第467話 精米器作成
下界に戻った俺は、さっそく馬車に乗ってマルセルさんの工房に向かった。今日のマルセルさんは朝早くに予定が入っていたけれど、それ以降はずっと空いているのでいつ来ても良いと言われたのだ。
マルセルさんと魔道具開発をするのも久しぶりだな……王都にいる時はよく工房に顔を出してるけど、世間話をしたり一緒に食事をするぐらいなのだ。
「マルセルさん、レオンです」
馬車から降りて工房のドアをノックすると、少ししてからマルセルさんがドアを開けてくれた。顔を出したマルセルさんは、いつも通りに元気そうだ。
「今日は馬車できたんじゃな」
「はい。最近は馬車でのんびりと街中を通るのも良いなと思ってるんです。ファブリスは屋敷で寝てますし」
「そうか。確かに転移というものは情緒がないな」
「そうなんです。一瞬ですからね」
そんな話をしながらロジェとローランを引き連れて工房内に入ると、そこにもいつも通りの光景が広がっていた。なんだか安心する光景だよな。
「それで、今日はどうしたんじゃ? 事前にわしの予定を聞くなんて珍しいじゃろう?」
「はい。実は今日は久しぶりに、魔道具開発をしたいと思ってるんです」
「ほう、それは良いな」
マルセルさんは魔道具開発という言葉を聞いて、瞳の奥を煌めかせた。やっぱりマルセルさんは生粋の魔道具好きだよね。
「どんな魔道具を考えてるんじゃ?」
「精米機です。米を美味しくする道具で……この白い米なんですけど、実はこれって収穫した時にはこんなふうに茶色っぽい色合いなんです」
炊く前の精米と玄米を取り出して並べると、マルセルさんは興味深そうに二つを手に取った。
「確かに全然違うな」
「はい。こちらの茶色の方も美味しいのですが、白い方が癖が抜けてより一般的な美味しさになります。今はそれを人力でやってるのですが、あまりにも時間も人件費もかかるので魔道具を開発したいんです」
俺のその説明を聞いて、マルセルさんは玄米の方を爪で引っ掻いたり指で擦ってみたり、色々と試している。
「人力というのはどうやってるんじゃ?」
「容器に入れて、木の棒などでひたすら叩きます。それによって糠や胚芽と呼ばれる部分が取れると白くなるんですけど、とにかく時間がかかるので今は軽く精米したものを食べたり、そのまま玄米を食べたりしてます」
あれは俺も一度やったけど本当に辛かった。確かに精米した方が美味しいんだけど、その美味しさを得るためにあの辛い時間を過ごすのかと考えると……玄米のまま食べるので良いかなと思ってしまう。
「ほう、木の棒で叩くのか。その衝撃で米を茶色にしている部分が取れるのだな」
「そうです。ただ魔道具にする場合は木の棒で叩くやり方ではなくて、風によって米同士が擦れることによって精米できるようにしようと思っています」
「米同士が擦れる……完成形が頭にあるのか?」
「実はミシュリーヌ様から知識をいただきまして」
俺はそう切り出してから、紙に完成予想図を描いていった。本に書いてあったイラストがほぼそのままで、魔石を嵌め込む場所など追加してある。
「不思議な形じゃな。縦長の大きな筒の真ん中に棒を立てるのか?」
「はい。それも太めの棒です。両手でやっと囲えるぐらいですかね。そして玄米は上部の横に投入口を作ってそこから入れて、風は一番上からとさらには横からもいくつか風を起こして、米が棒の周りを回転しながら下に落ちていくようにします。精米された白米は下に落ち、取れた糠や胚芽は筒の横に穴を開けてそこから出てくるようにしたいです。この時この穴には金網をつけて、その隙間を米は通らないけど糠や胚芽は通る大きさにすればいけると思うんです」
イラストを指差しながら一通り説明すると、マルセルさんは顎に手を当ててしばらく考え込み、それから徐に口を開いた。
「レオン、この筒の真ん中の棒はいるか? 風の流れを作るためなのかもしれないが、風魔法で最初から下降するタイプの竜巻のような風を起こした方が早いじゃろう」
確かに……言われてみればそうだな。地球の精米機を参考にしたからこの作りになってるけど、この世界では風の向きなんて自由に作り出せるのだ。
うわぁ、盲点だった。さすがマルセルさん、本当に頼りになる。
「その通りですね。この棒をなくすとなると……そこまで筒が長くなくても良いでしょうか」
「そうじゃな。半分ぐらいで十分じゃろう。とりあえず試作をしてみるか」
「はい」
完成品の筒部分は普通の鉄で作る予定だけど、とりあえず作りやすさから全て魔鉄で試作をしてみた。魔鉄に魔力を通してぐにゃぐにゃに変形させ、それを薄く伸ばして筒形にしていく。下半分は金網にして、金網部分の外には糠や胚芽を受け止める部分も作る。
そして魔石を嵌め込む場所を側面に作って……完成だ。
「良い感じじゃな。次は魔石じゃ」
「魔力を込めますね」
あんまり強すぎると米が砕けるだろうから、とりあえずは弱めの風になるようにして……こんなもんかな。
「よしっ、ではやってみるぞ」
楽しそうなマルセルさんの声に釣られて俺も笑顔になり、さっそく魔石をセットして上から玄米を投入した。
すると米はイメージ通りに筒の中をぐるぐると回るけど、あまり精米されていない。ちょっと風が弱すぎたかも。
「風を強めにしてみます」
「そうじゃな」
それから風の強さや筒の形、大きさなど何度か調節を重ねることで、
ついに綺麗な白い米を作り出すことに成功した。
今までは何時間もかけて人力でやっていたのが一分もかからない程度でできるなんて、文明の力に感動だ。
「完成ですね!」
「そうじゃな。人力で白くしたものよりもより白さが際立つな」
「はい。美味しいお米になっていると思います」
米を大量生産して大きく広めて、そのついでに精米器も広めればお米の文化は一気に花開く気がする。これからが楽しみだな。
「マルセルさん、精米器の登録は二人の名前でしましょう。いつ登録に行きますか? 今日は……もう遅くなってしまったので、明日は空いてますか?」
「いや、わしは良い。少し手伝っただけじゃからな」
「いやいや、それはダメです! マルセルさんがいなかったらこんなに早く完成してないですし、もっと効率の悪いものになってたと思います」
魔道具の作成は俺だけだとどうしても日本にあった機械に縛られるから、マルセルさんの意見が本当に重要なのだ。いつも凄く助かっている。
「これからも色々と手伝いを頼みたいので、俺が頼みづらくならないためにも一緒に登録しましょう」
ちょっと狡いかなと思いつつそんな言い方をすると、マルセルさんは苦笑を浮かべて頷いてくれた。
「それは困るな。ではわしも登録するか」
「そうしましょう。じゃあ……明日は空いていますか?」
「午前中なら空いてる。それで良いか?」
「もちろんです。馬車でここまで迎えに来ますね。時間は九時で」
「分かった。準備しておく」
「よろしくお願いします」
それから俺はマルセルさんとしばらく雑談をして、精米器が完成した達成感に包まれながら帰宅した。
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