閑話 神様のミス(ミシュリーヌ視点)

「やばい……! せっかく地球から連れてきた魂だったのに、転生させるの失敗しちゃったぁ〜」


 なんで私ってこんなに運がないの!? せっかくシェリフィーに地球の日本から魂をもらったのに!

 せっかく大好きな日本を真似た世界を作り上げたのに!


 まあ、前に使徒として転生させた子によって、日本っていうより地球の中世ヨーロッパみたいな世界にされちゃったんだけど…………あれは人選ミスだった。

 それでも、これから発展していく先が楽しみだったのよ。このままだとこの世界は、また魔物にやられて人間が絶滅しちゃうかしら……

 それはダメ! 次の世界を作るほどの神力なんて、いつ溜まるのかわからないし。とりあえずシェリフィーのところに行かなきゃ!



「シェリフィ〜、助けて! この前あなたにもらった魂を転生させるの失敗しちゃったの! どうすればいい?」

「ミシュリーヌ、失敗したってどういうこと!? 私の世界から持っていった魂よね。大切に扱いなさいって言ったでしょ!」


 シェリフィーが綺麗な黒髪を振り乱して怒っている。私はしゅん……と小さくなって謝った。


「ごめんなさい……」


 シェリフィーは私に近づいてきて、私の頭をぐりぐりし出した。


「痛い! シェリフィー痛い〜」

「あなたが悪いんでしょう? 大人しくやられなさい」

「痛い、本当に痛いって! ごめんなさい〜」


 私が必死に謝ったらシェリフィーはやっと止めてくれた。


「それで、なんで失敗なんてしたのよ?」

「それが、あの魂とピッタリと合う体が私の世界にあったみたいなの。それで運悪くちょうどその人間が死んで、魂が離れた瞬間だったのよ! その体に引っ張られて、日本から連れていった魂がその体に入っちゃったの……」

「別の人の体と魂がピッタリと合うなんて、そんなことあり得るのかしら? それ本当?」

「本当よ。私は嘘なんかつかないでしょ!」


 本当は、日本からの魂を私の使徒として、王族の子供に転生させるつもりだったのよね。それなのに貧しい平民の体に入っちゃうなんて……!


「確か、あなたの世界は魔物の森に侵食されていて、人間を助けたいからそのために転生させるってことだったわよね?」

「そうなのよ! そのために神界で全てを説明してから能力を付与して、一番高い身分に転生させる予定だったのに……」

「能力も付与できなかったの?」

「全属性魔法と全言語理解はなんとか付与できたわ。でも私と会話するための神物を渡せなかったから、連絡できないのよ。貧しい平民に転生しちゃったし、転生の目的も伝えられてないの……」


 本当なら転生させてからも定期的に連絡して、私が指示しながら世界を救ってもらうはずだったのよ……

 それから中世ヨーロッパ風になっちゃった世界を、日本に近づけてもらうつもりだったのに……


「あなたの世界が魔物に侵略されるまで、どのくらいの時間があるのよ? 次に転生させられるようになるまでどのくらいかかるの?」

「もうあと数十年しか余裕はないわ、……それで次に転生させられるのは数百年経たないと無理よ。もう神力を使いすぎてほぼ空っぽなの」

「何にそんな神力を使ったのよ!?」

「だって……前の世界は人間が絶滅しちゃってどうしても人間の世界が良かったから、もう一つ今の世界を作ったでしょ。まず新しい世界を作るところでたくさん神力を使ったの。それに、今の世界も早く人間が産まれて欲しかったし、日本に近い環境にしたかったから、色々手を入れて時間を早送りにしたの。それで殆ど神力は無くなったわ」


 私が一つ目に作った世界は、全ての生物に魔力を与えたら人間は魔物に絶滅させられてしまった。だから二つ目の世界は人間だけに魔力を与えればいいんだと思ったのよ! 私って頭いいでしょ?


