第264話 家族への告白 中編

「そう! 理解できた?」

「少しは理解できてきたわ……多分」

「それなら良かった。じゃあ話を続けるね。それで皆の爵位なんだけど、一つ目はさっき言った上から三番目の伯爵位を貰う事。そして二つ目は俺が貰う予定の大公位を父さんが貰って、すぐ俺に爵位を譲ること」

「……だめよ。もう理解できなくなったわ」

「えっと、その二つは何が違うんだ? それと父さんが爵位を得て、すぐレオンに譲ることに何か意味があるのかい?」


 やっぱりここの理解は難しいか。そもそも貴族の爵位の仕組みを理解してもらわないとだよね。


「まず貴族の爵位って、子供が十五歳になると譲ることになるんだ。そして爵位を譲ったら前に貴族の当主だったよ、っていう身分を得ることになる。例えばだけど、この公爵家でリシャール様は公爵様じゃなくて前公爵様なんだ。もうリシャール様の子供のクリストフ様が公爵位を継いでるから、公爵様はクリストフ様。でもリシャール様は平民になるわけじゃなくて、前公爵様っていう身分はずっと持ってることになるんだよ」


 貴族の説明って難しいな。父さん達にも理解してもらえるようにって考えると難易度が上がる……

 俺って先生にはなれないかも。


「だから父さんが最初に大公位をもらって俺に譲ると、父さんは前大公って身分を得られて、母さんは前大公の妻、そしてマリーは前大公の娘って身分を得られるんだ。……分かった?」

「……なんとなくは分かったよ。とりあえず、なんでそんなに面倒なことをしないといけないのかは、少し分かった」

「本当? 少しでも理解できたのなら良かった」

「じゃあ一つ目の伯爵位って方は何なんだい? 一代限りだっけ?」

「うん。一代限りの爵位っていうのは子供に引き継げない爵位のことだよ。だからその人が死ぬまでその爵位を持っていて、死んだらそこで終わりなんだ」


 この話には父さんと母さんも大きく頷いてくれた。


「今の話は理解できたわ。一生持ち続けられる爵位ってことよね」

「そう! そういうこと!」

「じゃあ、一生持ち続けられる方がいいのかな?」

「そうとも言えなくて、爵位って基本的には十五歳にならないと貰えないんだ。だから伯爵位の方だとマリーだけは長い間平民の身分のままになっちゃう。でも大公位の方ならマリーも大公の娘ってことですぐに貴族の仲間入りができるよ」

「じゃあ大公の方で決まりでいいじゃない」

「でもそっちにもデメリットがあって、貴族の子供で爵位を継がなかった人は、成人すると準貴族って身分になるんだ。準貴族も実家の身分によって扱われ方が変わるからそこまで心配することじゃないんだけど、貴族ではなくなるんだ」


 そこまで話すと、二人は完全に分からなくなったようで遠い目をした。マリーはずっと理解できていなくて足をぶらぶらとさせて遊んでいる。

 やっぱり難しいか……


「……もうわからないわ。レオンはどっちがいいと思うの? レオンが決めていいわよ」

「いいの……? 俺は大公の方がいいかなと思ってるんだ。マリーもすぐに貴族の身分を得られるし、成人はまだ先だから色々と対処もできるだろうし」


 マリーが成人するまでに教育を受けて完璧な貴族の淑女になれれば貴族に嫁ぐのもありだし、騎士爵を貰えるように取り計らうこともできるはず。もし貴族は嫌だってなったとしても、準貴族なら普通に平民として生きていくこともできるだろう。

