第91話 スイッチ機能
魔法の授業を終えて魔法具研究会の教室に向かっているが、マルティーヌと一緒なのでさっきからすれ違う人皆に見られていて居心地が悪い。早く着いてくれ〜!
「レオンは先程のライトで、魔力量はどの程度残っているのですか?」
「そうですね、先程のライトではほとんど魔力量は減っていません。私も正確なことは分かりませんが……」
俺は周りに人がいないことを確認して、小声でそう言った。誰かに聞かれたら大変だ。
ライトの魔法は魔力効率が良い魔法なので、あまり魔力を消費しないのだ。俺にとってはあの程度なら魔力量にはそこまで変化がない。
「そ、そうなのですね。流石レオンですわね……」
マルティーヌも小声でそう返してくれた。
「マルティーヌ様は、先程のライトではどの程度魔力を消費したのですか?」
マルティーヌは周りの子ほどではなかったが、少し疲れているような様子だった。
「そうですわね……半分以上は確実に消費しましたね」
そんなになのか!? マルティーヌは魔力量が五の中でも結構多い方らしいから、他の人はもっと魔力を消費したってことだよな。それは疲れてるよ。
普通の人って予想以上に魔力量が少ないんだな……これだと攻撃魔法があまり発展しないのも理解できる。すぐに尽きる魔力を頼りにするよりも、剣の腕を上げた方が確実だもんね。
「レオン、ライトの魔法も魔力効率を上げるイメージはないのですか?」
マルティーヌが、俺に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でそう聞いてきた。
うーん、ライトの魔法は色々試してみたんだけど、効果的なイメージが思いつかないんだよな。
日本だと電気で光がつくからそれをイメージしようとしたんだけど、電気の仕組みをほとんど理解してないからか、あまり効果がなかった。
それからは考えることを放棄したんだ……ライトの魔法は元々魔力効率が良いから、真剣に考える必要がなかったんだよね。
「効果的なものが思いついていないのです。もし思いついたらお教えいたします」
「そうなのですね。もし思いついたらお願いしたいですが、無理にとは言いませんわ。私にはライトの魔法を使う機会はほとんどありませんので」
確かに、どこにでも光球があるから使わないよな。
「かしこまりました」
そんな話をしながら歩いていると、魔法具研究会の教室に到着した。
扉を開けると、そこにはミゲル先輩とロイク先輩、ロンゴ先生がいた。リュシアンとステファンはまだ来てないみたいだな。
「おお! レオンやっと来たか! マルティーヌ様、お越しくださり光栄です」
「私は魔法具研究会に所属しているのですから、来るのは当たり前ですわ。ここは学校です。そこまでかしこまらなくてもよろしいのですよ」
「かしこまりました。ありがとうございます」
ロンゴ先生、マルティーヌと話してる時にチラチラと俺の方を見たらダメだよ。ロンゴ先生は本当に魔法具馬鹿なんだな。
「ロンゴ先生、スイッチの機能はどうなりましたか?」
「完璧じゃよ! この魔法具を見てくれるか? レオンが説明してくれた通りの形で作ってみたのじゃ。ただ、そのままだと魔石が魔鉄に触れた状態で維持されないという問題があったから、そこは改善しておいたぞ」
確かにそうか。シーソーに全く同じ重さのものが載っていたら、水平になるよな。片方を押しても手を離せば水平になるな。
「押した方に少しだけ板がズレるようにしてある。右を押したら板が少し右にズレるので、右の方が重くなり押さえていなくても板が水平に戻ることはない。逆を押した時も同様だ」
おおっ! 確かにこれなら水平に戻ることはないな。シーソーの支点が移動するって感じだ。ただ、これだとスイッチ機能は壁などに横向きで取り付けるのは難しい。
まあ、そこは別に良いか、基本的に魔法具に取り付けるものだしな。わざわざ壁に嵌め込むと魔石の交換が大変だし。
それよりもこれって俺の目から見ると結構細かいけど、この世界って鍛治の技術力は高いのかな? うーん、よく分からないけど、高いのなら問題ないか。
「素晴らしい機能ですね。改善までしていただきありがとうございます」
「そうだろう! スイッチを押してみてくれるか?」
「私が押して良いのですか?」
「お主が考えたのだからな」
「では、押させていただきます」
俺はそっとスイッチに手を添えて、右側を押した。魔石は右側につけることにしたのだ。
押した感じはすごく軽くて、右側に板が少しだけスライドして固定された。魔石が魔鉄にコツンと当たる音が結構綺麗だ。
上を見上げると光球がしっかりと部屋を照らしている。
これは便利だな。魔石を紛失する心配もいらなくなるし、わざわざ嵌め込むのよりよほど楽だ。
俺は今度は左側を押してみた。さっきと同じように左側に固定されて、光球は消えた。完璧だ!