 私が大好きな、シェリフィーの世界の日本という国をイメージして世界を作ったわ。すごく頑張って、似たような植生にしたのよ。魔力があるからちょっと違うところもあるんだけどね……一つ目の世界で魔物を増やす原因になった稲は作らなかったり。まあ、そんなこと些細な問題よね。


 途中で日本から使徒として転生させた子が、日本風じゃなくて中世ヨーロッパが好きだとか言って、全然日本ぽくなくなっちゃったのはショックだったけど……それでもこの世界は気に入っていたのに。



 私はこの世界を作るときに一つミスを犯していたの。三百年前以上前にやっとそのミスに気づいたんだけど……


 なんと……一つ目の失敗した世界とこの世界を、小さな穴で繋げてしまってたみたいなのよ! なんであんなミスをしたのかしら……

 その穴はどんどんと大きくなって、植物や動物がこの世界に入り込んで、この世界に魔物の森を作ってしまった。本当はこの世界に魔物はいないはずだったのに……


 このままだと、また一つ目の世界と同じように魔物に人間は滅ぼされてしまうわ。そう思って、穴を塞ぐための神具と本をこの世界に落とした。私、頑張ってると思わない?

 でも神具と本は誰にも見つけられず、見つかった時にはその言語を扱える人達が戦争でほぼ絶滅して、誰もその本を読めなかったみたい。


 結局魔物の森はどんどん広がっている。その穴を塞いでもらうために、今回は転生させる予定だったのに……失敗するなんて。


「もう何もできないなら、その人間が自分から動いて世界を救ってくれることを祈るしかないんじゃない? というか、魔物も可愛いじゃない。私は魔物の世界でも良いと思うけど?」

「私は人間が好きなの! 人間の世界がいいのよ! シェリフィーの世界だって人間の世界じゃない」

「私は人間の世界にしようとしたわけじゃないわよ。ただ魔力がない世界だと、頭が良い人間が勝ち残るみたいね。ミシュリーヌも魔力がない世界にすれば良かったんじゃないの?」

「だって、シェリフィーが言ってたじゃない。魔力がないと世界がそのうち滅亡するって」

「まあ、そうなのよね。魔力以外のエネルギーを人間が使うと、どんどん世界が壊れていくみたい」

「だから私はそれを阻止しようと思って、魔力がある世界にしたのよ!」


 そこまでは良かったんだけど……どこで間違えたのかしら? いいえ、違うわ! 私は間違えてないのよ。運が悪かっただけ。


 もう今までの反省はいいから、これからのことを考えないと……。とにかく、今の名前はレオンだったかしら? そのレオンに頑張ってもらうしかないのよね。こっちから連絡する術があるといいんだけど……


「何か連絡できる方法はないかしら」

「神託ならそんなに神力を使わないんじゃないの?」

「シェリフィー、それよ!」


 そうよね! 神託ならレオンに直接じゃなくても伝えることはできるかもしれない!

 でも待って……私ってこの世界で全然信仰されてないんだった……どうしよう。だって神力が空っぽで神託もできなかったんだもの。


「シェリフィー! 私ってこの世界で全然信仰されてないんだった……どうしよう」

「どうしようって、それは自業自得でしょ。そもそも私だって、信仰なんて全然されてないわ」

「神様なんてそんなものよね。本当にどうしようもないのかな……神託したら信じてくれると思う?」

「まあ、時間をかけないと信じてもらえないでしょうね。……とりあえず見守るしかないわよ。もしダメだったら、また地球に遊びに来たらいいじゃない」

「それはありがたいけど〜、自分の世界がいいのよ」

「それはまあ、頑張りなさい」

「心がこもってない!」

「はいはい、次遊びに来る時までに、漫画の続きを手に入れておくから元気出しなさい」

「本当に!? シェリフィー大好き!!」

「もう、現金なんだから。とにかく今は見守るしかないわよ。そろそろ自分の世界に帰りなさい」


 シェリフィーが苦笑いで手を振ってくれている。


「は〜い。でも何かできることがあるはずよ。絶対に人間を救ってやるんだから!」


 私はそう決意して、自分の世界であるミユソルーテに戻った。

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