閑話 女神様の成長(ミシュリーヌ視点)
な、な、なんということなの……
私は久しぶりにレオンの様子を覗いて、その光景に衝撃を受けた。
最近は私なりにちゃんと神力を溜めていたのよ。女神像を定期的に光らせて信仰心も上がったから、前よりも格段に溜まるようになった。神域外にいる王に神託をするにはもう少し時間がかかるけど、それでもあと半年ぐらいで溜まるはずだったのよ……
それなのに、それなのに……、何で生クリームなんて開発してるのよ!? 生クリームが嫌な訳じゃないのよ、逆に大好きよ! あの甘くてふわふわでとろける食感、埋もれたいぐらい好きだわ。本当ならレオンには褒美を与えたいぐらいだけど……でも、でも、今じゃないでしょ!?
今は神力を溜めないといけないから、生クリームを作り出せない。生クリームとカラメルが乗ったパンケーキ……食べたい、凄く食べたい、でも神力を溜めないと。
でも食べたい、少しぐらいならいいかしら? いや、一度食べたら少しじゃ止まらないわ。でも食べたい……
だ、ダメよ、ミシュリーヌ、我慢よ。このままだと本当にこの世界が滅びちゃうわ。でも、あんなに美味しそうなものが。白くて、甘くて、とろけて……じゅるり。ひ、一つぐらい……
――ダメ! やっぱりダメ!
ここは我慢よミシュリーヌ。神託をしてから好きなだけ食べれば良いのよ!
「うわぁ〜ん! なんでレオンは今開発するのよ!」
私は断腸の思いで下界を覗く扉を消した。
はぁ、はぁ、とりあえず耐えたわ。でもさっきまで見ていた美味しそうな生クリームが……目を閉じても開いても浮かんでくる!
もうどうすれば良いの!? そうだ、何か気が紛れることをすれば良いのよ。何が良いかしら……神力を使わずにできること。この空間にあるものを使って……
そう考えて、私は自分の神界を見回した。でもこの空間って、本当に何もないのよね。神界は神力さえ消費すれば自分の思い通りに作れるけど、私は神力を他のことに使っているから、まだ神界には殆ど何もない。
シェリフィーのところは日本や世界中の昔の建物や現代の建物が何十個もあって、遊ぶところも沢山あるのよね。私はボウリングと温泉が好きだわ。あとカラオケも楽しいわね。頑張っていくつか曲を覚えたんだから!
……はぁ〜、そんなことを今考えてもしょうがない。シェリフィーのところに行くのは禁止にされちゃったし。私とシェリフィーは同じ頃に生まれたはずなのに、何でこんなに差があるのかしら。私は運がないのよね……
とりあえずここには地面とソファーと机と、シェリフィーが持ってきてくれた大きな棚しかない。
棚にはシェリフィーが持ってきてくれた日本の甘味に状態保存をかけて入れておいたんだけど、何日か前に食べきってしまった。やっぱり一日に五個じゃなくて四個までにすれば良かったかしら……
何冊かシェリフィーがくれた漫画本ならあるけど、もう何百回も読んだし、面白いけど生クリームの誘惑には勝てない。こんなことならもっと面白いものをもらっておけば良かったわ。いつもスイーツばかりもらってた私のバカ!