 その為には皆の身に危険が及ばないように、俺の力を絶対的にしないとだけどね。


「それなら大公の方でいいよ。父さんはよく理解できないからレオンの選択を信じる」

「母さんもよ。正直話の規模が大きすぎてよくわからないわ」

「じゃあ、父さんが大公位を貰って俺に継がせる方向で話を進めてもいい?」

「それでいいわ」

「レオン頼むよ」

「分かった、任せておいて」


 そこで一旦話に区切りがつき、少しの間沈黙が流れた。母さんと父さんはかなり疲れているようだ。マリーはもう完全に飽きている。

 ここで話を終わりにした方がいいかな。そう思ったけど、さすがに婚約をする話は後回しにしちゃダメだよね。


「母さん父さん、あともう一つ話しというか報告があるんだけど……俺、婚約することになったんだ」


 家族にこの報告をすることに少しの恥ずかしさを感じながらも、俺は照れ隠しからなんでもないことのようにそう告げた。

 すると母さんと父さんは、ポカンとして固まってしまう。さっきまではかなり反応が鈍かったから、驚いてくれるだけで何だか嬉しいな。


「婚約って……婚約!?」


 母さんが少しだけ固まった後に、今日で一番の大声を出した。


「そ、それってあれかい? 結婚の約束をしたってことだよね!?」


 父さんもかなり狼狽えている様子だ。確かに平民は婚約ってほとんどないから、流石に俺の歳じゃ結婚の話は早すぎるよね。


「それで合ってるよ。今度俺が使徒で大公になるよってお披露目のパーティーをやるんだけど、そこで婚約も発表するんだ。あっ、そのパーティーには父さんと母さんは出席しなくていいから心配しないでね。流石にまだ貴族のパーティーは酷だろうってアレクシス様が言ってくれたから」


 本当は父さんと母さん、マリーも出席した方がいいんだけど、全ての貴族が集まるような大規模なパーティーに今の段階で出てもらうのは流石に無理だろうって、アレクシス様が言ってくれたんだ。

 色々と配慮してくれてありがたい。でもこれから先は顔を出す機会を設けないとなのだろうから、皆には勉強を頑張ってもらわないとだよね。


「そんなパーティーまであるのね……」

「うん。でも今回母さん達は出席しなくていいって」

「本当に良かったわ……じゃあとりあえずそのパーティーのことは置いておいて、婚約の話よ。相手は誰なの? 挨拶をしないといけないでしょう?」


 母さんはパーティーの話を挟んだことで少し落ち着いたようで、いつもの調子でそう聞いてきた。


「相手は……マルティーヌだよ」


 俺はマルティーヌの名前を口にする瞬間、自分の顔が緩むのを感じた。最近は忙しすぎて嬉しさに浸る時間もなかったけど、これから先ずっとマルティーヌと一緒にいられるってことなんだよね……

 なんか、それってめちゃくちゃ嬉しい。


 母さんと父さんはその名前を聞いて一気に慌て始めた。さっきは少し落ち着いたのにまた逆戻りだ。


「マ、マルティーヌ、様って、確か王女様よね? なんでそんな人とレオンが婚約するのよ!? どうしましょう。どうすればいいの!」

「レ、レオン、本当なのかい? 本当の本当に? 同じ名前の違う人かい?」


 母さんと父さんは、俺が使徒様だって話よりも自分達が大公家の人間になるって話よりも、この話が一番驚いてるな。


「王女様のマルティーヌで合ってるよ。まだ結婚は先だと思うけど、婚約はすることになったんだ。だから結婚したら母さんと父さんもマルティーヌとは家族になる。王家とも親戚だよ」

「……私、なんだか気が遠くなってきたわ」

「ロアナ、僕も何が起きてるのか理解できないよ」


 ……二人には相当な負担を強いてるよね。少し前までは王家どころか貴族とも全く関わりがなかったのに、俺のせいで貴族と関わりを持つことになって、今度は自分達が貴族になるって言われて、王家とも親戚になるって言われて。

 そう考えたらやばいな。なんか本当にごめん……


「突然こんなこと言ってごめんね。俺のせいで母さんと父さんとマリーの人生を変えちゃって……。でも皆がこれから先の人生不自由しないように、さらに好きなことをして楽しく生きていけるように頑張るから、一緒に頑張ってくれる?」


 もう皆を巻き込まないのは無理だから巻き込んだ上で幸せにしようと、そう決意を表明すると、母さんと父さんも少し落ち着いたのかゆっくりと頷いてくれた。


「ええ、まだよくわからないけど、とにかく母さんも頑張るわ。別に嫌な訳じゃないしレオンを責めてるわけでもないのよ、ただあまりにも突然のことで混乱してるだけよ」

「父さんもだよ。父さんに何ができるのかわからないけど、これから先もレオンのことを守っていきたいと思ってるんだ。レオンはよくわからないほど凄いけど、それでも僕たちの子供だからね」

「母さん父さん、ありがとう……」


 こんな子供をずっと愛してくれる二人は本当に凄いよ。母さん達を取り巻く環境は変わりすぎていて、性格が変わって傲慢になっても、逆に塞ぎ込んでしまってもおかしくないと思う。それなのに皆は今までの本質は変わらず、でも環境の変化には対応してくれている。

 本当にありがたいし凄いことだよ……

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