第168話 カツサンドについての相談
魔法の検証も終えて、そろそろマルセルさんのところに行って冷蔵設備の開発をしないとだな。そう考えていたある日の午後。
とりあえずマルセルさんの工房に行こうかと思っていたら、母さんと父さんに呼び止められた。
「レオン、実はレオンに相談があるのよ。聞いてくれる? 今日は何か予定があるの?」
俺に相談って何だろう。別にマルセルさんのところに行くのは今日じゃなくても良いし、とりあえず二人の話を聞こうかな。そう思って俺は返事をする。
「今日必ずしなきゃいけない予定はないし、もちろんいいよ。でも俺に相談ってどうしたの?」
「実はカツサンドのことについて、相談があるのよ」
「カツサンド? 確かかなり売れてるんだったよね? 持ち帰り限定で販売してるんでしょ?」
俺が首を傾げてそう言うと、父さんが困ったような顔で口を開いた。
「そうなんだけど、最近は他のお店にも真似をされて以前ほどは売れなくなってるんだ。だから何か良い案がないかと思って。カツサンドを考えたのはレオンだろう? 父さんと母さんで他の種類も考えてみたんだけど、カツサンドを超えるものは作れてないんだ」
「そうなのよ……。そこまで欲張らなくて良いかとも思ったんだけど。やっぱりこのチャンスを逃さずに、もっと売れる商品を増やせたらいいと思って。それに、レオンのレシピは売らないと勿体無いわ。スイーツのお店はやるって言ってたけど、食事は出さないんでしょう?」
確かに食事も色々と思い浮かぶものはあるけど、お店としてやる予定はない。そう考えると、うちの食堂のメニューにするのが一番良いのかも。チャンスを逃すのはもったいないし、うちの食堂がもっと人気店になってくれたら嬉しいし。
でも、真似されるのは仕方がないよなぁ。カツはすぐに真似できるような物だし、そのカツをパンに挟むだけだからね。トマトソースもありふれた物だし。うーん、カツサンドを超えるものって言われても難しい。
そもそもこの世界って、元々サンドウィッチはあるんだよね。この辺では見たことないけど、中心街のおしゃれなカフェではあったりする。
確か王立学校の入学式でも出たよね。そのサンドウィッチは確か……、いくつかの野菜と肉の塩焼きを挟んだ物だったはず。
となると、もっと変わり種があった方が面白いだろう。
うーん、卵サンドはやっぱりマヨネーズが欲しいし、ツナは無理だし、照り焼きもソースがないし……、難しい。
後は……そうだ、コロッケなんていいかも!
コロッケなら、カツサンドと同じトマトソースで良いよね。カツとはまた違う味と食感で美味しいかも。それにカツよりも重くないから、カツサンドが重すぎる人にも食べてもらえるかもしれない。
というか、俺も久しぶりにコロッケ食べたい!
「母さん父さん、一つ思い浮かぶものがあるんだけど、試しに作ってくれる?」
「本当かい? もちろん作るよ」
「さすがレオンね! レシピを考えることに関しては天才だわ」
母さんと父さんがそう言って、笑顔で俺の頭を撫でてくれる。なんか嬉しい。母さんと父さんに褒められるの嬉しい。よしっ、頑張って思い出して作ろう!
そう気合を入れて、俺は二人と共に厨房に向かった。
「レオン、それで必要な材料は何だい?」
「えっと……」
確かコロッケは茹でたジャガイモを潰したやつに、ひき肉と玉ねぎを入れて……、後はカツと同じように揚げれば良いはず。
他に何か入れるんだっけ……うーん、思いつくものといったらにんにくとかバターとか、後はにんじんとか?
