第3話 第1村人発見

「指輪で転移できるのは…ここまでですね」

「あとは誰にも見つからないように…」


 鎧を纏ったモモンガさんと黒マントを纏った俺は第一階層の地下大墳墓地表部、中央霊廟まで転移した。


「えーと、出口は…」


 目の前にある階段を上りながら出口が見えないかと目を凝らしていると…


「へ?」

「!?」


 今、目の前に三体の悪魔が現れた。

 記憶が正しいなら、この目の前にいる三体はそれぞれ『嫉妬』『強欲』『憤怒』を二つ名にもつデミウルゴスの配下の三魔将…。いや、勝てるとは思うけど目の前に現れるので普通に驚く。


『も、モモンガさん。なんでこの子たちがここ!?』

『いや、俺もわからないですよ!』

「ん…これはモモンガ様にねも様。近衛をお連れにならずここにいらっしゃるとは」


「「(うげっ、デミウルゴス!))」」


「それにそちらのお召し物は…」

「「(しかも速攻でバレた!?)」」


 そう思った直後、そういや転移できるのって俺達しかいないからバレても当たり前かと思い直した。そりゃバレますよ。


「バレてしまったのは仕方ない。流石デミウルゴス」


 そう言いながらモモンガさんはフードを脱ぐ。


「何を仰いますか。例え、他の愚者達が魔法などで完璧に姿を御方々に似せようとも、数瞬の迷いもなく当てられる自信がございます!しかし…何故お二方は此処に?」


「あー、うん。少し事情がありねもさんときたわけだが…」

「…そういうことですか」


「「え?」」


 モモンガさんがそういうと、デミウルゴスがこういった。


「正に支配者にふさわしきご配慮かと考えます」


『えっ、ちょっ、どゆことですか!?これ!単なる息抜きに外出したいだけなのに変な風に変換されてません!?』

『ど、どうしましょう…ひ、ひとまず流れでごまかすしか…』

『そ、そうですね…』


「ですが、やはり供を連れずにとなると私も見過ごすわけにはいきません」


「…デミウルゴスよ。モモンガさんはその考えであってるが俺は違う。ただ、外の世界を…ナザリックを改めて自分の目で見て確かめたかったんだ。それに、護衛なら俺が務まるって思い勝手についてきたんだ」

「おお、そうだったのですね」

「でも…そうだな。モモンガさん、一人だけ同行を許してもいいですかね?」

「ああ、構いませんよ。一人だけ同行を許す」

「私の我儘を受け入れていただき、感謝します」


 そういい跪いているデミウルゴスを横に、俺とモモンガさんが歩いていく。こうして俺とモモンガさん、デミウルゴスは外が見えるところまできた。


「ワァー……すごい、綺麗…」

「(すごいな…こんな透き通った空は……みたことがない…!)」


 モモンガさんはどこからともなく翼の形をした青いネックレスを首にかけ、飛行フライの魔法を使い飛んだ。それに続くように俺も翼を顕現させ上空に、デミウルゴスは半悪魔形態―――蛙のような顔になり背中に悪魔っぽい翼が生え空へ。

 文字通り雲を突き抜けると、そこには圧巻で神秘的、それ以外何も言えないような光景が広がっていた。空には天の川っぽいものもあり、人工的な明かりなんてないのに、月と星だけで辺りを見回せる。


「本当に……現実とは思えませんね」

「そうですね…。ブループラネットさんにも…見せてあげたかった…」

「キラキラと輝いてる…。宝石箱…みたいですね」

「ええ…!」

「この世界が美しいのはモモンガ様とねも様の身を飾るための、宝石を宿しているからかと」


 デミウルゴスがそうやって褒めてくれる。ここまで純粋に褒められるとすっごい照れるな。


「ふん、確かにそうかもしれないな…」


 あれ?この骸骨さん、なんかまた支配者ロールに入ってないだろうか?


 「私がこの地に来たのは、この誰も手に入れていない宝石箱を手に入れるため…いや、私一人で独占すべきではないな…ねもさんや、ナザリックの皆…アインズ・ウール・ゴウンを飾るためのものかもしれないな」


