第90話 魔法の授業

 次の授業は魔法の授業だ。また合同授業なので、訓練場に行かないとだな。

 ただ、魔法の授業は着替える必要がないので、そこまで焦らなくても良い。荷物をロッカーに仕舞うだけだ。


「ロニー、訓練場に行こうか」

「うん? 次は魔法の授業だよね?」

「そうだけど……」


 ロニーが不思議そうな顔をしてるけど、なんでだろう?


「僕は魔法の授業は受けないよ。魔力量が一しかないからね」

「そうだった……忘れてたよ」


 そうだ。魔法の授業は、魔力量が四以上の人だけ必修なんだった。


「じゃあ授業に行くのは俺だけだね」

「うん。僕は先に帰るよ」

「そっか。じゃあまた明日ね」

「うん。また明日!」


 ロニーはそう言って帰っていった。王立学校ではいつもロニーと一緒にいたから、いないと寂しいかも……

 俺はそう思いながら、一人で訓練場に向かった。


 訓練場に着きしばらくすると生徒が集まってきたが、剣術の授業よりかなり少ない人数しかいない。

 魔力量が四以上の人って意外と少ないんだな。確かに母さんと父さんも少ないって言ってた。そういえばマリーはまだ魔力測定してないよな? そろそろだろうか?

 次に帰ったときは測定し終わってるかもしれない。それを聞くのも楽しみだな!


 そんなことを考えながら待っていると、魔法の先生が訓練場に入ってきた。なんかいっぱいいるな。

 一、二、三…………六人だ。そっか、属性ごとに先生がいるんだ。


「では魔法の授業を始めます。魔法の授業は属性ごとに分かれて行います。また、今回は訓練場に集まってもらいましたが、次回からは外にある魔法の訓練場に集まってください。雨の日は例外です」


 確か施設案内の時に、外に魔法の訓練場があったな。次からはあそこでやるのか。

 外だと暑そう……


「では属性ごとに別れてください。私は水魔法です」


 それから先生達が自分の属性を告げて、それぞれの属性に分かれた。回復属性は、俺の他に三人しかいない。回復属性が一番少ないって本当なんだな。

 もちろんマルティーヌも一緒だ。


「私はジョフリー・オッセン、回復属性魔法の担当です。よろしくお願いします」


 生真面目そうな若い男の先生だ。結構厳しそうだな。


「この授業では、回復属性の魔法を魔力が尽きる寸前まで使ってもらい、魔法の精度を高めることを目指します。他の属性は、剣で戦いながらどのように魔法を使うのかについて学びますが、回復属性は戦いの最中で使うことはありませんので、そちらの授業は行いません」


 おぅ…………魔力が尽きるまでただただ魔法を使うだけの、脳筋な授業だったよ。

 それって意味あるのか? まあ、慣れてくれば少しは精度が上がるのかな……?


「皆さんも知っていると思いますが、魔法を発動させるには、発動させた後に起こる現象をしっかりとイメージすることが大切です」


 この世界では、魔法を発動させた後に起こる現象のイメージについては、しっかり学ぶんだよな。ただ、一番重要なのは魔法が発動するまでの過程なんだよね。

 まあ、この過程は現代日本で生きた記憶がある俺だから知ってることなんだけど……もう少しこの国でも研究とかすればいいのに。

 便利すぎるものがあると、思考停止するのかな?


「回復魔法を使うときのイメージは、怪我がない状態をしっかりと思い浮かべることです。例えば腕の切り傷を治すのであれば、自分の腕を見てイメージを固めてから魔法を使うと良いでしょう」


 うーん、このイメージもないよりはマシなんだろうけど……あまり効果があるとは思えない。

 この授業で、俺の規格外な魔力量とか規格外な回復力は隠さないといけないよな。この授業、意外と大変かも……

 普通の人ってどのくらいで魔力が切れるんだろうか? マルティーヌにも消費魔力量を減らせるイメージを色々教えちゃったから、全く参考にならないんだよな。他の人をしっかり観察しておかないとだな。


 というか、マルティーヌにも気をつけてもらわないと!

