第220話 新しい道具屋

 それから数日後の回復の日。

 今日はおじさん達が中心街に越してくる日だ。今日までの数日間は、家族皆とマルセルさんが公爵家での暮らしに慣れるように尽力したり、ロニーにある程度の事情を話したりと忙しく過ごしていた。

 ロニー達も同じようなことに巻き込まれる可能性があるからね……ちゃんと話しておくべきだと思ったのだ。


 今日おじさん達には、中心街に着いたらそのまま新居に向かってもらう予定。本当はこっちに来てしばらくは公爵家で過ごしてもらうつもりだったんだけど、公爵家の屋敷では気が休まらないだろうと思い、早めに店舗兼住宅を探したのだ。

 そしたらちょうど市場に空いている店舗があり、そこを購入した。本当に良いタイミングだった。



 俺は今、家族皆と馬車でおじさん達の新居に向かっているところだ。俺の家族の新居はまだ見つかっていないので、先におじさん達の引っ越しになった。


「お兄ちゃん。おじさん達の新しいおうちに行くんだよね?」

「そうだよ。市場の中にあるから賑やかなところだよ」

「いいなぁ〜。私も早く新しいおうちに住みたい!」

「ごめんね。今探してるからもうちょっと待っててね」


 マリーはやっぱり公爵家での暮らしはなんだか落ち着かないようで、最近は早く新しいおうちに住みたいとよく言っている。

 でもいいところが見つからないんだよね……。中心街の中でも入り口近くで、どちらかといえば平民向けのお店にできるように見つけてるんだけど、ここだという建物に出会えていない。

