第116話 特別教師
ロニーと別れて研究会に向かい、教室の扉を開けると既に皆揃っていた。まだロンゴ先生は来てないようだ。
ステファンとリュシアンは各々新しい魔法具を考えていて、マルティーヌと先輩二人はピュリフィケイションの魔法具を研究しているみたいだ。
二人の先輩たちも最初は恐縮しっぱなしだったけど、流石に少し慣れて来たようでマルティーヌとたまに言葉を交わしながら研究している。
俺もまたピュリフィケイションの魔法具を考えるか。そう思って三人の方に向かった。
「遅れて申し訳ありません」
「私達も今始めたところよ。また魔力量を少し増やしてみたけどダメみたいだわ」
「そうですか……」
俺たちは今、魔石に込める魔力量によって魔力効率が変わるのではないかを試しているところだ。
少ない魔力から始めて段々と増やして試しているが、今のところ魔力効率への変化はない。
「とりあえずこのままこの検証は続けますが、望みは薄そうですね」
そう言ったのはロイク先輩だ。最初はこちらから質問しなければ一切話さなかったのに、最近はマルティーヌを交えて議論もできるようになって来た。
「まあ、諦めずにやりましょう」
「かしこまりました」
そうして俺たちがいつものように研究を開始して数分後、教室のドアが開きロンゴ先生が入って来た。
「皆いるな。今日は全員に集まってもらって悪かった。実は、今日は特別教師を連れて来たんじゃ」
特別教師? 新しい魔法具を思いついたんじゃなかったのか。特別教師って誰だろう? 魔法具工房の人かな。
俺がそんなふうに色々考えていると、ロンゴ先生に続いて先生と同じくらいの年齢の男性が教室に入って来た。
俺はその人を見て、思わずフリーズしてしまった。
え!? なんでここにいるの!?
「特別教師をしてくれる、マルセル・ロンコーリ殿だ」
「マルセル・ロンコーリじゃ。今日一日だけだがよろしく頼む」
「マルセルはわしの昔馴染みでな、火属性の魔法具を開発したのはマルセルじゃ。また、マルセルは回復属性じゃから、今研究しているピュリフィケイションの魔法具に助言してもらうといい」
「わしが何かできるかは分からんが、できる限り協力しよう。今日一日よろしく頼む」
確かにロンゴ先生はマルセルさんと知り合いだって聞いてたけど、まさか王立学校に連れてくるとは。
本当にびっくりした。
俺がまだ驚きから抜けきれずにフリーズしていると、皆が椅子から立ち上がりマルセルさんのところに集まった。
「マルセル殿、ステファン・ラースラシアだ。よろしく頼む」
「マルティーヌ・ラースラシアですわ。よろしくお願いしますね」
「王子殿下、王女殿下、お初にお目にかかります。マルセル・ロンコーリと申します。よろしくお願いいたします」
「マルセル殿のことは魔法具の開発者として知っている。国の発展への寄与、感謝する」
「勿体無いお言葉です。今後も精進いたします」
そうしてマルセルさんは全員と挨拶をして、ついに俺の番になった。
「レオン、久しぶりじゃな」
「お久しぶりです。マルセルさんが来るなんて想像してなくて、凄く驚きました。でも嬉しいです! 何かこんなことを言ったら失礼かもしれませんが、マルセルさんがいると実家に帰ったみたいに落ち着きます」
俺がそう言うとマルセルさんは一瞬フリーズした後、優しく笑ってくれた。流石に失礼なことを言いすぎたのかと思ったけど、良かった。
「わしもレオンに会えて嬉しいぞ。やはり破天荒な奴がいなくなると家の中が静かでな」
「それって、俺がうるさいってことですか!?」
「まあ、確かに騒がしいかもしれんな」
そんなことないはず。いや、でも確かにマルセルさんには、迷惑ばかりかけてるかも……
俺がそうして今までの行いを思い出していると、マルセルさんがふと思い出したように言って来た。
「そうじゃレオン、お主この前に光球の改良魔法具登録をしたじゃろ?」
「はい、しましたけど……」
「そのおかげでわしにもまたかなりお金が入って来そうじゃから、一応礼を言っておくぞ」
うん? 何でマルセルさんにお金が入るんだ?
俺以外でお金が入るのは、元々の光球の開発者だけだと思うけど。
……え、もしかして光球の開発者ってマルセルさん!?
「マルセルさんが光球の開発者だったんですか?」
「うん? そうじゃよ。もしかして言ってなかったか?」
「聞いてませんよ!!」
「そうじゃったっか? 言ったような気もするが……」
「絶対に聞いてないと思います」
「そうか。まあ今言ったしいいじゃろう」
そういえば最初の頃にマルセルさんが、何かを開発した功績で騎士爵がもらえる予定だったって言ってたよな。
それが光球だったのか。ちょっと考えればわかることだったな。既存の魔法具って四つしかなかったし。
「感動の再会はそろそろ終わりにしてもらってもいいじゃろうか?」
俺が色々考え込んでいると、ロンゴ先生が揶揄うような口調でそう言って来た。
「別に感動の再会なんてしてません!」
「感動の再会なんかじゃないわい!」
マルセルさんと完全にセリフがかぶってしまった。その事実に俺は何となく恥ずかしくなってしまい、それ以上反論するのをやめた。
周りの皆も生暖かい目で見るのはやめてくれ! 特にリュシアン!!
