第381話 コラフェイス公爵領
ルイと別れてから宿に戻り、広場で夕食を食べた後は宿で朝までぐっすりと眠った。そして次の日の朝、俺達は次の街まで距離があるということで、朝早くに村を出発することになった。
「一泊でしたけれどとても楽しい時を過ごせました。ありがとう」
「勿体ないお言葉でございます。またお越しいただける時を、村人一同お待ちしております」
マルティーヌが代表として村長さんと挨拶をし、俺達は馬車に乗り込んだ。そして馬車の窓から見送りに来てくれた村人達を見ていると…………後ろの方にルイとお母さんがいるのが見えた。まだ本調子ではないけれど、何とか立ち上がれて歩けているみたいだ。あれならもう大丈夫だろう。
俺は他の人にバレない程度でルイに手を振って、晴れやかな気分で村を後にした。
「レオン、何か良いことがあったの?」
「……分かる?」
「ええ、いつもより楽しそうだから」
そんなに分かりやすいかな……ポーカーフェイスだけはいつまで経っても身につかない。
「昨日散歩に行った時に嬉しい出会いがあったんだ。実はね……」
それからはマルティーヌに昨日の出来事を話して穏やかな時を過ごし、また馬車での時間が過ぎていった。
――数日後。俺達はついにラースラシア王国の辺境領である、コラフェイス公爵領に到着していた。今は領都に入り公爵邸を目指しているところだ。
街並みは王都ともタウンゼント公爵領とも違い、どこか武骨な雰囲気が漂う街並みだ。
公爵邸の敷地内に入ると、そこには大きな兵士団の訓練施設が鎮座していた。さすが兵士団の強さが国内随一と言われるだけのことはある。
「皆様ようこそお越しくださいました。私はコラフェイス公爵家当主である、アルセン・コラフェイスでございます」
出迎えに来てくれたのは、春の月を祝うパーティーで軍務大臣と一緒にいた現公爵様だ。
「皆様に旅の疲れを癒していただけるよう最大限のおもてなしをさせていただきます。お疲れだろうと思いますので、早速中へお入りください」
俺とマルティーヌ、軍務大臣と文官達、それからヴァロワ王国の面々が屋敷に入った。騎士達は兵士団詰所で待機するらしい。
「ジャパーニス大公様、お約束が早くに叶いましたこと、このような理由では喜ぶことはできませんが、光栄でございます」
コラフェイス公爵様が、俺達を部屋に案内しながら話しかけてくれた。約束とは春の月を祝うパーティーの時に話した、コラフェイス公爵領を訪れる話のことだろう。
「このような理由にはなってしまいましたが、貴領を訪れることができたことは嬉しく思っています。せっかくの機会ですから以前お話ししたことを遂行いたしますか?」
この領を訪れたら、兵士団の兵士達と手合わせするって約束していたのだ。
「よろしいのですか! それは皆も喜ぶでしょう」
「ではお部屋で少し休ませて頂きましたら、兵士団の方へ向かいたいと思います」
「かしこまりました。そのように手配しておきます」
それから部屋でお茶を飲み少し休んだ後に、動きやすい服装に着替えてファブリスと共に訓練場へと向かった。訓練場に入ると、何百人もの兵士たちが一糸乱れぬ動きで跪いて迎え入れてくれる。
「ジャパーニス大公様、御目通り叶いましたこと恐悦至極にございます。私はコラフェイス公爵家兵士団の団長を務めさせていただいております」
兵士達の中で一人だけ前に出ていた男性が、代表して挨拶をしてくれる。
「こちらこそ国内一と言われている皆さんとお会いできて光栄です。短い時間しかいられませんがよろしくお願いします。こちらが神獣のファブリスです」
『我はファブリスだ。よろしく頼むぞ』
ファブリスの声が聞こえたことに一瞬驚いたような表情を浮かべるも、すぐに引き締めて全員が頭を下げる。ここまで敬われると逆にやりづらいな……俺はあまりにも神格化されているような雰囲気に、思わず顔に苦笑を浮かべた。
