第169話 もう一つの工夫
「美味しそう!」
さすが母さんと父さんだ。初めて作ったにしてはかなり良く出来てると思う! 形も綺麗だし揚げ上がりも完璧だ。
「味見してみましょうか」
「うん!」
母さんのその言葉を聞いて、俺は揚げたてのコロッケにガブっとかぶりついた。まずはソースをつけずにそのままだ。
「あっ、熱っ……、はふっ、ふ……うん、美味しい!!」
めちゃくちゃ熱かったけど凄く美味しい。衣はサクサクで中はホクホク、味はしっかりとついている。肉の旨味も出てるしマジで美味しい。
次はソースをつけて……ザクッ、うぅ〜ん! めちゃくちゃ美味い! このソースが凄く合う。これは絶対に売れる、絶品すぎる。
「母さん父さん、すっごく美味しいよ!」
「ええ、本当に美味しいわ。母さんはカツよりこっちの方が好きね」
「父さんも凄く好きな味だよ。これは確実に売れる」
「本当? 良かったぁ」
「レオンは本当に天才だね。そうだ、この料理の名前はもう決めてあるのかい?」
「うん! コロッケって名前にしようと思って。だからパンに挟んだらコロッケサンド!」
何の捻りもないそのままな名前だけど、まあそれが一番覚えやすくて良いよね。
「コロッケね。これからはカツサンドと並んで人気商品になるわよ」
「早速明日から始めようか。とりあえずジャガイモを沢山買ってこないとだね。後、お肉はみじん切りにしちゃうから、切れ端とかでも良いと思うんだ。安く売ってもらえるように交渉しないと」
「私に任せなさい。そう言うのは大得意よ!」
「ふふっ、確かにロアナは買い物が上手いよね」
母さんと父さんは、早速明日からコロッケサンドを売り出す話し合いを始めている。
でも、コロッケサンドもいずれは真似されるよね。もう真似されることは仕方がないんだけど、それでもこの食堂が発祥だとわかると良いよな。
何か印をつけたりしたら良いのかな? 日本だったら包装紙に店名を印字するけど、包装紙なんてないし。そもそも店名もないから……。うーん、何が良いだろう。
……パンに焼印を入れるとか?
うん、それありかもしれない! 他のお店と差別化できるだろう。どういう焼印が良いかな。何かのイラストかそれとも文字か。
いっそのこと、漢字っていうのもありかも。俺が書いた文字は全てこの世界の文字に自動的に変換されちゃうけど、文字を書くというよりイラストを描くという感じで漢字を書くと、漢字も書けるんだよね。気づいた時は全く役に立たないと思ってたけど、こういう時には使えるんだな。
漢字って他の国の人が見たら、絵みたいだって言われてたし。
後は何の漢字が良いかだな。サンドだから『挟』とか、揚げ物だから『揚』とか。
うーん、なんかしっくりこない。お店の『店』、食堂の『食』や『堂』……
……そうだ、『族』にしようかな!
家族の族だし、一族や貴族にも使われるから、何となく繋がりとかの意味がありそう。
うん、『族』にしよう! 画数も多いし何となくかっこいいだろう。
焼印は俺が魔法で作るとして、問題は鏡文字にしないといけないことだよね。族の鏡文字は……
ダメだ、何かに書かないとわからない。
「母さん父さん、他のお店に真似される対策としてもう一つ案があるんだけど、それを作ってくるからちょっと待ってて!」
俺は二人にそう言って、中庭に来た。そして地面に族の鏡文字を書いていく。
えっと、こうなって、こうなって……あれ? なんか違うかも。こうして、こっちに線が来て……、待って、めちゃくちゃ難しい。
こうなったら鏡を使おう。俺はアイテムボックスから鏡を取り出して、地面に書いた『族』の字を映し出してどうなるのか確認した。
そして鏡を見ながら、また地面に鏡文字を書いていく。
うん、できた! 後はこれを鉄で作れば良いだけだ。この前魔法の検証で鉄を作ってみて良かった。早速役に立つ時が来たな。
大きさは手のひらの半分以下ぐらいで、漢字の部分が飛び出るように、そして持ち手部分は鉄じゃ無くて石が良い。文字はこれだ。俺は頭の中で構造をイメージしつつ、地面に書いた文字をじっと見てイメージを膨らませていく。
そしてイメージが固まったところで魔法を使う。
うぅ……やっぱりめちゃくちゃ魔力を使う。
ただ鉄の塊を出すより、細かいものを作る方が倍くらい魔力を使うかも。
……はぁはぁ、一気に魔力を使うと疲れる。
でも作れた! 魔力は後一割ぐらいしか残ってないけど、完成したからよしとしよう。
うん、見た目は完璧だ。後は使ってみてだな。
俺は疲れたのでピュリフィケイションを自分で使わずに、アイテムボックスから連結魔石を取り出して、そこにピュリフィケイションの魔法を少しだけ込めて、魔法具でピュリフィケイションを使った。この方が少ない魔力で魔法が使えるのだ。
そうして今作った焼印と自分の手を綺麗にし、厨房に戻った。
「母さん父さん、出来たよ!」
「レオン、それどうしたの?」
「それはなんだい?」
「これは焼印だよ」
「焼印って、なんなの?」
え? この世界に焼印ってないんだっけ?
