入り、こっちにいる使用人に家族が来たことを伝えて、新しく雇った使用人には皆の紹介をした。
夕方にはもう皆も落ち着いていて、今は皆で夕食前に応接室でお茶を飲んでいるところだ。
「とても良いお屋敷ね」
「父さんもそう思ったよ。それに自然がたくさんあっていいね」
「私もこのお屋敷好き!」
「気に入ってもらえたなら良かった。これからはもっと発展させていくからね。マリーは何かこの街に欲しいものはある?」
俺のその問いかけにマリーはしばらく難しい顔で考え込み、何かを思いついたのかパッと顔を上げた。
「バーベキューする場所! あ、あと釣りもできたら嬉しいなぁ」
どちらも俺がマリーと一緒にやったものだ。この二つを選んでくれたということは以前の体験が楽しかったということであり、思わず頬が緩んでしまう。
「了解。じゃあ釣りができる場所の近くにバーベキュー場を作って、釣った魚を自分で焼いて食べられるようにしようか」
いわゆる山の中のキャンプ場みたいなやつだ。ただ問題はここが平地で川がないってことなんだよな……でもマリーの願いを叶えないという選択肢はない。
とりあえず土魔法と水魔法で大きな湖を作って、そこに魚を入れればいいだろうか。そしてその湖の辺りにバーベキューできる場所を作ろう。
綺麗な花を咲かせる木々を中心に植えて、湖には安全対策も万全にしないと。
「できる?」
「もちろんだよ。ただ少し時間はかかるから待って欲しいかな」
「うん! お兄ちゃんありがとう!」
マリーは俺に向かって満面の笑みを浮かべてくれて、それだけで無限にやる気が湧いてきた。魔法を駆使してファブリスにも手伝ってもらって、一週間で形にしよう。
それから一週間後には街の外れに立派な湖とキャンプ場が完成していて、サッカーが行われる広場と同等、いやそれ以上に大人気スポットとなったのだった。
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