第320話 決着
今度はクドゥフェーニから攻めてきた。水魔法と風魔法を融合させているのか、水の竜巻が凄い勢いで俺に襲いかかって来る。
俺はそれを咄嗟にロックウォールで防ぎ、高温のファイヤーストームで水を蒸発させた。そして蒸気で視界が悪くなっているところに、自分の体を風魔法で守りながら飛び込み、向こう側にいるクドゥフェーニへとファイヤーバレットを放った。
ガキンッ……防がれたっ!
クドゥフェーニはそれを正確に剣で弾くと、そのままの勢いで俺に向かって剣を振り下ろしてきた。俺はその剣を受け止める……瞬間に転移でクドゥフェーニの真後ろに移動して剣を振り下ろした。
今度こそいける……そう思ったけど、凄い勢いのファイヤーボールが襲ってきてそれをウォーターボールで打ち消している間にクドゥフェーニには逃げられた。
はぁ〜、マジで強い。後少しが届かない。あの角を切り落とせたら良いんだろうけど、まずそれが難易度高すぎる。
「ねぇ、お前の住む世界は向こうの世界で、俺が住む世界はこっちの世界。お互い不干渉を守れば争う必要はないと思わない? 何でこっちの世界も欲しいの?」
俺はこのままだと戦いが長引きそうだと思ったので、一息吐くためにもクドゥフェーニに話しかけてみた。
「お前に話す義理はない。俺達はこちらの世界が欲しい、それにはお前達が邪魔、それだけだ」
「でもお前にも家族がいるんでしょう? 俺にもいる。どっちが勝っても誰かが悲しむんだよ?」
クドゥフェーニには命を狙われているんだから俺も殺すつもりで戦っているけれど、ミシュリーヌ様のところで魔人の集落を見て、できれば争わずに解決できたら良いのにと思ったのだ。
「戦い死んだ者を家族は誇りに思うだろう。悲しむことはない」
「いや、そんなことないでしょ。もう奥さんや子供、友達に会えなくなるんだよ? そんな存在がいるのか知らないけどさ」
俺のその言葉にクドゥフェーニは一瞬だけ悲しそうな顔をした。やっぱり大切な存在がいるんじゃん……
……どっちの家族も悲しませない方法は一つだけだ。あの時空の歪みの中にクドゥフェーニと杖を両方同時に投げ入れること。俺にできるだろうか……頑張ってみようかな。
今度は俺が先手をとった。アイテムボックスの出口をクドゥフェーニの真上に作り出し、そこから巨大な岩を落とす。クドゥフェーニはそれを軽く避けたけれど、俺はその避けた先に岩を盾にするようにして転移をした。するとクドゥフェーニは火魔法と風魔法を組み合わせたような、爆発を起こす魔法を使い岩を粉々に砕く。
俺はその飛び散る岩の中をバリアで自分を守りながら突き進み、クドゥフェーニへとファイヤーバレットを放った。そしてファイヤーバレットが剣で弾かれる瞬間に、クドゥフェーニの後側にファイヤーバレットと共に転移をした。
物だけじゃなくて俺も一緒に転移しないといけないところが大変だけど、上手く転移を駆使していく。転移させるとファイヤーバレットの勢いは全てなくなるのでその場にポトリと落ちるだけだけど、ファイヤーバレットが消えたという事実が相手を動揺させる。
その動揺の隙をついてクドゥフェーニへと正面から剣を振るうと、わずかに反応が遅れたのか俺の剣が少しだけクドゥフェーニの顔を傷つけた。
よしっ、俺はその勢いのまま剣を振るうが、持ち直したクドゥフェーニに全て防がれる。やっぱり持ち直されるとダメだ……
後一つ何かで動揺させて、その隙を突いてクドゥフェーニを上手く時空の歪みの方に突き飛ばせれば……
そうだ、あれが良いかもしれない。動揺させられるかも。
俺はそれを実行するためにクドゥフェーニと剣を合わせつつ、魔法も使いながらなんとかクドゥフェーニを時空の歪みの前にまで誘導した。クドゥフェーニは俺達がなぜここにいるのか知らないので、時空の歪みが塞がれることは警戒していない。警戒されたら一気に難易度が上がるし、勝負は一回だ。
カキンガキンッ……と剣を振りつつ上手く隙を作れるタイミングを窺う。そしてここだと思った瞬間に、俺はそれを口にした。
「クドゥフェーニ!」
