第278話 黒幕
「ミシュリーヌ様、凄く大切な話なんです。実はさっき俺は殺されかけたのですが、その殺しに来た相手が人間とは思えないような外見だったのです。肌は黒く背が高く、頭には角が生えていて牙もあって、紫色の髪の毛に紫色の瞳をしていました。この世界にそんな人種がいるのですか? さらにその男は複数属性を使っていたのですが、俺の他に使徒様などはいるのでしょうか?」
『何よそれ。そんなやつ知らないわ……』
「え、ミシュリーヌ様もご存じないのですか……?」
神様が知らないなんてことあるの!? 本当にあいつ誰なんだよ……
『そもそもこの世界には複数属性を持つ者なんてレオン以外にはいないはずよ。私が作ってないもの。普通の人間は一つの属性しか持てないし、人間以外はそもそも魔力も持てないわ』
「では、あの男は誰なのでしょうか? 私を狙っていたようでした。そしてこちらの世界も私のものにする、みたいなこと言ってたのですが……」
『こちらの世界……? もしかして!!』
ミシュリーヌ様は何かを思いついたのか、焦ったような声を出した。
『シェリフィー、緊急事態だから私は一度帰るわ! またね!』
『分かったわ。気をつけなさいよ』
『もちろんよ! レオン、私の世界に帰るからちょっと待ちなさい』
「わかりました。というよりも、別の世界にいても連絡は通じるんですね」
『もちろんよ。私が作ったのだから万能なのよ』
「凄いですね。すぐに帰れるのですか?」
『ええ、もう着くわ』
世界間の移動ってそんなに早くできるんだ。いいな……俺もシェリフィー様のところに行けたら行きたい。多分ダメなんだろうな。
『よしっ、着いたわ。それでレオン、その男が今どこにいるのかわかる?』
「いえ、一時間ほど前までは俺の部屋にいましたが……」
『じゃあまだそんな遠くには行ってないわね。広範囲を検索して……。ああっ、神力が足りないわ! レオン、アイテムボックスに物を入れて神力を増やして』
「今すぐですか?」
『今すぐよ!』
「ちょっと待ってください」
そんなに大量に消してもいいものなんてないんだけど。ゴミとかないかな……
「アレクシス様、ミシュリーヌ様が思い当たることがあるみたいなのですが、調べるために力が必要なようでいらないものが大量に欲しいのです。ゴミでいいのですが大量にありませんでしょうか……?」
俺がそう聞くとアレクシス様は困惑したような表情を浮かべた。神様のためにゴミを集めるなんて普通抵抗あるよね。でも神力に変わっちゃうのだからゴミでいいのだ。
「ミシュリーヌ様へのお供えならば最高級の食べ物や宝石などを用意するが……?」
「いえ、お供えではなく……この世界の汚れを浄化してミシュリーヌ様の力にする、という感じなのです。なのでゴミがたくさんある場所を教えて欲しいのですが」
我ながら上手い言い訳だ。
「そうか、それはありがたいことだ。それならば王都のゴミ溜めがある」
「それはどこにあるのですか?」
それから俺はアレクシス様にゴミ溜めの場所を聞き、その近くの知っている場所まで転移して、そのあとは身体強化をかけてそこまで走った。今日はめちゃくちゃ働いてるよ……
そうして辿り着いたゴミ溜めのゴミを、バリアを駆使してアイテムボックスにどんどん収納していく。そしてゴミがほとんどなくなったところで魔法具にピュリフィケイションをかけて、魔法具と共に執務室に転移で戻った。
今日は魔力を使いすぎててもう半分を切ってる。ちょっと気をつけないとだな。
「戻りました」
俺が戻るとアレクシス様とリシャール様は仕事をしながら待っていたようで、机にはさまざまな書類が広がっていた。
「戻ったか。場所はわかっただろうか?」
「はい。ありがとうございます。ではまたミシュリーヌ様に連絡をしますね」
「よろしく頼む」
「ミシュリーヌ様、今から渡しますね」
『やっとなのね! お願いするわ!』
「はい。じゃあ行きますね」
俺はミシュリーヌ様にそう告げて、アイテムボックスの魔法具から魔力を全て抜いた。
『何よこれ! 素晴らしいわ……これだけ神力があればケーキが何百、何千、何万個も食べられる……』
「ミシュリーヌ様、あの男の謎を探るためですよ!」
『はっ! そうだったわ……うぅ、私のケーキ……』
「後でその分の神力も増やしますから、今はあの男に集中してください!」
『レオン本当!?』
「本当です」
『さすが私の使徒! 素晴らしいわ。人格者だわ。最高の男よ』
こんな時だけ調子いいんだよな。
「はぁ〜、ありがとうございます。なので今は頑張ってください」
『分かったわ! じゃあ広範囲検索をしてあの男を見つけて…………いたわ』
「今はどこにいるんですか?」
『そうね……王都の外を魔物の森の方に向かって全速力で走ってるわ。これ、身体強化魔法も使ってるわね。やっぱり私の予想が当たってるのかしら……』
「その予想ってなんなのですか?」
『もしかしたらこの男、もう一つの世界に住む者かもしれないわ』
もう一つの世界って、魔物がいる世界ってこと!?
