第424話 フルーツティーの可能性

 俺はロジェと話を終えてから、マリーの方に向き直って声をかけた。するとマリーは、黙々とフルーツティーを口に運んでいる。これは美味しいのか微妙だから早く飲みきりたいのか……どっちだろう。


「マリー、フルーツティーはどう? 口に合わない?」

「……ううん。お兄ちゃん、これすっごく美味しい!」


 恐る恐るマリーに感想を促すと、とても嬉しい返答がきた。顔を上げたマリーは満面の笑みだ。良かった、この笑顔が見たかったんだよね。


「苦くないし果物の味がするよ!」

「そっか。少し砂糖を入れても良いと思うんだけど、試してみる?」

「うん!」

 

 マリーの元気な返事を聞いてから砂糖を追加すると、マリーはもう一度フルーツティーを飲んでさらに顔を輝かせた。


「砂糖が入った方がもっと美味しいかも。お兄ちゃん凄いね!」

「本当? ……本当だ。砂糖は合うね」


 俺も試してみたら、少量の砂糖を入れるともっと美味しく感じられた。砂糖のあるなしは好みだろうけど、子供にも美味しいお茶をってコンセプトなら砂糖入りかな。


『主人、我も飲んでみたいぞ』

「ファブリスも? じゃあもう少し大きいポットで作るから、ちょっと待ってて」

『うむ、分かった』


 俺はロジェに追加のフルーツティーを頼んで、改めて手元にあるフルーツティーを観察した。見た目は豪華だし味も良いし……これってシュガニスで売れるんじゃないだろうか。

 今ではシュガニスは、貴族達のお茶会のトレンドを生み出す店になっている。そんなシュガニスでフルーツティーを売りに出したら、瞬く間に広がってお茶会の定番になるはずだ。そうなったら、マリーがこれから先で好きじゃない紅茶を飲む必要がなくなる。


 これは早急に売り出すべきだな。ガラスのポットに入れたらかなり映えるし、貴族女性にはウケが良さそうだ。これについては……まずはロニーとルノーに相談かな。ヨアンには後で、フルーツティーに合うスイーツについて相談しよう。


「エミール、ルノーとロニーを呼んできて欲しいんだけど、二人って屋敷にいるかな?」

「かしこまりました。いると思いますので、すぐに呼んで参ります」


 ロジェはフルーツティーを淹れてくれていたのでエミールに頼むと、すぐに屋敷へと向かってくれた。そしてちょうどフルーツティーが出来上がる頃に、二人がお茶会をしていた東屋へとやってくる。


「レオン様、お呼びでしょうか?」


 マリーとさらにそのメイドと護衛がいるからか、しっかりとした態度のルノーとロニーだ。二人と会うのはいつも執務室が多かったから、敬われるのも久しぶりだ。


「突然呼んでごめん。ちょっと見て欲しいものがあるんだけど」

 

 そう言ってロジェが作ってくれたフルーツティーを示すと、二人は驚いたのか瞳を見開いてから、興味深げにポットを観察し始めた。


「とても面白いですね……紅茶でしょうか?」

「そう。紅茶に生の果物を浸けたもので、フルーツティーっていうんだ。これ、シュガニスで売れると思わない?」

「確かに見た目は素晴らしいです。後は味ですね」

「良かった。じゃあ飲んでみて」


 俺のその言葉を聞いてロジェが二人のためにフルーツティーを注いでくれて、ついでにファブリスの分も準備してくれた。


 二人は再度フルーツティーを観察してから、ゆっくりと口に含む。


「……驚きました。とても美味しいです」

「見た目から想像した以上の味です。これは……確実に売れますね」


 ロニーはそう言って、瞳をキラッと光らせた。ロニーの頭の中ではどれほどの利益が出るのか計算されているのだろう。俺はそんなロニーに苦笑しつつ、ファブリスにも感想を聞いてみることにした。


「ファブリスは……美味しかった、みたいだね?」


 ファブリスの方に視線を向けたら、感想を聞くまでもなかった。一心不乱に尻尾を振りながらフルーツティーをがぶ飲みしている。


『主人、これは美味いぞ! 美味すぎる!』

「そんなに気に入ったんだ」

『ああ、我は人間が好む飲み物の良さが分からなかったが、これは美味い!』

「そんなに気に入ったなら良かったよ。これからファブリスの飲み物はフルーツティーにしようか。さすがに毎回は無理だけど」


 フルーツティーって意外とたくさんの果物を使うし、高級な飲み物なのだ。ファブリスは一回で飲む量が多いから、毎回あの勢いで消費されたら果物が足りなくなってしまう。


『うむ、一日に一度で良いから飲みたいぞ』

「了解」


 そうして俺とファブリスが話をしていると、ルノーに声をかけられた。


「レオン様、果物はフルーツティーに使えるほど入手可能でしょうか?」

「うーん、どれほど売れるのかによるかな。ただ来店者が全員頼むほど確保するのは無理だと思う」

「かしこまりました。では数量限定販売の方が良いかもしれませんね」


 まあそれが無難かな。ゆくゆくは果物の生産量を増やしてもらうことも視野に入れるけど、すぐには無理だ。


「フルーツティーだけを数量限定にするか、後はヨアンに頼んでフルーツティーに合うスイーツを作ってもらって、そのセットを数量限定で販売するのもありかなとは考えてるんだ」

「セットを……それは良いですね。ではヨアンとも話し合ってみようと思います。まずはこちらをヨアンにも飲んでもらわないといけませんね」


 またヨアンを忙しくしちゃうけど、後回しにできるものはしてもらって、急がずにやって貰えば良いだろう。フルーツティーだってすぐに売りに出さなければいけないわけじゃない。


「そうして欲しい。後はアルテュルにも話を通しておいてくれる?」

「もちろんです。売りに出す時期や宣伝方法などを相談しようと思います」

「こちらのフルーツティーとは、別の果物でも美味しくできるのでしょうか?」

「できると思うよ。だから季節ごとに美味しい果物で作れば良いと思う。一年を通して内容が変われば、目新しさがあるだろうし。そこはケーキのトッピングと同じかな」

「かしこまりました。ではフルーツティーについてはヨアンとアルテュルに相談し、シュガニスでの販売を目指そうと思います」


 ルノーが最後にそうまとめてロニーも頼もしく頷いてくれたところで、二人との話は終わりとなった。二人とも本当に頼りになるから、後は任せておけば大丈夫だろう。

 

 それからは残っていたフルーツティーとマリーが好きなクッキーでもう少しだけお茶会を楽しみ、マリー主催のお茶会は大成功で終わりとなった。


「お兄ちゃん、またお茶会やろうね!」

「もちろん。いつでも参加するから言ってね」

「うん!」

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