はぁ……、神は何も食べなくても生きていけるはずなのに、何でこんなに我慢できないのかしら。
それもこれも、スイーツが美味しすぎるのが悪いのよ。それに神の身体も悪いわ。いくら食べても太ることもお腹を壊すこともないし、ずっと永遠に楽しめるのがいけないのよ! 満腹も感じないから本当にいくらでも楽しめる。
でも満腹を感じない代わりに空腹も感じないはずなのだけど……でも、空腹を感じなくても美味しいものは食べたいわよね。それが普通よ。
もう、限界だわ……さっき見た生クリームが鮮明に思い出される。目を閉じたらあの白いクリームのことしか考えられなくなる。一つだけならいいわよね。一つだけ、一つだけなら……
私が誘惑に負けて、神力を使い生クリームのパンケーキを作り出そうとしたそのとき……神界にお客様がやってきた。
「ミシュリーヌ、頑張ってる? 様子を見にきたわよ。それにしても……いつ来てもここは殺風景ね」
「シェ、シェ、シェリフィ〜!!」
「うわっ……何よ。どうしたの?」
「うぐっ、ひっく、ひくっ……」
「ちょっと、なんで泣いてるのよ!?」
「レオンが、レオンが、生クリームのパンケーキを作り出したのよ!?」
私が泣きながらそう叫ぶと、さっきまで心配そうだったシェリフィーは呆れたような顔をした。
「レオンって、日本から転生させた子よね?」
「そうよ。そのレオンが生クリームを作ったのよ!」
「良いことじゃない」
「でも、今の私は食べられないのよ……」
「そんなの我慢すれば良いだけじゃない。神託をするための神力を溜めているんでしょう?」
「そうよ。あと半年ぐらいで溜まるわ」
「凄いじゃない。その調子で頑張りなさい」
シェリフィーは軽くそう言ってソファーに座り、お茶を時空間から取り出して優雅に飲み始めた。
「ちょ、ちょっと、シェリフィー! 私にとっては大問題なのよ。何とか耐えてたけど、耐えきれなくなってたところだったんだから」
「何か他のことでもして気を紛らわせなさい」
「そうしようとしたわよ。でもここには何もないの!」
「確かにね……もう少し神界も充実させなさいよ。いつ来ても殺風景で、眷属の一人もいないし」
私もそうしたいけど神力が足りないのよ。シェリフィーのところは眷属が沢山いて良いわよね。一緒に遊ぶことも話すこともできるし楽しそうで。
それにシェリフィーが信仰されなくても、眷属が信仰されていれば神力は溜まっていくのだから。シェリフィーの潤沢な神力が羨ましい。
本当に、何でこんなに差があるのかしら……
「そうしたいけど、神力がないのよ。何でこんなに差があるの!」
「ミシュリーヌが計画的に神力を使わないからよ。でも今少し我慢をすれば、そのうち神力にも余裕ができて、私のところみたいにできるわよ。そうだ、前の世界からの神力はないの?」
「前の世界は人間がいなくなっちゃったから。少しは神力が溜まるけど微々たるものよ。やっぱり高度な意思を持つ種族がいないとダメね。信仰してもらわないと神力はほとんど増えないわ」
「確かにそうね。その中でも人間はすぐに増えるし神力には最適な種族よね。まあとにかく今は我慢よ。今我慢してミシュリーヌの世界ミユソルーテを救えば、すぐにいくらでもスイーツを食べられるようになるわ」
「そうよね……」
そうよ、今我慢すれば上手くいくはずなのよ。人間はまだ絶滅してないし、私が神託をすればレオンが世界を救ってくれるはず。そうすれば地球のように発展するはず!
今は我慢よ、ミシュリーヌ、頑張るのよ!
「……今は我慢する。この世界の行先を考えたら我慢できる。頑張る、頑張るのよ私」
「じゃあ、そんな頑張ってるミシュリーヌにプレゼントがあります」
「プレゼント! 本当!?」
「ふふっ……本当よ」
そうしてシェリフィーが出してくれたのは、大量のスイーツが詰められた棚だった。さらに机の上には、新しい漫画本と小説も沢山ある。
「全てに状態保存はかけてあるわ。計画的に楽しむのよ」
「シェ、シェリフィー、ありがどう〜、ひっぐ……」
「ちょっと、こんなことでそんなに号泣しないでよ」
「だって、うれじいんだもん……えぐ、ひっぐ……」
「汚いわね、泣き止みなさい。漫画本と小説は最近のおすすめよ。特にこの小説! この作者の小説が最高に面白いのよ! この作者が死んだら、魂を神界に呼び寄せて望めば眷属にしようかと思ってるわ」
シェリフィーがキラキラした瞳でそう言った。シェリフィーは本が大好きなのよね。シェリフィーの神界には馬鹿みたいに大きい図書館があって、本の数は行くたびに増えている。
「それは良かったわね」
「そうなのよ!」
それからは、しばらくシェリフィーによる小説のおすすめポイントを聞いた。そして数時間経って、やっと満足したシェリフィーは自分の世界へと帰っていった。
凄くありがたいけど、楽しかったけど、ちょっと疲れたわ。でも気分転換になったし地球のスイーツももらったし、もう少し頑張れそう。
シェリフィーありがとう! 大好き!
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