「わかったわかった。じゃあ、そろそろ研究を再開してくれ。マルセルはマルティーヌ様のところじゃ」
「わかった。王女殿下、よろしくお願いいたします」
「私のことはマルティーヌでいいわ。よろしくね」
「かしこまりました。マルティーヌ様」
俺たちは今度は五人で、さっきまで研究していた机に戻った。
「今までにどのような研究をしていたのか、お聞きしても良いでしょうか?」
「ええ、今までは魔石に込める魔力量によって、魔力効率が上げられないかの検証をしていたわ。ただ、望みは薄そうね。あと考えているのは、魔鉄の大きさで魔力効率が変わるのか、魔鉄と魔石が触れる面積で魔力効率が変わるのかよ。どう思われるかしら?」
「そうですね……どれも良い結果にはならない可能性が高いと思われます。何故なら、似たような検証は今までに何度もされているので……」
「やはりそうなのね」
そこで皆黙り込んでしまった。ピュリフィケイションの魔法具は本当に難しい。どんなイメージをしてもあまり効果はないんだよな。
唯一効果があったのは、魔法具にする時に漠然と汚いものを綺麗にするイメージよりは、何を綺麗にするのかを明確にイメージして特定の物を綺麗にする魔法具にした方が、消費魔力量は抑えられる。
ただ、普通にピュリフィケイションを魔法で使うときはやってることだから、そのイメージをしても魔力効率が悪いのは変わらない。もっと何か違う発想が必要なんだ。
例えば魔石を砕くとか? そういえば割れた魔石ってどうなるんだろう?
「マルセルさん、割れた魔石ってどうなるんですか?」
「ああ、割れた魔石は全く使えなくなるんじゃよ。だからただの宝石として加工されるか廃棄されるかじゃな。ただ、魔石はかなり頑丈じゃから、割れることなんて滅多にないぞ」
「そうなんですね……一度溶かして再度丸く加工してもダメなんですか?」
「ああ、確か試そうとしたらしいが、そもそも溶けないと聞いたことがある」
溶けないのか……、でもそれなら温度が低いだけの可能性もあるよな。この世界って鍛治は結構進んでるから、最低でも鉄が溶ける温度では試したんだろう。でも、それ以上で溶けるのかもしれない。日本にも融点が高い金属はあったし。
試してみたいな。この世界には魔法があって俺は魔力が豊富だから、高温の火は作れる気がする。
でも全属性は明かせないし、これは試してみるにしてもまた後でだな。後で絶対に試そう。
でもこれが今試せないとなると、また他の方法を考えないといけない。他に何かあるだろうか……
あれ? そういえば製氷機の時に魔石を二個つけたけど、あの時みたいに魔石を何個もつけても意味ないのかな?
あの時は別の属性のもので二個だったけど、今度は同じ魔法を込めた二個にすれば、魔力効率が上がったりしないかな。
「あの、魔石を二個つけるのはどうでしょうか?」
「ああ、それも前にやったことがあるが、結局は意味がなかったぞ。魔力効率は一切変わらなかった」
魔力効率が一切変わらないんじゃ、魔石を一つつけて何度も魔力を補充するのと、魔石を複数つけて補充回数を減らすくらいの差しかないってことか。
しかも補充回数を減らすって言っても、一つの魔石に魔力を補充するので精一杯の人が多いから、魔力を補充してくれる人が見つからなかったら、結局一つの魔石しか使わない結果になりそうだな。全く意味がない。
うーん、なんとか複数魔石をつけることで魔力効率が上がるといいんだけどな。
一つ一つに魔力を込めると効果がない。なら魔石同士をくっつけるとか? いや、それで解決するなら既に誰かがやってるだろ。
あとは……複数の魔石を一つの魔石だと思って同時に魔力を込めるとか? そんなことできるのだろうか?
でも試してみる価値はありそうだ。
「マルセルさん、複数の魔石を一つの魔石だと思って、同時に魔力を込めたらどうでしょうか?」
「それは試したことはないが、そもそも一つの魔石に魔力を込めるので普通は精一杯なのじゃ」
そうだった……。でも、満タンに魔力を込めなければできるよな?
「満タンに魔力を込めなければ良いのではありませんか?」
「確かに……それは試したことがないかもしれんぞ。やってみるか」
そう言ってマルセルさんは、ロンゴ先生から魔石を五つと魔鉄をもらい戻ってきた。
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