まあ、何を入れたら美味しくなるかは試行錯誤して貰えば良いか。基本だけ教えることにしよう。
「とりあえず、一番重要なのはジャガイモで、後は細かくしたお肉と玉ねぎ。お肉と玉ねぎを炒める時に、バターで炒めるとより美味しくなるかも。それから、にんじんとか他の野菜もお好みで入れたら美味しくなると思う」
「それなら材料はあるわね。でも、玉ねぎは一年中手に入れるのは難しいわ。ジャガイモなら保存できるかしら?」
「そうだね。ジャガイモは保存して一年中出すこともできるかもしれない。でも玉ねぎは流石にそこまで保存はできないね」
そうか、そうだよ。この世界はいつでも野菜を手に入れられるわけじゃないんだった。完全に忘れてた。
でもジャガイモが手に入るなら、その時期で手に入るものを使っても美味しくできるはずだ。
「ジャガイモとお肉があれば、とりあえず美味しくなると思うよ。後はその季節の野菜を使って作れば良いと思う。あと、ジャガイモをカボチャに変えてもいけるかも!」
確かカボチャコロッケもあったよね。コロッケとはまた違う甘さがあって、カボチャコロッケも美味しいんだ。
「じゃあ、母さんと父さんで色々と試してみるわね」
「うん! 色々とアレンジできると思うからやってみて。じゃあ、考えた中で一番基本的な作り方だけ教えるね。まずはじゃがいもを茹でて、細かく潰すんだ」
「ジャガイモを茹でで潰すのね。じゃあそれは母さんがやるわ」
「うん。その間に父さんは、牛肉と豚肉を細かくしてくれる?」
「細かくってどのくらいだい?」
そう言われると……、どのぐらい細かくすればミンチになるんだろう。まあ、みじん切りぐらいかな。
「うーん、みじん切りぐらいかな。どのぐらいがいいかは後で色々やってみて」
「わかった。じゃあ、後で試してみよう。レオンも味見を頼んだよ」
「もちろん!」
そうして、母さんがじゃがいもを茹でで潰していき、父さんがミンチ肉を作っていく。
最初に終わったのは父さんだ。
「レオン、このぐらいの量でいいかな?」
「うーん、多分良いと思う。じゃあこの肉とみじん切りにした玉ねぎを一緒に炒めてくれる? 今回はバターなしで、他の野菜も入れないでね。味付けは塩でお願い」
「みじん切りの玉ねぎを入れてバターはなしで、味付けは塩だね。じゃあレオン、そこの玉ねぎとって」
「はーい」
ジャガイモってバターがめちゃくちゃ合うし、バターで炒めたら美味しいと思う。でもバターは安いものじゃないから、使わなくてよければその方が良いだろう。
「レオン、そこのフォークを取ってくれる?」
「これ?」
「そうよ」
「レオン、こっちにそこの塩も取ってくれるかい?」
「はーい」
そうして俺も二人の手伝いをしつつ、コロッケ作りは着々と進んでいった。
「よしっ、ジャガイモはできたわ」
「こっちも炒めたよ」
「じゃあ次だね。次は父さんが炒めたものを、母さんが潰したジャガイモに混ぜるんだ。そして混ぜたら塩で味を整えて、手のひらサイズの楕円形に固めたら、それをカツと同じように揚げるの」
俺はそう説明しつつジャガイモを混ぜていき、混ぜたものを成形しようとジャガイモを手に持つ。
「あ、熱っ、熱いっ!」
手に持とうと思ったら熱すぎて無理だった。まだこんなに熱いなんて予想外だ。めちゃくちゃびっくりした。
「レオン!? 大丈夫?」
「火傷してないかい!?」
「うん、大丈夫だよ。何とかセーフ」
「良かったわ。気をつけなきゃダメよ」
「はーい」
それから少し冷めるまで待ち、気を取り直して成形していく。
「こんな感じで楕円形に成形していくんだ。でも形はどんなのでも良いと思う。そしてこれに小麦粉と卵とパン粉をつけて、揚げれば完成だよ。ソースはカツサンドと同じで良いと思う!」
「わかったわ。じゃあ私が成形するから、ジャンは揚げる準備をしてちょうだい。ソースもよろしくね」
「わかったよ」
そうして役割分担をして調理を進め、ついにコロッケが完成した。
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