転生したら平民でした。生活水準に耐えられないので貴族を目指します。

蒼井美紗

一章 平民の子供編

第1話 転生

「レオン! 大丈夫か!?」

「レオン! 目が覚めたの!?」


 うぅ〜、なんかうるさいな。それよりも頭が痛い。うるさいのも頭にガンガン響くし、静かにしてくれ。

 そう思いながら重たい瞼をなんとか上にあげたら、目の前に知らない人がいた。誰だ? ていうかここどこだ? 

 混乱していると木の天井が視界に入る。俺の家は白い天井だったはずなのに……


「レオン、大丈夫なの? あなた階段から落ちて頭を打ったのよ。少しの間気を失ってたみたいだけど、体調が悪いとかない?」


 階段から落ちた……それにレオンって誰だ? 俺は市ヶ谷涼介。レオンなんて外国人みたいな名前の人知らないし……

 あぁ頭が割れるように痛い、この良くわからない状況について考えるのがめんどくさい。

 もう一度寝よう。多分これは夢だ。寝て起きればいつもの日常に戻ってるはず。

 そう思って俺は目を閉じた。





「ふぁ〜。よく寝た……ってここどこ!?」


 そういえば、知らない場所で目を覚ます夢を見たような……もしかして、あれって夢じゃなかった!?

 なんで俺こんな場所にいるんだろう。確か大学に講義を受けに行って、講義が直前で休講になったんだ。それで家に一度帰ろうとして、それでその後どうしたっけ? 


 あれ、覚えてない。いや、何かが爆発したような記憶があるようなないような……ダメだ思い出せない。

 ん、俺の手なんか小さくないか? そう思って恐る恐る体を見下ろしてみると……明らかに小さくなっている。え、どういうこと? 子供になってる!?


「あー、あー」


 声も違う! なんか高い声になってる。マジでどういうこと?

 そういえば夢で知らない人に囲まれてたような。それにレオンって呼ばれてた。もしかして、俺がレオンになったとか? いやそんな馬鹿なことある訳……



 そこまで考えた時、突然頭にレオンだった頃の記憶が流れ込んできた。なんだこの記憶、俺はレオンになったのか? 


 なんでそんなことに……それに、記憶によるとここは日本じゃないどころか地球でもない。もしかして異世界転生ってやつ? あれって物語の中だけじゃないの!? じゃあ、俺は地球で死んだのか?


 そうして俺が混乱を極めている時、俺が寝ていた部屋にひとつだけあるドアが突然開いた。


「レオン目が覚めたの? もう大丈夫?」


 この人はレオンの母さんだ、レオンの記憶からわかる。でもレオンの記憶では大好きな母さんだけど……俺にとっては知らない人だ。


 レオンが市ヶ谷涼介になってるってことは、絶対に知られない方がいいよね。誰も信じてくれないだろうし、悪魔が憑いたとか言われて気味悪がられても困るし……

 ここはレオンになりきるしかない。


「母さん、おはよう。どこも痛くないし大丈夫だよ。俺、階段から落ちたんだよね?」

「そうよ! ちゃんと気をつけなきゃダメじゃない。母さんほんとに心配したんだから」

「ごめんね。これからはちゃんと気をつけるよ」

「そうしてちょうだい。それよりレオン、もう母さんたちは朝ごはん食べちゃったけどレオンは食べられる?」


 母さんはとても心配そうに俺の顔を覗き込んだ。ここは心配させない方がいいんだろうけど……混乱してお腹は空いてないし、もう少し一人でいて頭を整理させたい。


「今はまだお腹空いてないから良いかな。お昼ご飯は食べるよ」

「そう? じゃあお昼ご飯までちゃんと寝てなさいね」


 そう言って俺の頭をポンポンと撫でてから、母さんは部屋を出て行った。

 

