第274話 話し合い 前編

 応接室から出て、俺の部屋に向かって足速に歩きながらロジェに尋ねた。


「ロジェ、リシャール様に報告したけどリシャール様はこちらに帰られるかな?」

「アルテュル様が一人でこちらに来られたとなれば一大事、すぐにお帰りになるかと」

「じゃあリシャール様が帰られたら、そのまますぐに転移でアレクシス様のところに行ってくるよ。王宮にいける服装に着替えさせてくれる?」

「かしこまりました」

「あと時間がなくて俺から説明できないから、カトリーヌ様にも説明を頼んでいい? カトリーヌ様にはさっき聞いたことは話していいと思う」

「では私からご報告しておきます」

「よろしくね」


 そうして話しながら素早く着替えさせて貰っていると、リシャール様が帰ったとの連絡が入った。

 その連絡を聞いて急いで玄関ホールに向かうと、執事のアルバンさんとリシャール様が真剣な様子で話し合っている。


「リシャール様」

「レオン君、何があったのだ? アルテュルが屋敷に来たと聞いたが」

「はい。説明はアレクシス様もご一緒の方が良いのでこのまま王宮に転移していただけますか? こちらに呼び出しておきながら申し訳ございません。話を聞いてみるとかなりの大事でして……」


 俺がそう言うとリシャール様は一層表情を険しくして頷いた。


「分かった、すぐに行こう」

「ロジェが事情を知っておりますので、カトリーヌ様には報告を頼んでおきました」

「ありがとう。ではその報告をアルバンも聞いておいてくれ」

「かしこまりました」

「では行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」



 そうして慌ただしく俺とリシャール様はアレクシス様の執務室に転移した。執務室ならばいつでも転移してきて良いと言われているのだ。


 執務室に転移するといつもいる文官達は既にいなく、アレクシス様が一人だけでソファーに座っていた。


「やっぱり来たな。ここで話をするだろうと思い人払いは済ませてある」

「アレクシス様、ありがとうございます」

「とりあえず座ってくれ。それで早速だが何があったのだ?」

「では私から説明いたします。先程アルテュルが一人でタウンゼント公爵家に現れました。話を聞いてみると、プレオベール公爵と他いくつかの貴族家が結託し、私を暗殺する計画を立てているとのことです」

「なっ……」


 俺がそう言うと、アレクシス様とリシャール様は相当驚いたようだった。流石にそこまでするとは予想してなかったのかな。確かにそんなことしたら神に背くようなものだよね。普通はやらないだろう。どう考えてもうまく行きそうにない計画だし。


「まさかそこまでとは……。計画の内容はわかるのか?」

「はい。明日の早朝、日が昇った頃に挙兵して王宮を攻めるそうです。そしてその混乱に乗じて私を暗殺する予定とのことです」

「まさか、今の状態で内乱を起こそうと言うのか……」


 今度はアレクシス様も驚きつつ、少し疑問に思っているようだ。普通そんな無謀なことしないと思うよね。


「王都に兵士を集めているという報告もないと思うのだが、リシャールそんな動きはあるか?」

「いえ、確かに他の貴族家よりは兵士の数が多いですが、内乱を起こすような人数には到底届きません。せいぜい数百人、王宮への侵入も叶わずに制圧されると思いますが……」

「何故そんなことをするのか不気味だな。他に目的があるのだろうか」


 二人はそうして話し合い、首を傾げている。


「アレクシス様、リシャール様、ここで一つ気になる情報があります。アルテュルからの情報なのですが、プレオベール公爵は毎朝お湯に溶かして紫色の粉を飲んでいるのだそうです。それを飲むと強くなれるのだとか。そして最近のプレオベール公爵はとにかく攻撃的で、誰彼構わず邪魔なものは排除すると、そう言っているようです。何か変だとは思いませんか……?」


 その言葉を聞いて二人は一気に表情を険しくした。


「それは、まさか……薬物か。中毒性のあるものや人体に悪影響があるものは取り締まっているはずだが……」

「しかし紫色の粉など聞いたこともありません。もしや新しいものでしょうか……?」

「……それは厄介だな。どのような悪影響があるのか、どこまで広がっているのか、それから作り方や原料、全てを早急に調べなければならない」


 やっぱりこれかなりの大事だよね。地球の歴史でも薬物などで国が荒れた歴史があったはずだ。プレオベール公爵が定期的に飲めるってことは、定期的に手に入れられる伝手があるってことだろう。


「陛下、プレオベール公爵の屋敷を取り押さえますか? 使徒様暗殺疑惑で可能かとは思いますが……」


 リシャール様がそう聞くと、アレクシス様は少しだけ悩んだ後に首を横に振った。


「いや、明確な証拠もあるわけではないうちにそんなことをしてしまえば、他の貴族からも反発を受けるだろう。ここは明日の挙兵を待ち、謀反を起こしたという明確な証拠を持って捕らえた方が良い」

「……確かにその方が確実ですね。では明日の早朝の挙兵を待ち早急に取り押さえ、その後謀反を起こした貴族家を捜索。貴族家に連なるものは皆捕らえる、それでよろしいでしょうか?」

「ああ、そしてその紫色の粉については、捕らえた後で本人に聞くのが一番早いだろう。国家反逆罪と使徒様暗殺未遂だ、当然死刑だから拷問しても構わん」


 やっぱり死刑なのか……


「かしこまりました。ではそのように手配しておきます。貴族家のものは地下牢に捕らえるので良いでしょうか?」

「それで良い。私達に情報が渡っているということが敵に伝わらぬよう、細心の注意を払え」

「心得ております」


 なんか凄いことになって来たな。明日何事もなく制圧できればいいけど……。一番は無関係な人に犠牲が出なければいい。


「レオン、この情報を伝えてくれて感謝する。事前に情報があるのとないのとでは大違いだからな」

「その言葉は私にではなくアルテュルに。私はアルテュルの言葉を伝えただけですので」

「確かにそうだな。アルテュルはどうするか……」


 アルテュルはプレオベール公爵の息子だから、どうなるのだろうか。もしかして一緒に罪を被って処刑とかになっちゃうのかな。それは……、嫌だな。


「アレクシス様、アルテュルは……、どうなるのでしょうか」

「そうだな。普通ならば国家反逆罪など一族郎党処刑だが、この情報を事前に伝えてくれたという功績もある。それも加味し、アルテュルは処刑から免れる可能性はある。それから幼いものも免除になるかもしれんな」

「本当ですか!」


 ……良かった。本当に良かった。これでアルテュルも処刑されるとなったら、アルテュルの人生は悲しすぎる。生き残ってもこの後の人生大変なことは多いだろうけど、それでも生きてればいいこともあるはずだ。そう信じたい。


「ただこれからの流れ次第ではどうなるのかわからん。そこは心得ておいてくれ」

「……かしこまりました」

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