 あ、だめだこの人。完全に入っちゃってる。


「お望みとあらば、ナザリック全軍をもって手に入れてまいります」


 それに対するデミウルゴスも凄いこと言う。そんなことできたら楽しそうだけど…


「ふん、この世界にどのような存在がいるかも不明な段階で…か?ただ…そうだな。



 世界征服なんて面白いかもしれないな」


「っ!」


 おっとモモンガさん。それNPCのみんな本気にすると思うが?でも…面白そうなのには全面的に賛成。


「いいですね、モモンガさん。世界征服、やっちゃいますか?」


 そういうとデミウルゴスは更に驚きの表情をした。こうなったらとことんモモンガさんに乗っかろう。


「いや、しかし…言ったはいいが、私達を凌ぐ敵がいるかもしれないんですよ?」


「確かにおっしゃる通りです。しかし、それはその時に対処すればいいんです。俺とこのナザリックの皆がいる限り、誰も傷付けさせたりなんてしませんよ!それに…俺とモモンガさん、ナザリックの力が合わされば、俺たちに敵う種族なんて手で数える程度…この地の最強だって夢じゃありません!」


 おおらかにそう告げ笑ってみせると、モモンガさんも少し気が楽になったからなのか、フフッと笑い返してくれた。この人だけは心配させたくない、そんな思いが一段と強くなるのを感じた。


「そう…ですね。ええ、全くその通りです。俺達ナザリックは世界最強です!」


「うんうん、やっぱりモモンガさんは、それくらい大きくいた方がかっこいいですよ!」


「ぶらぶらぶらっど様、モモンガ様。先ほどの言葉、とても感動いたしました。このデミウルゴス、より一層!この身をお二方に!捧げさせていただきます!」 


「そうか…」


「うん…ありがとう、デミウルゴス」


 そして、この後にNPC達の中での最終目的が世界征服になってしまったのは言うまでもない。二人ともノリで言ってしまったなんて…。




「モモンガさーん。いますか……って、何してるんですか」


「ぶらぶらぶらっど様、ようこそいらっしゃいました」


「セバスも一緒か」


 翌日、モモンガさんの部屋を訪れると何かを弄っていた。近くでセバスが見守っているが…


「あれ、それって遠隔視の鏡ミラー・オブ・リモート・ビューイングですか。なんでそんな珍しいアイテムを…」

「今の状況では、十分役に立つかと思いますよ。けど操作方法も変わってて、試行錯誤を重ねてるところです」

「なるほど…。で、どんな感じですか?進捗は」

「今やっと視点の変更までできて、本来の使い方ができた、って感じです」


 俺はモモンガさんの横にテクテクと小走りで移動し、鏡を覗き込む。


「おおー、懐かしい。この初心者感………ん?」


 鏡に何かが映り、俺もモモンガさんも止まった。

 そこには、人間の村っぽいものがあったんだけどなにやら騒ぎになっていた。


「これは…祭りか?」

「いえ、これは違います」


 モモンガさんがズームをしてみる。そこでは鎧を纏った騎士が、無抵抗で逃げ惑っている村人を殺して回っていた。ひでーなこれは…


「…どうしますか?モモンガさん。この村、助けますか?見捨てますか?」

「…見捨てます。助けに行く理由も利益もありません」


 モモンガさんは私の問いかけに少し考えるそぶりをした後に答えてきた。


「…はい、わかりました」


 モモンガさんの言い分に何も異を唱えることなく賛成すると驚かれた。


「反対…しないんですか?ねもさん、カルマ値が善寄りだから…こう言うことは許せないのでは?」


「そりゃ許せないです。この騎士達を皆殺しにしてやりたいです。ですが…それは俺の為だけであってナザリックの為ではありません。流石にその辺は分を弁えますよ。ナザリックの誰かが害されたなら、容赦無く叩き潰しますけど、誰も彼もあんまり好き好んで助けようとは思わないですね」


「そうですか…」

 

「…ですが、助けるメリットもあります」


 俺はそう言い、話を続ける。世界征服を目指すというなら、この世界の情報は出来る限り多く集めた方が安全なのだ。

 ゲームでも現実でも情報の統制によって和平が保たれており、下手に虚偽等で踊らされては破滅するからだ。

 それにあの兵士と戦って、この世界の戦闘レベルを経験できるチャンスでもある。


 俺は鏡を見た後に、セバスを見た。異形種PKが流行っていた時、見ず知らずの自分たちを助けてくれたたっち・みーさんを思い返す。「正義降臨」とエフェクトつけてまで助けられた事にフッと笑った。改めて鏡を見ていると、逃げ惑っている姉妹を騎士が斬りつけていた。マズいな…姉の方は、このまま放っておけば失血死するだろう。


「…ぶらっどさん、やっぱり助けに行きましょう」

「言うと思いましたよボス、付き合いますよ」

「ありがとうございます。それでは…セバスよ、ナザリックの警備レベルを最大まで引き上げるよう皆に伝えろ」

「畏まりました」

「それじゃあ…俺とモモンガさんは先に行く」


 俺とモモンガさんは、ゲートを使って先ほど斬りつけられた姉妹の側へ移動した。俺は通常戦闘服で、モモンガさんはいつもの装いのままで行った。


 