 ふぅ〜、なんか疲れた。でも頭の中を整理しないと。

 とりあえず俺は地球で死んだのか? 良く覚えてないんだけど、とにかくこれは夢じゃなくて地球に戻ることはほぼ不可能ってことかな。

 せっかく大学受験頑張って、行きたかった大学に行ってたのにな。それに、お母さんにもお父さんにも友達にももう会えないのか……


 地球でのことを考えていると次から次へと目に涙が浮かんでくる。

 そのまましばらく俺は静かに泣いていた。しかし、泣いていてもしょうがないし、とりあえず現実を受け入れることにした。


「よし! 悲しいけどとにかく今は現状を理解しないとだ」


 両手で自分の頬を叩いて気合を入れる。まず考えないといけないのは、レオンの記憶についてだ。これは不思議なんだけど、体はレオンなのに人格は完全に市ヶ谷涼介になってしまっている。

 レオンの今までの記憶は思い出そうと思えば思い出せるけど、思い出そうとしない限り頭に浮かんでくることもない。


 その記憶によると、レオンはつい最近八歳になったばかりのようだ。八歳のお祝いをした記憶がある。

 季節は一応あるようだけど、夏は暑くなりすぎず冬もそこまで寒くならないので過ごしやすいみたい。

 また、レオンが暮らしているのはラースラシア王国という国の王都ラスリアらしい。そして、レオンの家族はそこで食堂を開いている。父さんがジャン、母さんがロアナ、妹がマリーの四人家族だ。


 レオンの日常は食堂が開いている時は家の手伝い、閉まっている時は近所の子達と近くの森に、果物や山菜、薪などを拾いに行っている。また少ないお小遣いで買い食いなどもしているようだ。

 レオンの知識では一年の日数や一日の時間など正確なことはわからないけど、教会が各地域ごとにあり、そこから鳴る鐘の音で時間を把握しているらしい。

 朝の鐘、お昼の鐘、夜の鐘、就寝の鐘の4回鐘がなる。そして、朝の鐘で鳴る鐘の回数が曜日を表しているようだ。


 1回 火の日

 2回 水の日

 3回 風の日

 4回 土の日

 5回 回復の日


 この五つの曜日を繰り返しているようなので、一週間は五日なのだろう。

 回復の日は日曜日のようなものなのかと思ったけど、レオンの記憶で食堂はよっぽどの事情がなければ年中無休のようなので、この世界に休日の概念はないのかもしれない。

 またお金は日本円に換算すると、鉄貨が十円、小銅貨が百円、銅貨が千円くらいのようだ。もっと価値の高い硬貨もあるのだろうけど、レオンは見たことがない。


 そしてこれが一番大事だ。この世界、魔法があるみたいなんだ。レオンの記憶では、魔法はほとんどの人が基本的には使える。

 一人一属性の魔法が使えて、属性は、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、身体強化魔法、回復魔法の六属性。魔力量によってどれほどの魔法が使えるのか決まるようだ。

 八歳頃に教会で魔力測定をしてもらい、自分の属性と魔法の使い方を覚えるらしい。レオンは最近八歳になったのでこれから行く予定みたいだ。これは楽しみだな。


 それから忘れてたけど、もう一つ大事なことがあった。この世界の発展度合いだ。

 この世界、少なくともレオンの生活圏では、地球よりはるかに発展していない。まず水道なんてものはなく井戸水だ。よって必然的に、お風呂もないし水洗トイレもない。


 お風呂は桶に汲んだ水を使いタオルで体を拭くだけ、トイレはボットン便所のようなもので汲み取り式だ。

 まあ、この部屋を見れば発展度合いがわかるよね。この部屋はガラスの窓なんてものはなく木でできた引き上げ式の窓。ベッドも一応木枠があるけど、その上に藁があり布を敷いただけ。

 電気もない。蝋燭が置いてあるので、夜はそれを使うのだろう。今は窓が開いていて、自然光だけだ。それとさっき母さんが出て行ったドア。それしかない。


 これは生活水準をなんとか引き上げないと、耐えられない気がする。やっぱり情報収集だ。


 レオンの記憶からわかる重要なことはこのぐらいかな。やっぱりまだ子供だから曖昧な知識も多いし、知らないことも沢山あるんだろう。それはこれから知っていかないと。

 とりあえずこの世界に適応して、俺がレオンになったことを知られないようにしないとだな。




〜あとがき〜

※コミカライズの原作はweb版ではなく書籍版ですのでご了承ください。web版と書籍版ではストーリーが異なります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る