第448話 使用人の今後
執務室の中に入ると、ちょうどルノーとロニーの二人だけしかいなかった。
「二人とも、ちょっと話があるんだけど良い?」
「レオン。もちろん良いけど、何かあったの?」
「あのさ、この前領地を見に行ったでしょ? それで本格的に領地開発を進めるのにあたって、二人のどっちかに領地に来て欲しいと思ってるんだ。短期間じゃなくて、移住って形で。大公領の領主邸で領地の経理を任せたいと思ってる」
俺のその言葉を聞いて、二人は顔を見合わせてぱちぱちと瞳を瞬かせた。二人はかなり気が合ったみたいで良かったよな……日に日に良い師弟関係になっている。
「それは楽しそうですね。もう王都へは戻って来られないのでしょうか?」
「ううん。向こうが軌道に乗ったら戻ってもらっても良いし、そうでなくても一年に数回は王都と領地を往復してもらうことになるかな」
「それならば、私がやりたいです!」
そう言って手をバシッと上げたのはルノーだ。ロニーはそんなルノーを尊重するつもりなのか、一歩下がって話の主導権を譲った。
「ありがとう。じゃあルノーが移住するって予定で進めるので良いかな? これから忙しくなると思うけど」
「問題ありません。こちらのことはロニーに任せられますので」
「了解。まだ向こうで住む屋敷もないから実際に行ってもらうのはもう少し先だと思うけど、よろしくね」
「かしこまりました」
「ただこっちでも領地に関する仕事を色々と頼むことになると思う。……そうだ、ルノーが向こうに行くとなると経理は人手が足りないよね。経理の人員も募集しよう」
本当に数えきれないほどの人手が足りないな……もう最低限の人柄だけをクリアすれば、後は一から育てるぐらいの気持ちで募集した方が良いのかもしれない。
それからも二人とこれからについて話し合い、俺は執務室を後にした。次はアルノルのところだな。
「あっ、アルノル! ちょっと話があるんだけど良い?」
アルノルは屋敷の中を動き回っているようで、捕まえるのに時間がかかってしまった。屋敷のエントランス近くでやっと捕まえたアルノルと、近くにあった応接室に入って話をする。
「色々と話をしないといけないんだけど……そうだ、まずは領民募集のことなんだけど」
それから俺はアルノルにアレクシス様達と話し合って決まったこと、そしてジェロムとルノーのこと、さらに領民以外にも使用人をたくさん雇いたいこと、また兵士を増やしたいことなど色々と話をした。
アルノルに話ながら俺の中でも情報を整理していたので、まとまりのない聞きづらかっただろう話を、アルノルは最後までメモをとりながらしっかりと聞いてくれた。
「これから忙しくなりそうですね」
「そうなると思う。負担をかけて申し訳ないんだけど、采配を頼んでも良い?」
「もちろんです。まず決めなければいけないのは……領地をまとめてもらう家令でしょうか」
「うん。早めに決めると楽になるよね」
家令は領地の大公邸を取りまとめ、さらには俺達がいないときに領地を管理してくれる人材だ。この人選はかなり重要だから、できる限り有能で信頼できる人を雇いたいんだけど……
「アルノルの知り合いで誰かいないかな」
「そうですね……一人だけとても優秀な友人がいます。今までは雇われる家に恵まれず力を発揮できていませんでしたが、レオン様の下でならば力を発揮してくれるかと。その者でよろしければ声をかけてみることはできるのですが、いかがいたしますか?」
「そんな人がいるなら声をかけて欲しい! でも、今も貴族家で働いてるんだよね?」
俺のその言葉に曖昧に頷いたアルノルは、その友人の今までの職歴を教えてくれた。すると不運で不憫で可哀想なその経歴に、思わず涙が浮かびそうになる。
その男性は、今はなき敵対貴族の家を転々としていたのだそうだ。最初に雇われた家がかなりひどくてなんとか辞めたと思ったら、次に雇われた家も最初は普通だったのに次第に敵対貴族に飲み込まれて屋敷の中は殺伐として……
という感じで、不運な人生を送ってきているらしい。でもアルノルが人柄と能力は保証しますとまで言っているのだから、信頼はできるだろう。
「すぐに声をかけてあげて」
「かしこまりました。現在は騎士爵家で下働きをやっているという話でしたので、すぐにお連れできるかと思います」
「下働き……」
アルノルが認めるほど優秀なのに下働きとか、能力の損失も甚だしいな。
「以前働いていた貴族家に次の働き先をご紹介いただけない場合は、基本的には下働きからまた始めることになってしまうのです」
「その仕組み、勿体ないね」
他にもそういう人がいるんじゃないだろうか。貴族家が何個も無くなったばかりなんだし、実力を発揮できてない人はいそうだ。そういう人を上手く拾えないかな……
俺のそんな考えが分かったのか、アルノルは心得たように頷いてくれた。
「使用人募集の際に少し工夫をしてみます」
「ありがとう。頼んだよ。これからは忙しくなると思うけど、その分の給金は上乗せするから頑張って欲しい」
「ありがとうございます。精一杯働かせていただきます」
そうしてアルノルとの話を終えた俺は、もう時間が遅かったので今日の仕事は終わりにして、明日からの忙しい毎日のために早めにベッドに入った。
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