女子高生ですが、アイドルになるためヤクザと徹底抗戦することにしました。お嬢様学校の炎上王子が忍者やサイコパスと一緒にアイドルを目指す。社長はリストラしたいみたいだけど今更出て行けと言ってももう遅い!
倉紙たかみ
第1話 抹茶色の悪魔
学校からの帰宅路。
気怠そうに商店街を行くボーイッシュな女子高生、
「アイドルどうっすかー。やってみませんかー?」
前方に見えるは、客引きをする緑色の髪の青年――目つきの悪いチンピラといった感じで、抹茶を擬人化したような男だった。
「どうっすか、アイドル」と、往来する人々に声をかけている。
売り文句はアイドル。『いかがですか』『どうですか?』『やってみませんか』などの言葉の羅列は、卑猥でピンクな客引きにしか見えない。珍しい光景でもないのだろうが、和奏がわざわざ足を止めたのには別の理由があった。
――彼の足元には、ガラの悪そうな男や、特攻服を纏った輩など、いわゆる悪党のような連中が、苦しそうに転がっているのである。
抹茶髪の青年は、それらに気にすることなくビラを配りながら『アイドルはどうっすか?』と、謎の勧誘を続けていた。異端な光景のせいか、遠巻きに眺めている野次馬は多かった。
すると、その時だった。商店街の奥の方から、倒れている連中と同じぐらい悪そうな連中がドタバタと駆け寄ってくる。
「京史郎! 見つけたぞ、ゴルァ!」「ヤクザやめたんだろうが! よくこんなところでビラ配りしてられんなぁ、ああ?」
「野郎に用はねえよ。アイドルを紹介してくれるってんなら話は別だが――」
「スカしてんなよ、このサラダ野郎!」
屈強な男が殴りかかる。だが京史郎は、素早く蹴りを食らわせる。男は派手に吹っ飛び、古い商店街特有の屋根を見上げるようにして、動かなくなった。
「ま……牧原さんが一撃で……」
「や、やべえぞ……」
「びびってんじゃねえよ!」
「お、応援を呼べ」
「俺、そこのダイソーで、刃物買ってきます!」
怯むチンピラ連中たち。応援を呼ぶためにスマホを操作したり、百円ショップへと武器調達に駆け込んだりしている。しかし、戦意は失われていないのか、すぐさま京史郎へと一斉に襲いかかっていく。
「し、死ねや、京史ろゴァッ!?」
「調子乗ってんじゃねガふッ!」
「や、やめッぐぇッ!」
彼はビラを抱えたまま、涼しい顔してそれらを一瞬で叩きのめす。両手が塞がっているので、足しか使っていなかった。
「ひっ……バ、バケモノ……」「ど、どうする? 俺たちだけになっちまったぞ」
勝てないと悟ったのか、及び腰になるチンピラふたり。だが、仲間がやられて逃げ出すわけにもいかないのだろう。
「こうなったら、やってやるぁあぁぁッ――って、ま、待て! に、逃げろッ!」
勢いそのまま向かっていくと思ったチンピラ共だが、急遽反転。彼らは突如として、逆方向へとダッシュする。
うん。それもそのはず。なぜなら彼らの目には、迫り来る警察官の姿が見えていたからだ。十人ぐらいだろうか。手には警棒。あるいは拳銃。さらにシールド。国家の武装集団が、テロリストを鎮圧しにきたかのような勢いで、向かってきていた。京史郎も、それに気づいたようだ。
「あ、やべっ」
「そこの野菜頭! 榊原京史郎だな!」
「逮捕だ! いや、殺せ! 撃て!」
「死んだところでどうとでも釈明できる!」
「民間人がいます!」
「発砲はマズいですって!」
物騒な言葉を並べる国家権力。京史郎は、持っていたビラを一斉に放り投げた。派手に紙が宙を舞う中、彼は凄まじい勢いで商店街を駆け抜けていく。
「はっや! あの抹茶頭、はっや!」
「逃がすな! 追え!」
「待て、怪我人がいるぞ!」
怪我人たちを見つける警察官。見過ごすこともできず、ほんのわずかに足が止まる。
「くっ! ……おまえらは京史郎を追え! こっちは怪我人の手当だ!」
チンピラだからといって、放っておくわけにもいかないのだろう。警察たちは人員の半分を割いて、怪我人の介抱と救急車の手配を始めた。
「大丈夫か? 何があった? いま、救急車を呼んだからな」
「あ、いえ……大丈夫です……」
チンピラはバツが悪そうにつぶやく。喧嘩を売った彼らとしても、警察とは関わりたくなかったのだろう。
無線で連絡を取り合う警察官。野次馬たちも集まってきて、平和な商店街は結構な騒ぎとなった。
和奏は、そんな光景を見て「うわぁ……凄い現場に居合わせちゃったなぁ……」と、ひとりつぶやいていた。
「ん?」
ふと、和奏の足元にチラシが滑り込んでくる。京史郎なる抹茶頭が配っていたものだ。何気なく拾い上げる。
「……未来のアイドル募集中……?」
ぼーっと、チラシに書いてある文字を読み上げる和奏。
――その時だった。
「ひゃっはー! 武器を買ってきたぜ! さあ、京史郎! 今日こそ、おまえをぶっ殺して……や……るぇ……?」
先程、ダイソーへと武器を調達しに入ったチンピラさんが、包丁を振り回しながら、勢いよく店から飛び出してきたではないか。
周囲の視線が、一斉に彼へと向けられる。その視線には、もちろん国家権力も含まれるわけで……。
警察官の「確保ーッ!」という怒声が、高道屋商店街に響き渡るのだった。
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