「完璧ですね!」
「そうじゃろう! では、次の回復の日に技術登録に行くぞ。その日に光球の改良版の魔法具登録もするからな」
俺だけの技術登録でいいのかな? それに、光球の魔法具登録もするの?
「技術登録は私の名前だとおっしゃられていましたけど、改良して下さったのはロンゴ先生と鍛治師の方ですから、三人での技術登録でなくてもいいのですか?」
「いや、こういうのは最初のアイデアを出した者と決まっている。最初の発想が大事なんじゃ。そこがあれば改良なんぞ誰にでもできるわい」
そうなのか……? まあ、それならありがたく登録させてもらおう。
「そうなのですね。では、ありがたく登録させていただきます。それから、光球の魔法具登録もするのですか? 光球は既に登録されていると思いますが」
「ああ、既存の魔法具を改良した場合は改良版として登録し、使用料の三割をもらうことができるんじゃよ。まあ、有益な改良として認められた場合だけじゃがな」
そんな仕組みもあったのか、結構しっかりしてるよな。改良版の魔法具登録なら登録してもいいのかな……? うーん、さすがにリシャール様に確認したほうが良い気がして来た……今度確認してみよう、技術登録のことも。
「そのような仕組みもあったのですね。そちらの登録もお願いしたいのですが、私の名前で登録しても良いのか確認してからでも良いでしょうか?」
「ああ、構わんよ。登録の日までに確認して来てくれ。もしダメならばどうするのかも決めて来てくるのじゃぞ。それで、回復の日に王立学校の正門前に集合でいいか?」
「はい。時間は何時ごろでしょうか?」
「わしは何時でも良い」
うーん、回復の日はロニーと初めての屋台をやる予定なんだよな。屋台は午後からだとしてもその前に必要なものを買い揃えたいし、できるだけ早い方がありがたい。
「私はできる限り早い時間が良いのですが、登録にはどれほどの時間がかかるのでしょうか?」
「登録は三十分程で済むだろう。登録は九時からじゃから、それより早く行っても意味はないぞ」
「それならば、正門前に九時でよろしいですか?」
「ああ、それで良い」
「かしこまりました。よろしくお願いいたします」
よしっ、その時間なら十時過ぎには終わるだろうから、それから買い物もできるな。学校に通い始めて初めての休日なのに、かなり忙しくなりそうだ……
「レオン、話は終わりましたか? それならば私もスイッチを押してみて良いかしら?」
マルティーヌにそう話しかけられて、ロンゴ先生との話に熱中しすぎたことに気づいた。
やばいと思って急いでマルティーヌの方を振り返ると、マルティーヌは別のテーブルで、二人の先輩方とピュリフィケイションの魔法具について話し合っていたようだ。先輩たちがめちゃくちゃ緊張している。
流石にまだ慣れないよな。先輩たち、放っておいてごめんなさい……
「はい。感想をいただけたら嬉しいです」
俺は自然な笑顔を作ってマルティーヌにそう言った。今回は笑顔が引き攣らなかった。最近ポーカーフェイスが上手くなってきたかも!
