第46話 公爵領へ
次の日の朝。いつもよりかなり早く起こされた。
「レオン様、本日は出発が早いのでそろそろ起床されませんと、遅刻してしまいます」
「うぅ〜……わかった。起こしてくれてありがとう」
俺はまだ眠い目を擦りながら、なんとか起きた。まだ外は暗い。
公爵領までの道中は、途中にある町の代官邸に泊まるらしい。最初に泊まる予定の街は少し遠いので、出発を早くしないといけないようだ。
俺は両手でパチンっと頬を叩き目を覚ました。うぅ〜勢いよくやり過ぎて痛かった……
でも、目は覚めたからよしとしよう。
「ロジェおはよう」
「おはようございます。もう荷物は使用人が積み込んでおりますので、レオン様はご自分の準備をして下さい」
「わかった。ありがとう」
「はい、まずは朝食にいたしましょう。ご用意しますので、こちらで顔を洗ってお待ちになっていてください」
そうして俺は、朝ごはんを食べて豪華な服に着替え、準備を整えた。
「では参りましょう。玄関ホール横の応接室に集まることになっております」
ロジェに先導されてたどり着いたのは、玄関ホールの横にある応接室だった。ちょっとした来客などに使うのだろう。まだ誰も来ていないようだ。
俺はソファーに座って、ロジェが淹れてくれたお茶を飲みながら待つ。しばらくすると、フレデリック様がやって来た。
「レオンおはよう。早いな」
「フレデリック様、おはようございます」
「少し緊張してるか?」
そうかな? 自分では気づいてなかったけど。
でも確かに、何日もずっと貴族の方々といるのは初めてだから、緊張してるのかも。公爵家の方々には慣れてきたけど、領都にいる方達には初めて会うし。
「確かにそうかも知れません。フレデリック様のお兄様達には初めてお会いするので……」
「そんなに緊張しなくてもいい。兄上も皆いい人たちだ。それにレオンのことも伝えてあるからな」
そう言ってもらえると少し安心するな。
そのあとはフレデリック様と他愛もない話をしていると、リシャール様とカトリーヌ様が来た。
「皆揃ってるな、では出発しよう。馬車に乗ってくれ」
そうして俺たちは、馬車に乗って公爵邸を出発した。一際大きくて豪華な馬車に四人で乗り、そこに使用人が二人乗り込んだ。他の使用人はもう一つの馬車に乗るらしい。また、荷物などが詰まった馬車が二台あるようだ。合計四台の馬車で道を進んでいく。そして周りを、公爵家の騎士や兵士が囲んでいる。
フレデリック様の他にもこんなに護衛がいるんだな。まあ、公爵家なんだし当然か。権威を示す意味合いもあるのだろう。
馬車は順調に進み、王都を出た。馬車の窓を開け外を見ると、畑が一面に広がっている。ポツンポツンと家が建っているのも見える。たまに教会のようなものもあるので、王都の街からかなり離れると教会は設置されているのだろうか。確かに、ここまで離れると町の鐘の音も聞こえないからな。
というか、ここはまだ王都なのだろうか?
「リシャール様、ここはまだ王都なのですか?」
「ああ、しばらくは王都の農業地帯が広がっている。もう少し行くと、公爵領の農業地帯だ」
王都から公爵領の領都までは、踏み固められた土剥き出しの道だが街道も整備されているらしい。
そしてその街道に沿って、農業地帯と街があるようだ。
俺はしばらく外を眺めていたが、流石にずっと同じ景色が続くので飽きてきて、窓を閉めた。
「レオン君は好きな食べ物はあるかい?」
唐突にリシャール様にそう聞かれた。好きな食べ物? なんで急にそんな話なんだ? 俺は少し不思議に思いつつ答えた。
「そうですね。基本的になんでも好きですが、公爵邸で頂いたことのある、牛肉の煮込み料理が好きです」
「ああ、あれか。私もあれは好きだな。あの味付けは最近作られたものなんだが、肉も柔らかくなってとても美味しい」
ビーフシチューとは少し違うが、似たような味わいのソースで煮込まれた牛肉が、とても柔らかくて美味しいのだ。公爵家の夕食で食べた料理の中で一番気に入っている。
「では、お昼は牛肉が食べられる店にしよう」
「お昼ご飯はお店で食べられるのですか?」
途中に街があるってことだろうか? そんなに街って頻繁にあるのか?
