第22話 王立学校の教材と買い物
応接室で席に着くと、フレデリック様はアンヌさんにお茶の用意をお願いして、従者の方には教材を持ってくるように頼んでいた。
使用人を当たり前のように使えるところを見ると、やっぱり貴族だよなぁ。俺はなんとなく悪い気がして、自分でやりたくなってしまう。
しばらくして、お茶の準備が整い教材も揃った。
「レオン、これが王立学校の入学試験のために、必要な勉強だ。基本的には、読み書きと計算、簡単な歴史だな」
「中を見てもいいですか?」
「ああ、何か疑問があったら聞いてくれ」
フレデリック様が渡してくれた教材は三冊の本だった。
一つ目は簡単な国語のようなもので、ページの半分以上は文字を書けるように勉強するための内容だった。そして後半は文章読解力を鍛えるものだ。
これは勉強する必要がないな。俺はこの世界の言語を日本語と同じように読み書きできるので、日本で大学まで行っていた俺には、今更小学一年生の国語をやれと言われても勉強の必要はない。
二つ目は簡単な算数だった。足し算と引き算に簡単な掛け算と割り算、それだけだ。分数や少数もなければ、図形などもない。それは入学した後に学ぶのだろうか? これも勉強の必要はないな。
三つ目はこの国の歴史だった。この国の歴史が、昔のことは大雑把に、最近のことは結構詳しく書かれている。
これは読みたい! 勉強するべきだし、この国のことを知りたかったんだ。
「どうだ? 中身はわかるか?」
「はい。読み書きと計算の方は既にできるので教材はいらないです。歴史の教材はお借りしてもいいですか?」
「読み書きと計算の方はいらないのか!? 本当に?」
「はい。歴史の教材だけで大丈夫です」
もしかして一応そっちも借りて、勉強してるようにみせたほうがよかったか……? でもなんか今更な気もするんだよな。
タウンゼント公爵家の方々とは長い付き合いになりそうだし、あんまり隠さなくてもいい気がする。
「まあ、レオンが大丈夫だというのならそうなのだろう。じゃあ歴史の教材だけ貸そう。返すのは試験が終わったらでいいからな」
「本当にありがとうございます! 皆さんのお役に立てるように頑張ります!」
「ああ、是非頑張ってくれ」
「はい!」
そうして俺は歴史の教材だけを貸してもらい、客室に戻った。
タウンゼント公爵家の皆さんは良い人たちみたいだし、俺が勢力の助けになる代わりに、俺の後ろ盾になってくれそうだったし。今日は最高の結果だったな。
俺は緊張していたからなのか、安心した途端に眠くなり、すぐに寝てしまった。
「ふぁ〜。なんか久しぶりにすごく気持ちよく寝れた気がする……」
あれ? いつもの家じゃない…………
そうだ、昨日はタウンゼント公爵家に来て泊まらせてもらったんだった。
俺、寝過ごしてないよな? そう思ってベッドから降りてソファーの方に行くと、アンヌさんが既に控えてくれていた。
「おはようございます、レオン様」
「おはようございます、アンヌさん。俺、寝過ごしたりしてませんか?」
「朝は、皆様それぞれのお部屋で朝食を食べて、お仕事に行かれますので大丈夫でございます」
そうなんだ。それなら良かった。
俺はほっと胸を撫で下ろし、アンヌさんに聞いた。
「俺も朝ごはんをいただけるのでしょうか?」
「はい。レオン様には朝食を食べていただいたら、お家までお送りするようにと、フレデリック様から申しつかっております。なので私が馬車でお送りいたします」
それはありがたいな。でも公爵家の方々に挨拶をしなくても良いのだろうか?
「公爵家の皆様へ挨拶をしなくても良いのでしょうか?」
「奥様は屋敷にいらっしゃいますので、奥様に帰宅の挨拶をしていただければよろしいかと思います」
「わかりました。ありがとうございます」
「ではまずはお着替えからですね。こちらの服にお着替えください」
そう言ってアンヌさんが渡してくれた服は、俺が着てきた服よりもよほど上等な服だった。
貴族の服とまではいかないけど、平民の中でも富裕層が来ていそうな服だ。
「これは、俺の服じゃないですけど……?」
「はい。こちらは旦那様からの贈り物でございます。平民の中で浮かない程度の服を用意したとのことです」
平民の中で浮かないって、確かに富裕層の中でなら浮かないけど、家の周りでは浮きまくるよこの服!
