第166話 魔法の検証 中編

 よしっ、あと検証したいのは他の人を連れて転移できるのか、それから大きな物も一緒に転移できるのか。その辺かな。

 他の人に検証に付き合ってもらうのは難しいから、とりあえず物の検証だけはしておこう。


 そう考えて、俺は河原にある大きめの岩と一緒に転移してみることにした。

 俺の腰ほどの高さで、持ち上げることはできないほどの大きさだ。遠くへの転移は魔力さえあればできることが分かったから、とりあえず近くに転移してみる。

 岩に手を触れて一緒に転移するイメージで転移魔法を使うと……、大きな岩も一緒に転移することができた。

 思いの外簡単にできたな。必要な魔力量もそこまで増えてない。もっと必要な魔力量が増えるかと思ってた。


 じゃあ次は、岩に触れないで一緒に転移できるか試してみよう。そう思って岩の隣に立ち、岩には触れないで一緒に転移するイメージで魔法を使う。

 おおっ……できた。さっきよりも魔力は必要だけど、転移はできる。結構使い勝手の良い魔法かも。

 後は何かあるかな。そうだ、大きな物じゃなくて物の数を増やしてみよう。俺は足元にある沢山の小石と一緒に転移してみた。すると、岩と一緒に転移した時と同じぐらいの魔力消費量で転移できる。

 凄いな。結構万能な魔法かも。


 じゃあ後は……、物だけを転移させられるかだな。俺は自分は転移せずに岩だけに転移魔法を使ってみた。いや、厳密には使おうとしてみた。しかし魔法は発動しない。

 ということは、転移魔法は俺が転移する前提で他の物も転移させられるってことだな。



 色々と検証してみた結果。

 転移魔法は物と一緒に転移しても消費魔力量はあまり増えない。大きい物でも数が多い物でも消費魔力量は同じぐらい。ただ、一緒に転移したい物に触れていた方が消費魔力量は少なくなる。物だけを転移させることはできない。こんな感じかな。

 転移魔法は、今いる場所と転移先の間を時空間で繋げるようなイメージだから、そこを繋げるのに一番魔力を消費するのだろう。そしてその時空間をどれだけの物が通るかは、あまり関係がないのかもしれない。

 さらに時空間を繋げるのに、距離が長くなればなるほど魔力を消費するんだと思う。うん、何となく転移魔法がわかってきたな。

 後は人と転移できるかだけど、多分物と同じように一緒に転移できる気がする。また機会があったら人でも試してみよう。


 よしっ、とりあえず転移魔法の検証は終わり。当面の目標は魔力量を増やすことだな。

 次はアイテムボックスだ。アイテムボックスに生物を入れられるのか試そう。


 俺は手軽に捕まえられるということで、土の中にいる虫と川にいる魚を捕まえることにした。

 虫は土魔法で土を掘り返せばすぐに見つかる。うん、でかいミミズが発見できた。気持ち悪い……

 後は魚だ。この前はマリーと釣りを楽しむってことで頑張って釣ったけど、今日は魚を捕まえることが目標だから、魔法を駆使しよう。


 俺は川の中に泳いでいる魚を見つけて、土魔法でその魚の真下の土を尖った石針のように変形させ、下から魚を貫いて捕まえた。

 やった! さすが俺、頭いい! そう思って意気揚々と魚を回収して気付いた。


 ……やばい、突き刺したら魚は死んじゃうよ。


 生きてる魚をアイテムボックスに入れないと意味無かった! ミスった……ま、まあ、そんなミスもあるよね。

 気を取り直して、今度は水魔法を使って魚を捕まえることにした。土魔法を周りの土を使用して使うように、火魔法や水魔法も周りの火や水を使用して使うこともできるのだ。

 土と違ってそもそも火や水を準備するのが大変なので、火魔法や水魔法は魔力から作り出すことがほとんどだけど、一応既にあるものを使うこともできる。


 そこで、俺は魚が泳いでいるところをウォーターボールにして、魚を捕まえることにした。そして無事成功した。完璧だ!