「公爵領に入ったところに街があるんだ。お昼は少し過ぎるが、できればお店で食べたいからな」
そういうことか。王都との境に街があるんだな。
「それは楽しみです。初めて王都以外の街に行きます」
「ああ、楽しみにしていてくれ。少し王都とは雰囲気も違って、楽しめると思うよ」
それからしばらく馬車で進むと、その街に着いたらしい。窓から外を見てみると、家が密集している。
「王都以外の街には、中心街のようなところはあるのですか?」
「いや、無いよ。ただ高級なお店が並ぶ通りはあるかな」
馬車は、街一番の大通りを進んでいく。街の人々は馬車を驚いたようにみるが、貴族の馬車だとすぐにわかるのか、あまりジロジロ見ることもなく去っていく。
貴族は平民にとって、あまり関わりたくない存在だからな。タウンゼント公爵家の方々は理不尽なことはしないだろうが、理不尽な貴族もいると聞くし。
しばらくして馬車が停まった。かなり豪華な作りのお店だ。リシャール様の従者が、先にお店に入っていく。貴族を迎え入れるために先触れを出すのだろう。お店にとってはかなり急だよな。
それから少しの間待たされ、お店からは壮年の男性が出てきた。そして、リシャール様の従者が馬車に戻ってくる。
「皆さま、準備が整ったようです」
「わかった」
そういうとリシャール様は、俺にまず馬車を降りるように言ってきた。身分が低い順なのだろうか?
馬車から、俺、フレデリック様、リシャール様、カトリーヌ様の順で降りる。
リシャール様は馬車を降りてカトリーヌ様をエスコートすると、二人でお店の方へ歩き始めた。フレデリック様もそれに続いていくので、俺もそれに続く。
「タウンゼント公爵家の皆さま。本日は当店にお越しくださり誠にありがとうございます。お席をご用意しておりますので、どうぞ中へお入りください」
「ああ、急に来たにも関わらず、迅速な対応感謝する」
「当然でございます」
店内は結構豪華な作りだった。公爵家の屋敷と比べたらかなり見劣りするが、中心街にあるお店くらいの豪華さはあるようだ。
俺たちは個室に案内された。四角い部屋に、大きな丸テーブルと椅子が四つある。リシャール様が一番奥に座り、俺が一番手前のドア側に座った。
「メニューはこちらでございます」
そう言って店員さんが、一人に一つメニューを渡してくれた。メニューは、メイン料理を何種類かあるお肉料理から一つ選び、その他のセットは決まっているようだった。
鶏肉のハーブ焼きや、牛肉、豚肉のステーキ、牛肉の煮込みなどがメニューに並んでいる。
俺はやっぱり牛肉の煮込みかな。さっき話してたら食べたくなってきたんだ。
「牛肉の煮込みをいただこう」
「私は鶏肉のハーブ焼きがいいわ」
「私は豚肉のステーキで」
皆さんがどんどん頼んでいく。俺も頼まないと。
「私も牛肉の煮込みでお願いします」
「かしこまりました。では少々お待ちください」
そう言って店員さんは出ていき、この部屋には四人と二人の従者、二人の護衛だけとなった。
多分従者や護衛の方も交代で食事をとっているのだろう。
「やはりレオンも牛肉の煮込みにしたのか」
「はい。先ほど話していて食べたくなってしまったので」
リシャール様に聞かれたので、俺は少し苦笑しながらそう答えた。
「確かにあれは美味しいですものね。でも私には昼から食べるには重いわ。鶏肉くらいがちょうどいいですわ」
「確かにカトリーヌには、少し重いかも知れないね」
そんな話をしていると、店員さんがスープの入った鍋をワゴンに乗せ入って来た。そして使用人の方が先に少しスープを飲んだ。
俺は一瞬何をしてるんだろう? 味見かなと思ったが、ハッと気づいた。
多分これ毒味だ! 凄い、本当に毒味なんてするんだ!
でも、いつも公爵家の食堂で毒見なんてしてるっけ? わからない……あんまりじっと見たことがなかったからな。広い食堂だし、もしかしたらしてたのかも。
そして、それが終わると食器にスープが盛られ、給仕された。今食器を、使用人の方が箱から出した気がする。
もしかして食器も持参なのか?
そういえばこのカトラリーも、いつも公爵家で使っているものと同じかも。
やばい……貴族って怖い。
お腹を下すくらいの弱い毒を使って、毒を取り除く回復魔法の練習しとこうかな……家に帰ったらすぐしよう。毒草は森に生えてるから手に入るし。
俺は気を取り直してスープを一口、口に入れた。
おおっ! 結構美味しい。こういう高級なお店には、中心街で開発された新しい調理法も広まってるのかもな。
というか、チェーン店的なやつなのかも。この世界にあるかはわからないけど。
そこからは、公爵領についての話を聞きながら、食事を堪能した。牛肉の煮込みは美味しかったが、公爵家の料理人の方が腕がいいのか、ソースの味がいつもの方が美味しかった。でも満足だ。
俺たちは食後のお茶を飲みながら少し食休みをして、また馬車に乗り込み街を後にした。
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