「そんなにかしこまらないでください。あっ、俺がもっと態度を崩した方が良いのかな。もっと気軽に接してくれて構わないよ」
敬語をやめて笑顔で話しかけると、その場の雰囲気が少しだけ緩くなった。やっぱり俺が敬語を使うのって場の雰囲気を固くする……でも初対面の大人には思わず敬語を使っちゃうんだ。完全に日本人の時の癖だよね。
「今日は手合わせをするってことだけど、誰と戦うのかな? 一対複数?」
「もしよろしければ、私と手合わせしていただけたら嬉しいです」
「了解。じゃあ早速やろうか」
名乗りを挙げたのは団長さんだ。一対一で戦うなんて久しぶりでワクワクしてきた。対人戦は魔人クドゥフェーニと戦う時にかなり訓練したから自信はある。
「はっ、よろしくお願いいたします」
訓練場の真ん中に団長さんと俺だけが残り、他の人は端に下がっていった。互いに剣を持ち一定の距離で向かい合う。
「俺は身体強化以外の魔法は使わないようにした方が良い?」
「……いえ、もしよろしければ全力で戦ってはいただけないでしょうか?」
「分かった。じゃあ全力で行くよ」
俺のその言葉を合図にお互いに剣を構え、訓練場には緊迫した空気が流れた。誰も言葉を発さない、風の音に乗って遠くのざわめきが微かに聞こえてくる程度の静けさが辺りを支配する。
その静けさを破ったのは団長さんだった。気合の入った雄叫びを上げながら俺に向かって一直線に駆けてくる。俺はその勢いと体の大きさに見合わない素早さに一瞬圧倒されそうになったけど、すぐに切り替えて冷静に攻撃を見極めた。
右上からの振り下ろしだな……そう判断した俺は、身体強化を全身にかけて攻撃を受け止めた。
ガキンッッ……っ、結構重い。でも押し負けることはない。俺は団長さんの攻撃を受け止めて弾き飛ばし、今度は俺から攻撃を仕掛けた。
弾き飛ばされたことで体勢を崩している団長さんに向かって、剣を振り上げる。しかし剣が届く前に体勢を立て直し軽く受け止められてしまった。
これは身体強化だけだったらかなり良い勝負かもしれない。そんなことを考えつつバリアの剣を発動した。俺の剣を受け止めて身動きが取れないところを狙って、バリアの剣を振り下ろす。すると団長さんは俺の剣を思いっきり弾いてバリアの剣を受け止めたけれど、その隙に背後に転移した俺が団長さんの首筋に剣を触れさせ、試合終了だ。
「ははっ、はははっ、凄い、凄いですな! ここまで力の差があるとは……もう少し粘れると思ったのですが」
「ううん、単純に剣の腕だけなら俺の負けだよ。身体強化しか使わなければ良い勝負だと思う」
剣の技術は確実に負けていた。俺は魔力量でゴリ押ししてる身体強化があるから付いていけて、その上で使徒のチートな魔法があるから勝てただけだ。
……いずれは単純に剣の腕だけで勝ちたいな。
「大公様にそのようなお言葉をかけていただけるとは、身に余る光栄でございます」
「今度はルールを変えてもう一度やる?」
「……いえ、手加減をしていただいて良い勝負をしても嬉しくありませんので、ここで止めておきます。もっと精進したらまた手合わせしていただけませんか?」
「もちろん。俺からもお願いしたいぐらいだよ」
俺のその言葉に団長さんは深く一礼し、訓練場の端に下がっていった。なんか凄くカッコいい人だよね……俺もあんな感じになりたい。
それからは俺の魔法を見せたりファブリスの強さを体感してもらったり、さらに他数人と手合わせをしたりと、騎士達にとっても俺にとっても有意義な時間を過ごした。
もっと鍛練を頑張ろう、そう気合が入る時間だった。
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