「かしこまりました」
「こちらがスイッチ機能のついた光球です。右側を押すと光球が出現し、左側を押すと光球が消えます」
俺がマルティーヌのところに持っていき説明していると、先輩二人も興味深そうに眺めている。先輩たちにも試してもらおう。
「マルティーヌ、それがスイッチ機能付きの光球か?」
うわっ……いきなり真後ろから声が聞こえた。めちゃくちゃビックリした。
後ろを振り返ると、ステファンとリュシアンだ。部屋に入ってきたのに気づかなかったよ。
「お兄様、その通りですわ。今試してみようと思っていたのです」
「そうなのか。ではやってみてくれ」
「かしこまりました」
マルティーヌがスイッチを押すと、先程と同じように光球が出現する。
「おお、これは便利だな。マルティーヌ光球を消してみてくれ」
「はい。まあ、すぐに消えましたわ。これはかなり便利ですわね。いつもメイドたちは光球の取り外しが大変そうですもの」
「これは凄いな。かなり便利になる」
ステファン様は興味深げに魔法具を手に取り、スイッチをオンにしたりオフにしたりしている。
「ステファン様、私も押してみて良いでしょうか?」
リュシアンが隣からそう声をかけた。目がキラキラしているので好奇心が抑えられなかったみたいだ。
ステファンが少し苦笑しながら、リュシアンに魔法具を渡す。
「おおっ! これは凄いですね。これがあればかなり便利になると思われます。パーティー会場には早めに設置すべきではないでしょうか?」
「確かにそうだな。あのシャンデリアの魔石の取り外しはかなり重労働だと聞いたことがある」
パーティー会場に大きなシャンデリアがあるのかな? 俺のイメージ通りの大きさだったら、一つ一つ魔石を取り付けて取り外すのは大変すぎるな。
ただ、この魔法具でシャンデリアを光らせるのはかなり難しいかも……正確な位置にライトを発現させないとだよな。
いっそのことシャンデリアの一つ一つを光らせるのは諦めて、全体的に光らせる感じにするのかな? まあ、その辺は俺が考える必要はないだろう。
「皆様、こちらの魔法具はいかがでしょうか?」
「ロンゴ先生、素晴らしいと思います。手元で魔石を取り外すだけで天井付近の光球を操作できるのも素晴らしいですし、このスイッチ機能もかなり便利になると思われます。水洗トイレや水道など他の魔法具にも取り付けたい機能です」
「ご満足いただけたのなら良かったです。次の回復の日に登録に行きますので、すぐに普及すると思われます」
「では、その時を楽しみにしています」
ステファン様は、とりあえず満足したようで魔法具をテーブルの上に置いた。先輩たちがさっきから試してみたくてそわそわしているので、俺は先輩たちの方に魔法具を持っていく。
「ミゲル様、ロイク様、試して感想をいただいても良いでしょうか?」
「あ、ああ、私たちでいいのか?」
「はい。先輩たちの意見もお聞きしたいです」
「わかった」
先輩たちは、好奇心に満ちた目で魔法具を手に取り、スイッチをオンにしたりオフにしたりしている。
「これは素晴らしいな! 魔法具全てを便利にする! 革命だよ!」
ミゲル先輩は、大興奮で拳を握って立ち上がりながらそう言った。お、おう……この人も魔法具馬鹿だったのか……
「ミゲル……! 騒ぎすぎだよ!」
「ロイク! お前もやってみろよ! 素晴らしい発明だぞ! これは……んぐっ」
ミゲル先輩の興奮がおさまらないのを察知して、ロイク先輩がミゲル先輩の口を手で塞いだ。
ロイク先輩、ミゲル先輩がめちゃくちゃ苦しそうですけど大丈夫ですか? それ、鼻まで塞いでませんか?
「ぷはぁ……ロイク! 殺す気か!」
「ミゲルがうるさいからだろ」
そこでミゲル先輩は、やっと全員に注目されていることに気づき顔を青くした。
「も、申し訳ございません!」
「別に構わない。それで、スイッチ機能は良かったのだな」
ステファンが話を無理やり戻した。
「は、はい! スイッチ機能は本当に素晴らしいです。この発明で全ての魔法具がより便利になると思われます」
「レオン、皆に受け入れられそうだ。良かったな」
「はい。とても嬉しいです」
皆の反応がかなり好意的だから広まりそうだな。作る人は大変になるだろうけど、頑張ってもらおう。
「では、この魔法具は回復の日までわしが大切に保管しておくぞ」
「はい。よろしくお願いします」
「では、わしはこれで失礼します。御用がありましたら、お手数ですが部屋までお越しください」
ロンゴ先生はそう言って教室を出て行った。予想より早く終わったな。これなら訓練場に行く時間もあるだろう!
「リュシアン様、私もやりたいことがありまして席をはずしても良いでしょうか? リュシアン様がお帰りになる頃までには戻って参ります」
「何なのだ? 私も一緒に行こうか?」
「いえ、リュシアン様に来ていただくほどのことではないので、私だけで行って参ります」
「そうか、それなら良いのだが気をつけるんだぞ」
「かしこまりました」
俺は皆に挨拶をして教室を退出し、魔法の訓練場に向かった。
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