でもせっかくの贈り物を貰わないっていうのもダメだよな……
「ありがとうございます。リシャール様にもお礼を伝えてもらえますか?」
「かしこまりました」
そうして俺は服を着替えて朝ごはんを食べ、タウンゼント公爵家の屋敷を辞去することになった。
「カトリーヌ様、この度はお招きくださりありがとうございました」
「私たちも楽しかったわ。これからもよろしくお願いするわね」
「はい。これからもよろしくお願いします」
挨拶をしてアンヌさんと馬車に乗り込んだ。ここに来た時と同じ馬車のようだ。
「レオン様、中心街でどこか寄るところがありましたらお寄りしますが、いかがいたしますか?」
どうしよう……銀行によって残高を確認したいのと、時計が欲しいんだよなぁ。中心街に来るのも大変だし、ここは甘えちゃってもいいかな。
「えっと、銀行と時計屋に行きたいのですが、時計はいくらで購入できるのでしょうか?」
「そうですね。一番シンプルなものでしたら、金貨一枚ほどあれば十分購入できると思います」
やっぱり高いなぁ。でも予想の範囲内だし、やっぱり時計は欲しい。
「では、銀行、時計屋の順番で行っていただけますか?」
「かしこまりました」
アンヌさんが御者に伝えてくれたようで、馬車が動き出した。
銀行に着くと、アンヌさんが俺の後ろに控えてついて来てくれた。馬車にいて良いと言ったんだが、家に送り届けるまではレオン様付きのメイドですから、と譲ってくれなかった。
俺は以前口座を作った時の窓口に向かった。できるだけ慣れてる人が良かったのだ。ここは2回目だが緊張するからな。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「口座の残高確認とお金を引き出したいです」
「かしこまりました。銀行カードを確認してもよろしいですか?」
「よろしくお願いします」
「ありがとうございます。ではこちらの水晶玉に魔力を少し流してください」
窓口の男性は、俺の服装とメイドのアンヌさんを見て少し驚いた様子だった。以前ここに来た時の俺を覚えていたんだろう。逆の意味で目立ってたからな。
でもその後は淡々と業務をこなしてくれている。ありがたい。
「レオン様ですね、本人確認が取れました。まずは口座残高ですが、こちらが現在の残高になります」
口座残高は小さな紙に書いて渡してくれるようだ。
それを見てみると、残高が白金貨十枚と書いてあった。なんか多くないか!? 今度マルセルさんにあったら聞いてみよう……
「ありがとうございます。では金貨一枚分を引き出していただけますか?」
「かしこまりました。金貨でよろしいですか? 銀貨や銅貨などにお分けいたしますか?」
「では、銀貨十枚でよろしくお願いします」
「かしこまりました。少しお待ちください」
引き出すときに、細かい硬貨で引き出せるのは便利だな。平民の間では、金貨以上はほとんど使えないから気をつけよう。
しばらく待っていると、受付の男性が銀貨を十枚持ってきてくれた。
「お待たせいたしました。お確かめください」
俺はしっかり十枚あるか確認して、財布に入れた。
「大丈夫です。ありがとうございます」
「また何かありましたらお越しください。ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました」
そうして俺は、少し早足でアンヌさんと馬車に戻った。やっぱりこの厳格な雰囲気は緊張する。
「では次は時計屋に行きます」
「はい。お願いします」
それから程なくして時計屋についた。銀行とかなり近い位置にあるようだ。
「レオン様、このお店は貴族か貴族家の紹介があるものしか入れないので、私が先に入ります」
「そうなのですね。よろしくお願いします」
やっぱりそんなお店もあるんだなぁ。
今でも結構貴族と平民の間には差があると思うけど、これ以上なんてことになったら怖いな……
頑張ってタウンゼント公爵家の勢力を手助けしよう。
お店に入ると柔らかな物腰の壮年の男性が出てきて、アンヌさんが懐から何かの紋章のようなものを見せると、すんなりと中に入れてもらえた。
もしかして、貴族家の紋章のようなものだろうか。
「いらっしゃいませ、本日はどのような時計をお探しですか?」
男性が俺に向けて話しかけてくれた。俺はお客として認定されたようだ。
「持ち歩けるサイズの時計で、シンプルで丈夫なものが欲しいんですが」
「かしこまりました。それでしたらこちらの商品が良いかも知れません」
男性が見せてくれたのは、シンプルな懐中時計だった。
デザインもシンプルだし、値段も銀貨五枚ほどからだ。
これって結構安いよな。もしかしたら現代日本で懐中時計を買おうとすると、もっと高いかも知れない……
俺は端から懐中時計を見比べていく。
ほとんどの懐中時計が、蓋はシンプルなもので、デザインがなかったが、一つ懐中時計の蓋の部分に木の実のようなものが装飾されていた。
やっぱりデザインがあった方がオシャレだな。
シンプルなものよりは高そうだけど……
「この蓋に木の実がデザインされているのはいくらですか?」
「そちらは銀貨八枚と銅貨二枚でございます」
日本円で八万二千円か。高いけど、ずっと使うものだしいいかも知れないな。
「じゃあそれをお願いします」
「かしこまりました」
そうして俺はお金を払い、懐中時計を受け取って内ポケットに仕舞った。これからはいつでも懐中時計を持ち歩きたいから、全ての服に内ポケットをつけないとだな。
そして馬車に戻り、そのあとはそのまま家まで送ってもらった。
「それではレオン様、私はこれで失礼いたします」
「はい。アンヌさん色々とありがとうございました」
「では、失礼いたします」
俺は達成感と共に結構な疲れを感じながら、家に戻った。
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