クドゥフェーニは俺が発した自分の名前に酷く驚き、動きを一瞬止めた。名前をミシュリーヌ様に教えてもらっていて良かった。
クドゥフェーニは名乗ってもいない名前をなぜ俺が知っているのかと、もしかしたら俺も魔人なのかと、そう混乱しているのだろう。
俺はその隙を逃さずに剣に力を入れてクドゥフェーニの体勢を崩し、体勢を崩したところにミシュリーヌ様の杖を取り出して、クドゥフェーニと共に時空の歪みに向けて蹴り飛ばした。
「がはっっ」
クドゥフェーニが杖と共に時空の歪みに消えていく瞬間、一瞬だけこちらを見た。その表情は驚愕に染まっていて、俺は最後に一泡吹かせられたことに満足してクドゥフェーニを見送った。
そしてクドゥフェーニと杖が時空の歪みの向こうに消えていった瞬間、ピカッとあり得ないほどの眩しい光が辺りを包み込み、それが治まるともうどこにもあのオーロラのような歪みは存在しなかった。
…………成功、したのか。
「ははっ、やった。遂にやった!」
段々と成功した実感が湧いてきて、顔に笑みが浮かんでいく。よしっ、遂にやり遂げた。これでもうこの世界に脅威は入ってこなくなるはずだ。
「ミシュリーヌ様!」
『レオン遂にやってくれたわね! 本当にありがとう!』
本当に成功したのか確認するためにミシュリーヌ様に話しかけると、俺が聞く前にテンション高いミシュリーヌ様の声が聞こえてきた。
「じゃあ成功したんですね!?」
『ええ! これでもう穴が開くことはないわ!』
「やったぁ……」
俺はその事実に今度は体の力が抜けるのを感じる。
「レオン、大丈夫か!?」
倒れそうになった体を支えてくれたのはトリスタン様とジェラルド様、フレデリック様だ。それにファブリスも近くに来てくれている。
「はい。遂に成功しました……」
「やったな!」
「レオン、凄い戦いだったよ。本当に感動した」
「レオン凄いな!」
「本当に成功して良かったです。これで後は、この魔物の森をどうにか抑え込めば大丈夫ですね」
俺のその言葉に三人は真剣な表情で頷く。遂にここまで来たな。魔物の森を押さえ込むのは大変だけど、人海戦術に、俺とファブリスがいればどうにでもなるだろう。
「そっちは帰ったらまた頑張りましょうか。とりあえず今は喜びましょう」
「そうだな」
「あっ、そうだ。ミシュリーヌ様」
俺は聞き忘れたことがあったと思って、またミシュリーヌ様に話しかける。
『どうしたの?』
「あの、クドゥフェーニはどうなりましたか? 向こうの世界に帰れたでしょうか?」
それだけが気になってたのだ。あいつのことは好きじゃないけど、無事に帰れていたら良いなとは思う。やっぱり俺は殺し合いとか向いてないんだよね……
『ちゃんと帰れたわよ。今は時空の歪みがあった場所を呆然と眺めているわ。そのうち現実を受け入れるでしょう』
「そうですか。それなら良かったです」
『レオンはお人好しね〜。まあ私は嫌いじゃないけどね』
「ありがとうございます。じゃあまた連絡しますね。これからは魔物の森をどうにか駆逐して、それと並行してミシュリーヌ様のもう一つの願いにも着手します」
『本当!? レオン大好きよ! 待ってるわ!!』
ミシュリーヌ様は時空の歪みが塞がった時よりもさらに嬉しそうにそう叫ぶと、俺との通信を切った。
「ミシュリーヌ様からも、もう時空の歪みが出現することはないとのことです。それから魔人はしっかりと向こうの世界へ帰ったみたいです」
「魔人の脅威が無くなったのは大きいね」
「はい。本当に良かったです。ふぅ……疲れましたね」
「今日はどうする? ここで一泊してまた明日から帰るか?」
確かにもう時間も遅いし、今日はここで止まるのが一番かな。
「そうしましょう」
『明日からは我が乗せていくからな。魔物の森は数日で抜けられるぞ』
「ファブリスありがとう」
「予想以上の早い帰還になりそうだね」
「ファブリスを見たら誰もが驚くだろうな」
そんな会話をしながら、今までで一番穏やかに時はすぎていった。本当に成功して良かった。
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