 後はここから魚を手掴みで捕まえれば……あれ? 待って、あっ……え? 何で……とうっ、えいっ……!


 はぁはぁ、魚を手掴みで捕まえるのって、こんなに難しかったの? もう全身びしょ濡れなんだけど、なんか効率悪いことしてる気がする。

 そうだよ、土魔法で大きな桶を作って、そこにウォーターボールごと入れればよかった。そこから少しずつ水を抜いていけば楽だったよ。


 でも、今それをやったらなんか負けた気がする……。どうせもうびしょ濡れだし、手掴みで捕まえてやる!

 こいつと俺の真剣勝負だ!


 俺はそう意気込んで、それからまた数分魚と死闘を繰り広げ、遂に魚を捕まえることに成功した。


「遂に捕った!! 俺の勝ちだ!」


 と、そこで我に返る。

 何でこんなに馬鹿なことを真剣にやってたんだろう……ま、まあ、達成感あったしいいとしよう。


 そうして俺は、最初に捕まえたミミズと小さな桶に入れた魚を、アイテムボックスの中に収納する。収納できるのかと心配したが、その心配とは裏腹に普通に収納することができた。とりあえず生物を入れることは可能らしい。後は取り出してどうなっているかだな。

 そう考えて、アイテムボックスに入れた数秒後に取り出してみる。


 …………おう、マジか。


 さっきまでうねうね動いていたミミズも、ピチピチと跳ねていた魚も、どっちも完全に死んでいるようだ。一切動かない。

 衝撃なんだけど……。アイテムボックスに生物を入れると死ぬってことだよね? え、待って、これって人とか入れられるの?

 マジで怖いんだけど、そんなに怖い物だったのアイテムボックスって!? でも、人で試してみることなんてできないよね。ちょっ、ちょっと待って、転移は大丈夫だよね?


 俺はそう思い慌ててもう一匹魚を捕まえて、その魚と共に転移してみた。

 すると簡単に転移できて、転移した後も魚は元気にピチピチと跳ねている。ふぅ〜、とりあえず良かった。転移は大丈夫そうだ。

 問題はアイテムボックスだな。万が一にも間違えて人を入れないように気をつけないと。


 ……でも、よく考えたら、魔物と戦う時はこれ以上最強の攻撃はないんじゃないか? だって、触れるだけで収納できて、取り出したら死んでるんだよ?

 魔物も収納できるのかな……でも魔物だって、魚とかと一緒だよね。


 …………いや、違うか。


 確か魔物は魔力があるんだ。もしかしたら、魔力を持つものは収納できないとか、そんな性能の可能性もある。もしそうなら、人間にも魔力があるから収納できないことになる。

 あれ? でもそういえば、俺ってあの空間に手を入れられるよね? あの空間に入ることってできるのかな。


 思いついたらかなり気になる。とりあえず、どこまで入れるのか実践してみよう。試してみないと、怖くてこれから使えなくなりそうだ。

 俺はアイテムボックスの入り口を作り出して、慎重に、かなり慎重に、手を入れていった。いつも無造作に手を突っ込んでいたけれど、先程の魚たちをみたら怖くて慎重になってしまう。

 でも、自分の魔法で死ぬことはないと思うんだ。そう考えつつ慎重に手を奥に入れていくと、肩の少し手前ぐらいのところでそれ以上入らなくなった。

 両手を入れてみると、肘ぐらいまでしか入らない。


 はぁ〜、マジで良かった。多分俺が入れる体積が決まってるんだな。ということは、万が一にも俺がアイテムボックスに入って死ぬことはないってことだ。本当に良かった。

 後の問題は人と魔物が入れられるかだけど、とりあえず魔物の森に行けた時に、魔物を入れられるか試してみよう。もしそれができたら人も入れられる可能性が高い。

 もしできたら魔物を簡単に倒す手段になるけど、それでも魔物が入らないことを願っちゃうよ。だって人間も入れられるとか怖すぎる。

 とりあえずこれからも便利だから使うけど、細心の注意を払おう。

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