第2話
「あたしの首、絞めてくれる?」
は?
「だって、大好きな人に殺されて死ねるって最高じゃない?」
駄目だ、コイツ……
「そんな事したら俺が殺人者になって警察に捕まるだろが!」
えぇって少しも悪びれはしない目で麻邪実はじーっと俺に目線を送る。
返答は口にしないが「それでもいいよ」だ。
全然、それでも良くないのだが。
「それだと、たくま君がわるものになっちゃうよっ。病みちゃん、愛が足りないんだったらこのわたしがぎゅーしてあげる。」
乃愛の言う通りだ。
と、様子を見てると乃愛が麻邪実の背中の方にまわって腕を肩に乗せ、肩から下ろして、乃愛は両手を繋いだ。
簡単に言えば後ろから抱き締めたのだ。
「え、ちょっといきなり何するのよ! へるぷ、へるぷっ!!」
「大丈夫~大丈夫」
全然、大丈夫じゃないと言わんばかりに麻邪実は抵抗している。
これじゃあ、GL(女子同士のイチャイチャ)を見せつけられてるみたいな気分だ。
「首をそふとにたくま君の代わりに絞めました」
確かに
ヤミ子は不本意で陰鬱な表情を浮かべている。
これで、一件落着なのかな。まあいいや。それより今気づいたことだけど、何でみんな早々名前呼びなんだろう……
***
まず、一旦この状況を整理しよう。
ここに暮らす女子が8人。←隠れてる奴もいるが。
ざっと数えて見る限りでは8人だった。幽霊は例外として。
乃愛に怪しまれ、疑われ、社交辞令されてからいきなり麻邪実に「独り占めは良くない」と乃愛に対して突っかかって来られてその後。「愛してる、首絞めて」と言われ……
その状況の真っ只中、6人はこちらを見てたり、下を向いてたり。
その中で気になったのが、誰かに向けて喋ってる女子と布団被ってるにせよ恐らく全裸な女子。
麻邪実も乃愛も静まり返り、俺も口を閉ざした。静寂が訪れるはずなんだが。
「私、貴方の事が今も好きなの。貴方が冷めちゃっても私はずっと好きでいて欲しかった。ごめんね。戻ってきて」
「行かないで! 戻ってきて。いつまでも私はここで待ってるわ」
「あんなに愛してくれたじゃない……ばか」
さっきは無視出来てたけど、もう無視しきれない。
「さっきから誰に話しかけてるんだ?」
かなりの声量なので
まさかこれ自体が幻聴か幻聴の相手に話しかけてるのか、と
思った瞬間――
「これは劇の練習で。ごめんなさい。貴方の声に気づきませんでした……のめり込んでいたので(汗)」と謝って説明してもらえた。
「ああ。びっくりしたけど。それならいいよ。心配してたから理由聞けて安心した」
ようやく俺の声に気づいてくれたようだ。
一番最初はプロポーズのセリフの練習をしていた。戸を開けてすぐに『ありがとう』『こんな私と結婚してくれるの?』だから正直ビビった。まさか俺にじゃないというのは何となく分かったから良かったが。
劇の練習というので全てが繋がった。
まずは自己紹介からいこう。
「ここの寮の管理人になった綾薙拓真です。異性なので不安だったり、気持ち悪かったり、嫌な事もあると思いますが、残る管理人は2人いるので何かあったら女性の管理人さんに相談して下さい。非力ですが、宜しくお願いします」
全員がこくり、と頭を下げた。
「それじゃあ、皆の名前聞いて回ろうか」
そう言いつつ、名簿と体調・怪我チェックシート、メモ用紙のボードを持った。
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