第316話 初めての魔物調理
それからファイヤーリザードをアイテムボックスに片付けて、俺達は少し場所を移して野営の準備をすることにした。
「ファブリスもバリアの中に入りたい? 俺達は大きなバリアの中で皆で休むんだけど……」
『いや、我は外で構わない』
「そっか。じゃあ自由に休んでてね。あっ、ファブリスはご飯って食べるの?」
『そうだな……魔素を取り込めば食べなくても問題はないのだが、久しぶりに人間の食事を食べるのも良いな。昔に分けてもらっていた料理は美味かった……』
ファブリスはそう言いながら少しだけ尻尾を揺らした。食べたいんだな……感情が分かりやすくしっぽに現れていてちょっと可愛い。
「じゃあファブリスの分も準備するね。何か要望はある? 何の肉が好きとか野菜が好きとか」
『そうだな……では先程のファイヤーリザードが食べたいぞ』
「え、魔物を食べるの?」
『……主人は食べないのか?』
「いや、食べたことはあるんだけど、この世界では一般的に魔物は食べないかな。普通の動物の肉の方が美味しいから」
『そうなのか……主人が言っている普通の動物とは魔力がない獣のことだろう? 我がいた世界には魔力のないものはいなかったからな。皆魔物を食べていたぞ』
そうなんだ……衝撃の事実。俺はこっちの世界に転生させてもらえて良かった。
「じゃあファブリスは魔物の肉にする?」
『そうだな……だが魔力のない獣の肉も気になる』
「それなら両方準備しようか。俺達の料理は既に準備してある状態でアイテムボックスに入れてるから、作る時間もかからないし。あっ、アイテムボックスは時間停止の時空間に物を収納しておける魔法ね。魔力を少し使えばどこでも取り出せるんだ」
『ふむ、それは便利だな。さすがは使徒である主人だ。では両方頼む』
「はーい。じゃあちょっと待ってて」
ファブリスとそこまで話したところで、俺は三人の方に向き直った。
「皆さんそういうことなので、ファイヤーリザードの料理を手伝ってもらっても良いでしょうか? といっても調味料をつけて焼くだけのつもりですが」
「もちろんだよ」
「料理はできないが、指示して貰えば動くぞ」
「俺もだ」
「ありがとうございます。ではまず解体からですね」
よしっ、野外でする料理、しかも魔物の調理なんて初めてだけど頑張るか。
俺はまず適度に広い空間を確保して、そこにアイテムボックスからファイヤーリザードを取り出した。ファイヤーリザードが地面に置かれると、ドスンッと振動が伝わってくる。やっぱり流石の大きさだな。
そういえばさっきはかなりの硬さだったけど、どうやって解体したら良いんだろうか。中まであの硬さってことはないよね……?
「ファブリス。あんなに硬かったけど、どうやって解体すれば良いのか分かる?」
少し遠くに寝ていたファブリスにそう問いかけると、のそりと起き上がり近くに来てくれた。
『ファイヤーリザードの鱗は身体強化魔法で硬くなっているだけなのだ。よって今ならば簡単に剣が通るぞ』
そう言いながら爪でファイヤーリザードの首元をザシュッと切り裂いた。おおっ……確かに簡単に爪も通ってるみたいだ。
『主人の剣でも問題なく解体できるだろう』
「ありがとう。じゃあやってみるよ」
とにかく一箇所に切れ込みを入れて、そこから皮と鱗を剥いでいく感じかな。魔物どころか動物の解体が初めての経験だけど、見た目が日本にいなかったような動物だったからか、鱗があるところが魚と似ているからか、理由はわからないけどそこまでの忌避感はない。
魔物の森に入って何度も魔物を倒しているうちに、こういう光景にも慣れてきたのかもしれないな……
「では皆さん、俺が一箇所切れ込みを入れていくので、そこから皮を剥ぎやすいように持ち上げて手伝っていただけますか?」
「分かった」
「ではいきます」
バリアの剣は繊細な動きをさせると魔力消費が激しいので、自分の剣を取り出してそこにバリアを纏わせる。そして剣先をファイヤーリザードに押し当てた。すると予想以上に軽く剣が通る。おおっ、生きてる時とこんなに違うんだ。
それからは三十分ほどかけて慣れない解体をやり遂げた。素人だけで解体できたのはひとえに魔法のおかげだ。少し失敗して内臓を傷つけてしまってもピュリフィケイションで全てが綺麗になるし、回復属性の魔力をファイヤーリザード全体に行き渡らせて悪いところがないか確認したので完璧だ。
「終わりました。皆さんお疲れ様です」
「解体とは、こんなにも大変なのだな……」
「肉屋に感謝しなければいけないね」
「ふぅ、だが苦労しただけあってかなりの量の肉が取れたな」
「はい。では早速調理していきますね。皆さんは少し休んでいてください。あっ、調理をしている時だけこの辺一帯に広くバリアを張ってるので心配しないでください」
魔法具よりも魔法で張るバリアの方が圧倒的に自由度が高いので、イレギュラーな今回はとりあえず俺がバリアを張っていた。夜用のバリアの魔法具にはさすがにファイヤーリザードは入らないし、ギリギリ入ってもそんな中で解体なんてしたくないからね。
「分かった。では休ませてもらうな。料理は助けになれないだろうし」
「はい。手早く焼いちゃいますね」
解体した場所からまた少し移動して、アイテムボックスに入れておいた石を取り出し即席の竈を作った。そしてその中に枯れ木を入れてファイヤーで火をつけ、そこにフライパンを乗せて油を引く。これで油が温まったらとにかくたくさんステーキを焼けば良いだろう。
油が温まるのを待つ間に、ピュリフィケイションで清潔にした大きな木の板に肉塊を取り出す。そしてフライパンで焼けるサイズに切り分けていった。ファイヤーリザード一匹で何百人分のステーキができそうだ。
ファイヤーリザードの肉は凄く美味しそうな赤身肉って感じで、見た目ではかなり美味しそうに見える。リオールの街で食べた魔物料理も美味しかったし、もしかしたらこれも美味しいのかもしれないな。
よしっ、油が温まったからステーキをフライパンに乗せて……おおっ、ジュュゥと美味しそうな肉の焼ける音がしてきた。この音が食欲をそそるんだよね……
とりあえず味付けは塩胡椒かな。胡椒は高いから昔は使えなかったけど、最近はそこまで気にすることなく普通に使えるんだ。それ以外のスパイスもあるけど、やっぱりステーキは塩胡椒だよね。
しばらく待っていい感じに焼けたところで、ナイフで一口分を切り分けて味見してみた。え……、何この肉、めちゃくちゃ美味しいんだけど!!
日本で食べてたかなり高めのヒレ肉って感じだ。肉の味が凄く濃くて、噛むたびにジュワッと控えめながらも美味しすぎる肉汁が口の中に広がる。でもしつこくもない。すっきりとした後味だ。
これは魔物の森を駆逐して食べられなくなるのが惜しいぐらいに美味しい肉だ。魔物の肉って美味しいのはかなりレベルが高いのかも……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます