第18話 製氷機
ついでに、マルセルさんに魔法具の相談もしよう。俺が全属性なことを隠さないといけないとなると、作れる魔法具が制限される可能性もあるからな。
「マルセルさん、魔法具の相談もしていいですか? 俺が全属性を使っちゃいけないとなると、考えてきた魔法具は作れないかもしれません」
「ああ、良いぞ。レオンの考える魔法具には興味があるからな」
「ありがとうございます! 冷蔵庫って言う食べ物を保存するための、冷たい箱のようなものを考えたんですけど……」
「ああ、でもそれは氷が作れないから無理じゃぞ」
「それが、氷を作れたんです」
「なんじゃと!?」
マルセルさんがまた驚いて停止している。今日はマルセルさんを驚かせすぎだろうか。心臓が止まらないか心配だ。
「ええっと、大丈夫ですか……?」
「あ、ああ、大丈夫じゃよ。今日はお主に驚かされっぱなしで疲れるわい」
「ごめんなさい……」
「いいんじゃよ。それで氷が作れるってどうやってじゃ?」
「水魔法で氷になる寸前の水を作り出して、その水に刺激を与えると氷になるんです」
「一度やってみてくれんか?」
俺は、マルセルさんが渡してくれた器に凍る寸前の水を出し、器を揺すって刺激を与えて凍らせた。
その様子を見たマルセルさんは、しばらく難しそうな顔をしながら考え込んでしまった。
どうしたんだろうか? なにかまずかったか?
「これは、水魔法の使い手なら誰でもできると思うか?」
俺はそう言われて考え込んでしまった。
俺は現代の知識があり、イメージできるから作れるのかもしれないよな。この世界の人に作れるかはわからない…………
いや、俺が凍る寸前の水とだけ考えて魔法を使ってみればいいのか。それができれば、この世界の人でもできるかもしれない。
「もう一度魔法を使ってみてもいいですか?」
「ああ、いくらでも良いぞ」
俺は新しい器に今度は凍る寸前の水、とだけ考えてイメージをせずに魔法を使った。すると先程の五倍ほどの魔力が使われたが、水は生成できた。
成功したんだろうか……? 俺は恐る恐る器を手に取り、揺らして刺激を与えてみた。すると水はバキバキッと氷に変わった。
できた! これなら普通の人にもできるかも! でも魔力がかなりある人じゃないと無理かもだな。
「マルセルさん、多分魔力が多い人ならできると思います。凍る寸前の水と考えて魔力を使えばできます。ただ魔力がかなり必要だと思うので、どのくらいの魔力を持っていればできるのかは分かりません」
「そうか……お主は魔力が五じゃったな。魔力が五で水属性の奴に試してもらうかのぉ」
マルセルさんが他の人を集めて試してくれるようだ。これなら冷蔵庫もできるかもしれないな。よかった。
「魔法については後で試してみることにするが、魔法具の形は決まっとるのか?」
「はい! 大体なら決まってます。縦長の箱型で、中にはいくつか棚があって、一番上の部分に氷を作る機能をつけたいと思います。それで、箱の部分は魔鉄ではなく普通の鉄製にして、氷を作る部分だけを魔法具にすればいいかと思うのですが、どうですか?」
「ああ、魔鉄はできる限り節約した方がいいじゃろうから良いと思うぞ。だがそれだと冷蔵庫という名称よりも、製氷機の方がいいんじゃないか?」
確かに……! 魔法具の部分は製氷機だな。というか冷蔵庫っていう売り出し方よりも、氷を作れるって方がいいかもしれない。
冷蔵庫として作ろうと思っていた鉄製の部分は作らないで、魔法具部分だけで売り出そう。それで各々工夫して使って貰った方が便利だよな。
「そうですね。名前は製氷機にします。用途も限定しないで、氷を作れる魔法具ってことにします。それなら自由に使ってもらえると思うので」
「そうじゃな。その方がいいじゃろう。じゃあ一つ作ってみよう」
マルセルさんはそう言って、魔石と魔鉄を机の上に並べた。
「今回はレオンが作ってみるか? 魔力量が五なら魔鉄も使えるぞ」
「いいんですか!? 作ってみたいです!」
「じゃあまず魔鉄を手に持ち、変化させたいイメージを思い浮かべるんじゃ。それで魔力を流せばその通りに変化する」
俺は、溶けにくいように大きい氷が作れる方がいいと思い、三十センチ四方の器をイメージした。そして魔石を嵌め込むところを二つイメージして魔力を流した。
すると、魔鉄がみるみる形を変えていき、すぐに俺のイメージ通りのものが出来上がった。
魔鉄すげぇ!!
「できました!」
「なんでこの形なんじゃ? わしはてっきり水道のような形にするのかと思ったんじゃが、それに魔石を嵌め込むところが二つあるようだがなんでじゃ?」
「氷は溶けにくいように大きい方が良いと思って、この形にしました。でもこの形にすると中まで刺激が届かなくてしっかりとした氷にならないので、風魔法で水の中心と外側から同時に風を送り刺激を与えるんです」
最初に氷を作ってから何度も氷を作ってみたのだが、水の量が増えるほどしっかりと凍らなくなってしまうのだ。
その理由はわからないが、水の中心と外側から同時に風魔法で風を起こすと綺麗に固まることを発見した。
何故それで綺麗に固まるのかはよくわからないが、そもそも魔法がよくわからない原理なので、考えないようにしている。
魔法は適当でも良いところがすごいよな。うん、俺に向いてるな。
「レオン、一つの魔法具に二つの属性魔法を組み込むのも初めてのことなんじゃぞ。まあ、お主に常識を説いても意味がない気がするからやめておくか……」
なんかマルセルさんが呆れた目をしている。
失礼な! 俺は常識人だぞ! 常識人だよな……? もしかしてこの世界では色々ずれてるとか……?
いや、考えないようにしよう。今更だ……
俺は二つの魔石をもらい、魔法をイメージしながら魔力を込めた。
そしてまずは風属性の魔石を嵌め込む。氷を作りながら気づいたんだが、微風を先に発生させているところに水を出現させた方が、魔力効率も氷の出来も良いのだ。
魔法具の中に手を入れてみると、微風が発生している。こっちは成功だな。
そして水属性の魔石を嵌め込む。そうすると、数秒後に氷が出来上がった。多分成功だ!
俺は魔石を外し、氷を箱から取り出した。綺麗な真四角の氷が出来上がっていた。大成功だ!!
「マルセルさん! 完成しました! どうですか?」
「これは凄いな……夏でも食材を腐らせることなく保存できるようになるし、欲しがる者はたくさんおるじゃろう。それにさっき器で作った氷よりよほど質が高そうじゃな」
「そうなんです! 水魔法だけで水を発生させて揺らして氷にすると、シャーベット状の氷になったり表面だけ凍ったりするんですけど、最初に風魔法で微風を起こしたところに水を作り出すと、硬くて綺麗な氷になるんです」
「ということは、水魔法の魔力量が五ある人でも、綺麗な氷を作ることは出来ないってことじゃな。風属性のやつと協力しないといけない。これは売れるかもしれんな」
良かった! これでマルセルさんに少しは恩返しできただろうか……
「じゃあわしは、水属性の魔力量が五のやつに、氷が作れるか確かめてもらってから、これを王宮に持っていき登録してもらう。それで良いか?」
「はい! あ、でもその確かめてもらった人に、アイデアを横取りされるなんてことはないんですか……?」
「それは信頼できる友人に頼むから大丈夫じゃよ。それに水属性と風属性の融合じゃから、すぐに思いついて真似できるやつなんかおらんわい。一応その日のうちに登録に行くし大丈夫じゃ」
「それなら大丈夫ですね! じゃあよろしくお願いします」
「ああ、任せておけ。王宮に行くついでにレオンの口座にお金も入れとくから、後で確かめるんじゃぞ」
「はい! ありがとうございます!」
俺はひと段落ついて窓から外を見上げて気づいた。もう夜営業が始まっちゃう!!
「マルセルさん! もう俺行きますね! 夜営業に遅れちゃうので」
「ああ、気をつけるんじゃぞ」
「はい! また来ますね!」
俺はそう言ってマルセルさんの家を飛び出して、家まで駆けて帰った。
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