 ゲートをくぐり抜けると、モモンガさんが先ほどの斬られていた姉妹と襲っていた騎士の間に立つ。第九位階魔法の心臓掌握グラスプ・ハートを使い、即死をさせる準備をしていた。


「女子供は追いかけ回せても、毛色の変わった相手は無理か?」

「ひっ、た、助け、助けてくれっ!」


「…では、死ね」


 モモンガさんが手の平に持っていた心臓を握りつぶすと目の前に立っていた騎士は崩れ落ちた。多分というか確実に死んだでしょう。


「ひ、ひいっ!?」

「逃すとでも思ってるのか?」


 背中を見せて逃げ騎士の前に、飛んで回り込む。


「ひいっ、く。くるなぁ!」


 騎士が苦し紛れの剣を振って来る。が…不思議な感覚に落ちていた。


「(すご…止まって見える…)」


 剣士の動きが時間が止まったのように見えるのだ。ひょっとして取り柄は格好だけなのか?


「甘い」


 瞬きすら許さないほど、華麗に日本刀で騎士の首を刎ねる。


「うーん…この騎士のレベルなら遺産級どころか最上級でも十分なんじゃ…いや。流石にそんな低レベルのものはないけど…」


「ぶらっどさん、お見事です」

「いえ…もう警戒してたのが阿呆らしいくらい弱かったです」

「ですが、この騎士達だけかもしれません」

「まあ、油断はしませんよ。ところで…その斬られている方、大丈夫でしょうか?」


 襲われていた姉妹のことを思い出し、モモンガさんがポーションを取り出し、姉妹に差し出す。


「これを飲め」

「の…飲み…ます。だ、だから…い、妹には……手を……」

 


…あ、モモンガさん骸骨顔のままだった。そりゃ、その姿で訳の分からない物を差し出されたら抵抗するのは当たり前なのである。


『モモンガさん、ここは俺が変わりますよ。多分、その骸骨顔に怯えてるんです』

『ああ…なるほど。それではお願いします』


 そう軽く会話を交わし、モモンガさんから取り出していたポーションを受け取る。フードを外し、できる限り相手と同じ目線になるように屈む。


「大丈夫だ、これは治癒のポーション。飲めば治る。飲みづらそうだから、手伝ってあげてくれ」


 とりあえずできる限りの笑顔で妹の方に話しかけると、恐る恐る、といった感じでポーションを受け取り、姉だと思われる方に必死に飲ませていた。


「え…嘘…。傷が…ない」

「よし、治ったな」


「…アンデット作成も試してみるか。中位アンデット作成、死の騎士デス・ナイト


 モモンガさんは実験込みで死体を使ってアンデットを作り出した。すると、先程まであった死体よりも巨大化したでっかいアンデットの騎士が作成された。


「(うえっ、死体に乗り移るのかよ。ゲームじゃこんなことなかったはずなんだけどな…)…デスナイトよ、この村を襲っている騎士を殺せ」


 デスナイトは命令されると、雄叫びをあげ村の方へ走っていった。


「「(ええ…盾が守るべき者を置いていったぁー…)」」


 いやまあ命令したのモモンガさんだけども、流石に驚きを隠せない。本来、デス・ナイトは盾役のモンスターのはずで間違っても召喚者からは離れないはずなんだけど…。


「俺もやっときますか…分身作成!」


 俺もスキルで1体、フードを被った分身を召喚する。

 見た目は御使いのようなフードを被った姿だ。戦闘能力関しては分身体である為何倍も落ちるが、監視程度なら十分だろう。その分身体はこちらに軽く会釈すると、デス・ナイトを追うように空へ飛んだ。


「それじゃあ…俺たちも村へ向かいますか」

「そうですね…ですが、その前に……」


 モモンガさんは姉妹の方に向けて防御系の魔法をかけた。姉妹を囲うように薄い緑色、だけど透明な膜が姉妹を覆った。


「その中にいれば大抵は安全だ。それと困ったらこれを吹くといい。ゴブリンの軍勢がお前を守ってくれるだろう」


 そう言い、気前のいいことにゴブリンを召喚できる角笛を二つ姉妹に投げ渡す。これなら暫くは安全だろう。


「あ、ありがとうございます!あ、あの…お二方の…お名前はなんと…」






「我が名を知るがよい。我こそが…偉大なる魔術師、アインズ・ウール・ゴウン!」

「そして、その補佐…竜神ブラッドである!」


うーん決まった。

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