確かに、思い返してみると見たことないかも。日本だとお饅頭とかどら焼きとかにもよく使われてたけど、そもそもお饅頭なんてないからな。
家具とかにも使われてないっけ?
……いや、確か公爵家の家具には焼印がされているものもあった気がする。多分、高級なものにしかされてないんだな。
そう考えるとうちのパンに焼印して大丈夫かな? まあ、食べ物にしてるのは見たことないし大丈夫か。
「焼印は文字とかイラストを転写するものなんだ。これは鉄で出来てるから、火で熱してパンに付ければパンにこの形が描けるんだよ」
「そんなものがあるのね。でもいつそんなものを買ったの? 高かったんじゃない?」
「ううん、俺が作ったから大丈夫。俺って他の人より魔法が得意でしょ? だから作れるんだ」
俺がそう言うと二人はかなり驚いた顔をしたけれど、すぐに納得してくれた。
母さんと父さんには全属性のことも明かしてるし、魔力量が多いことも明かしてるから隠さなくて良いのは楽だ。二人は絶対に言いふらしたりしないし。
最近隠すのが面倒くさくなってきて、早くどこでも魔法が使えるようになりたい。
「レオンは本当に凄いわね。でも何回も言ってるように、他の人に安易に言っちゃダメよ。レオンなら危険な目にあっても大丈夫なのかもしれないけど、それでも心配よ」
「そうだよ。もしレオンの力を知った人がいたら、危険な目に遭うのかもしれないからね。気をつけるんだよ」
「うん! ありがと!」
純粋に俺のことを心配してくれると、本当に嬉しいな。俺は思わず顔が綻んでしまう。
「じゃあ話を戻すけど、この焼印でパンに印をつければ、カツサンドとコロッケサンドの発祥はうちのお店だって、お客さんに印象付けられると思うんだ」
「確かにそうね。コロッケもそのうち真似されるでしょうし、それは良いかもしれないわ。他に焼印なんてやっているところはないから、確実に目立つわね」
「レオン、パンに印をつけてみてくれないかい?」
「うん!」
父さんにそう言われて、俺は焼印を火で炙ってパンにジュッと押し付けた。
おおっ、結構綺麗についた! 完璧だ!
「こんな感じ!」
「なんだか……、不思議なイラストね。これは何なの?」
「深い意味はないんだけど綺麗かなって思ったんだ。どう思う? 別のイラストの方が良い?」
「いや、父さんはかなり好きだな。カッコいい感じだよ」
「確かにそうね。この印をお店の外にも印字したらどうかしら?」
二人とも気に入ってくれたみたいだ。良かった。
「確かにこの印の看板を作ったら良いかもしれないね。ベンに作ってもらおうか」
ベンって隣のおじさんだよね? おじさんそんなこともできるんだ。
「おじさんって看板とか作れるの?」
「そうだよ。手先が器用で上手く作るんだ。仕事ではやってないけど知り合いのとかはよくやってるよ」
「そうなんだ。凄いね」
「今度頼みましょう」
「じゃあ、この焼印は採用?」
「もちろんよ。レオン本当にありがとう。母さんたち頑張るわ」
「レオンには本当に助けられてるよ。ありがとう」
そう言って俺の頭を優しく撫でてから、母さんと父さんは焼印を押す仕事はいつやるか、パンの両方につけるかなど色々と話し合いを始めた。
うちの食堂の役に立てて良かった。
「あっ、そうだ。もし壊れちゃった時のために何個か作って、二階の部屋に置いておくね」
「ありがとう。厨房で使うものが置いてある場所に置いておいてくれるかしら? 新しい布で包んでおくのよ」
「うん! 一日に一個しか作れないからまた明日作るよ。じゃあ俺はリビングで休んでるね」
「ええ、ありがとう。そうだ、まだお腹は空いてる?」
「うん、まだまだ食べられるよ」
「じゃあ、コロッケサンドを一つ作るからおやつで食べなさい」
「本当に!? ありがとう!」
そうして俺はコロッケサンドを一つもらってリビングに戻った。ちょうどマリーが出かけてる日だったから、帰ってきたら大はしゃぎだろうな。
コロッケに大騒ぎするマリーの様子を思い浮かべて、幸せな気持ちになりながらコロッケサンドを食べた。
うん、最高に美味い。幸せだ。
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