「今この世界と繋がってる魔物の世界のことですか? あっちに人間みたいな存在いたんですか!? 人間は絶滅したんじゃ……」
『私もそうだと思ってたんだけど……』
「ミシュリーヌ様はあちらの世界のことを把握していないのですか?」
『それは、あれよ。もう興味が無くなったから、ほら、自然に任せてたというか……』
放っておいたんですね。さすがミシュリーヌ様、興味のあることにしか力を割かない神様だ。
「じゃああの人は向こうの世界の人間ってことですか?」
『そうね……それよりも、魔物が進化して人型になって知能を持ったって感じかしら……』
「進化って、そんなに長い時間放っておいたのですか?」
『まあ、この世界を作ってからはずっとだわ……』
そんなに長い時間放っておいて時間の流れがこの世界と同じなら、それは進化もするよ!!
「ミシュリーヌ様、ではあの男はもう一つの世界に住む魔物が進化した人間、魔人とでも呼べばいいのでしょうか? そんな存在ってことですね」
『そういうことね』
「ではこちらの世界も手に入れるなどと言っていたのは、なんらかのきっかけで時空の歪みの存在に気づいた魔人が、こちらの世界も手に入れたいと考えたってことでしょうか?」
『そうね』
「ミシュリーヌ様はどちらを応援するのですか? この世界を魔人が手に入れても良いと思われますか?」
『そんなのいい訳ないじゃない! そしたら日本風な世界を作る夢は途絶えるし、何よりこの男は人間じゃないわ! 私は人間が好きなのよ!』
ミシュリーヌ様の人間の基準がよくわからないんだけど、地球の人間と同じ生物がミシュリーヌ様の中では人間なのかな。地球に憧れてるみたいだし。
まあなんにせよ、ミシュリーヌ様が手助けしてくれるのはありがたい。
「では魔人をどうすれば良いのか手助けをお願いします。まずはあちらの世界にどれほどの魔人がいるのか、それからどんなことを企んでいるのか知りたいです」
『わかったわ! あっちの世界を覗いてみるからちょっと待っていなさい』
ふぅ〜、これで相手の計画がわかれば対処もしやすくなるだろう。あの強さの魔人がどれほどの人数いるのかも重要だ。あんなのがもし何十万人もいるとかって言われたら、本当にこの世界は終わりだよ。
でもそれならその大勢でこっちの世界に侵攻してきてもいいはずだ。それをしないってことはそれほどの人数はいなくて、魔物の森がこちらの世界の人間を滅ぼすのを待っているのかもしれない。
「レオン君、ミシュリーヌ様はなんと……?」
「はい。魔物の森が別の世界から来ていることはお伝えしましたよね?」
「ああ、それは聞いたが……」
「実は先ほど私を殺しに来た男は、その別の世界から来た魔物が進化した人間、魔人の可能性が高いそうです」
「魔人……」
俺がそう告げると、二人は絶望したような表情を浮かべる。まあそうなるよね。一対一で俺が勝てない魔人なんて、この国で勝てる人はほとんどいないだろう。
「ですがミシュリーヌ様はこちらの味方をしてくれるようですので、ご安心ください。今は別の世界を偵察に行ってくれています」
「そうか、ミシュリーヌ様が。それは安心だな」
「陛下、良かったですね」
二人はミシュリーヌ様が味方だというだけでかなり安心したようだ。俺からしたらそんなに安心できる話じゃないんだけど、安心できるならしておいた方がいい。不安だと思考も鈍るだろう。
そうして三人で話していると、執務室のドアが外から叩かれた。
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