 妥協すればたくさんあるんだけど、どうせなら良いところにしたいからなぁ。


 そんなことを考えながら馬車に揺られていると、おじさん達の新居に着いた。

 新しいお店は表側が市場の大通りに面していて、テントのように屋根を出してお店を広げられるようになっている。居住スペースには基本的に裏側から出入りする。

 しかし馬車が裏通りには入っていけないので、俺たちは表通りから新居に向かい、店の前に馬車を止めた。すると既におじさん達は着いていて、荷物の整理を始めていたらしい。


「おじさんおばさん、ニコラにルークも久しぶり! 何か問題とかなかった? 今のところ大丈夫?」

「ああ、全く問題はないぜ。それにしても良い店だな。立地も最高だ」

「それなら良かった。お店が外に広がるタイプだから、居住スペースとか倉庫のスペースは前より広くなってると思う。家の中全部見てみた?」

「ええ、前よりも広くて部屋数も多かったわ。レオン、ありがとう」


 おばさんがそう言って微笑んでくれる。


「うわぁ〜。ここが新しいおうちなの? いいなぁ〜」


 俺がおじさん達と話していると、マリーが馬車から降りてきてそう言った。それに反応したのはルークだ。


「マ、マリー、久しぶり」

「久しぶり! 新しいおうちいいね。羨ましい!」

「じ、じゃあ、いつでも遊びに来いよな!」


 ルークは顔を赤くして、少し照れつつそう叫んだ。


「本当? たくさん遊びに来る!」

「お、おう」


 でもマリーはそんなルークの様子に全く気づいていない。今はおじさん達の新居に夢中みたいだ。

 最初の頃は「マリーはやらない!」って気持ちしかなかったけど、だんだんとマリー気づいてあげて……って気持ちになってきたよ。


「ニコラ、ルークはあんなにわかりやすいのに、マリーは気づかないのかな?」

「ルークも頑張ってるんだけどな。多分マリーにとって、ルークはそういう対象じゃないんじゃないか?」

「……ルークが、可哀想に思えてきた」

「まあ、そのうちどうにかなるだろ」

「なんかニコラって、子供っぽくないよね? 達観してるというか、年寄りくさい?」

「それ、レオンにだけは言われたくないな」


 ニコラは呆れたような表情でそう言った。


「ちょっと、それどういう意味!」

「まあ気にするな。それよりも、井戸はどこにあるんだ?」

「井戸? ……どこにあるんだろう?」

「知らないのかよ」


 そういえば、ここって中心街の外だし普通に井戸を使うんだったな。最近は水道が普通にある生活だったから忘れてた。


「ロジェ、井戸ってどこにあるの?」


 俺は今日も当たり前のように付いてきてくれたロジェにそう聞いた。


「はい。裏通りを少し進んだところにあります。すぐ近くですので裏側に回ればわかるかと思います」

「ニコラ、だってよ」

「ああ、ありがとな。というか、レオンもロジェさんに頼らないで自分でも覚えてろよな」

「そうなんだけど……、ロジェが優秀すぎるんだよ……」


 確かに最近ロジェに頼りすぎてたかも。自分でも頑張ろう……


「頼ってばかりだと愛想尽かされるぞ」

「確かに……、ロジェ、いつも頼ってばかりでごめんね」

「いえ、レオン様に頼っていただけるのは嬉しいので、これからも今までのようにしていただければと思います。レオン様は、他の方と比べたら従者に頼ることは格段に少ないお方ですし」

「そうなの? じゃあ、これからも頼らせてもらうよ」


 俺とロジェがそうして話していると、ニコラは微妙そうな表情で俺たちをみた。


「まあ、二人がいいならいいけどよ。それにしても、レオン様とか慣れないな。それにレオンに従者っていうのも違和感がすごい」

「それは俺も思う」

「レオンは中心街でどんな生活をしてるのかと思ってたけど、レオンってやっぱり、凄いやつだったんだな」


 ニコラ達には俺の力が公爵家の役に立っているから、良い立場として遇してもらっていると説明してある。

 細かいところは話してないけど、そもそも皆は貴族の仕組みなどをしっかりと理解してるわけじゃないから、なんとなくで受け入れてくれている。


「本当に、公爵家の皆さんには感謝してるよ」

「そうだな。愛想尽かされないようにしろよ」


 そこまで話してニコラは家の中に入っていってしまった。


 そのあとは俺も荷物を運び入れるのを手伝い、数時間かけてとりあえず住むのに不便がない程度には整えられた。


「皆手伝ってくれてありがとな。家の中入ってくれや。何もないが水ぐらいは出せるからよ」

「じゃあ少し休憩させてもらうよ。流石に疲れた」

「そうね。少し休みたいわ」

「じゃあ入ってくれ。椅子は足りないから、床に座るのでもいいか?」

「いいよ」


 そうして皆で家の中に入って、水を飲んで休憩した。


「皆、かなり急な引っ越しになっちゃってごめんね」

「気にすんな。逆にこんなに立派な店を準備してもらって良かったのか?」

「うん! それは全然大丈夫だよ。俺のせいだからお店を準備するのは当然だし、公爵家にも援助してもらってるから大丈夫」


 おじさん達には、俺が大金を持っているということを話すのではなく、公爵家の援助があったということにしてある。その方が受け入れやすいだろうと思ったのだ。


「それならいいんだけどよ。レオンが公爵家とそんなに深い仲だってことに今でも驚くな。従者なんて存在もいるし……おまえ、やっぱりすげぇやつだったんだな」


 おじさん、ニコラと全く同じこと言ってるよ。さすが親子。


「ははっ、そうなんだけど、でも俺は俺だから気にしないでよ」

「まあ、そうだな」


 おじさんはそう言って、俺の背中をバシンッと強く叩いた。

 ちょっ……、おじさん叩くの強すぎる! 水が口から噴き出るかと思ったじゃん。


「レオン、これからもニコラとルークと仲良くしてあげてね」


 俺がおじさんにそのことを抗議しようとすると、おばさんが微笑んでそう言ってくれた。


「うん! もちろんだよ。ニコラ、ルーク、これからもよろしくね!」

「ああ、これからもよろしくな」

「ずっと仲良くしようぜ!」

「マリーも!」

「ふふっ、そうだよね。マリーもだね」

「うん!」


 そうして皆で笑い合って、穏やかに時間は過ぎていった。

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