 俺はそう気づいてマルティーヌの方に視線を向けると、マルティーヌもちょうどこちらを向いていた。

 マルティーヌは俺と目が合うと、周りに気付かれない程度に首を縦に振ったけど、これはわかってるってことだろうか? まあ、信じるしかないな。


「それから、回復魔法の練習は怪我人がいなければ難しいので、これからは騎士団の訓練場に通い練習をします。次回からはこの訓練場に集合した後、王立学校の馬車で騎士団の訓練場まで向かうことになりますので、覚えておいてください」


 騎士団の訓練場に行くのか。確かに怪我人がいた方が練習は効率的だよな。

 それに騎士団の訓練場なんて楽しみだ!!


「今日は騎士団の訓練場にはいけないので、ライトの魔法を練習をします。ライトの魔法は光の大きさや強さ、色をイメージすることが大切です。これから私がいう通りに、それらを変えてください」


 ライトの魔法か。そういえば実家にいるときは、リビングや寝室でずっとライトの魔法を使ってたけど、公爵家の屋敷はどこでも明るいから使ってなかったな。

 平民の家はオイルランプやロウソクで灯りをとるので、基本的に薄暗いのだ。昼間は窓を開けて外の光が入ってくるけど、それでも時間によっては薄暗くなる。それが嫌で、俺が家にいる時は基本的にライトの魔法をずっと使っていた。

 母さんたちは眩しすぎるって言ってたけどね。

 でも、母さん達も段々と明るいことに慣れたみたいだったから、薄暗い状態に戻るって不便だよな……

 実家にも光球を取り付けてあげたいけど、母さんと父さんは回復属性じゃないから魔力の補充ができないし……

 マリーが回復属性だったら、光球を買っていくのもいいかもしれない。


「それではまず、手のひらほどの大きさの光を作り出してください。光の強さは弱く、色は白です」


 久しぶりのライトの魔法だ。『ライト』

 うん、特に問題なくできたみたいで良かった。周りを見てみると、皆も問題なくできているようだ。


「問題ないですね。では、色を赤色に変えてライトを天井付近に移動させてください」


 それからしばらく、同じような指示に従ってライトの魔法を練習した。段々飽きてきたな……

 早く騎士団で実践練習したいなぁ。


「はい。皆さん問題ないです。ライトを消してください」


 ふぅ〜、やっと終わったか。俺はライトを消して何気なく周りを見てみると、皆汗をかいて息が荒くなっている。

 え? なんで? 特に何もしてないよね?


「では疲れたと思うので、少し休憩してください。あなたは……なんで疲れてないのですか?」


 オッセン先生が俺を見て不思議そうな顔でそう言った。

 え? なんでって言われても困るんだけど……皆立ってたから疲れたの? それとも魔法を使ったから? でも、魔法なんてライトしか使ってないし。


「えっと……何故皆さんは疲れてるのでしょうか……?」


 これを聞いたら変に思われるかなと思いつつ、聞いてみた。俺のその言葉を聞くと、オッセン先生はかなり驚いた顔をした後、呆れた顔になる。


「それは、魔法を使ったからに決まっているでしょう?」


 やっぱり魔法なのか……! でもライトだけだよ? 俺はライトを使ってて魔力が切れたことなんてないけど……

 仮にもここにいるのは魔力量が四と五の人だよね? 普通の人ってそんなに魔力量少ないの!?


「え、えっと、そうですよね。私は人より魔力量が多いみたいです……」


 これで騙されてくれるかな? ライトしか使ってないしありえない魔力量ではないはず……


「確かに魔力量が五の人には、四に限りなく近い人とかなり魔力量が多い人がいます。あなたはかなり多い方なのでしょう」


 やっぱりそういう差ってあるんだ! セーフ、危なかった……これからは王立学校卒業までは、ちょっと魔力量が多い人程度になるように気をつけよう。


「それは嬉しいです」

「その魔力量を活かせるように、鍛錬に励んでください」

「かしこまりました」

 

 ふぅ〜、変に思われなくて良かった。それにしても、ライトって普通の人にとっては結構魔力を消費してるんだな。いや、色を変えたり大きさを変えたり動かしたりしたから余計かもしれない。

 まあ、いずれにしても普通の人の魔力量を、大体は把握するべきだな。


 それからは、それ以上魔法を使えないのでオッセン先生の話を聞き、授業は終わりとなった。

 次の授業も楽しみだ。騎士団の訓練場なんて男の夢だからな!

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