44:衝撃の発表(国王視点)
その日、王国ではちょっとした騒ぎがあった。
強大な大国であるユイバール国は謎めいた国ではあるが、それなりに有名だ。
その国の王が“客人”として王城にいる。友好関係を築くためという名目ではあるが、城の関係者は嫌な予感がしていた。
そんなとき……そのユイバール国王の妻であるユイバール国王妃が、夫の知らぬ所でとんでもない発表をしたのだった。
「た、大変です!国王陛下!」
顔を真っ青にした兵士がこの国王の部屋へと転がり込んでくる。せっかくルネス王の機嫌を取っていたのに台無しだ。とブレーグスは眉をしかめる。国王たる自分にそんな態度をするなど普段ならすぐさま打ち首だと叫ぶところだ。
本来なら兵士が直接自国の王に書状を持ってくるなどあり得ない。宰相はどうしたのかと目配せをするが見当たらない。だが、兵士のあまりのその慌てように異様な雰囲気を察した。
「何事だ!今はユイバール国王との会談中だぞ?!無礼者!」
ルネス国王が見ているので建前上は「厳罰を与えるぞ」と声を荒げたがブレーグスは嫌な予感に背筋に冷たい汗が流れる。
「そ、それが……ユイバール国の王妃様が……」
震える声で書状を差し出した兵士がそれを差し出した。ブレーグスは恐る恐るそれを開き目を通していく。
「我が妻が?」
ルネス国王がピクリと反応を示し声を出すが、ブレーグスは返事をすることなくその書状の内容に目を見開いた。いや、その内容が理解出来なくて返事をする余裕がなかったのだ。
な、なんだこれは……。どうゆうことなんだ?!と混乱していた。ブレーグスにとってそれくらい衝撃的な内容だったのだ。
「おい、なんと書いてあるんだ?……それを寄越せ!」
ブルブルと震えるだけで返事をしないブレーグスに痺れを切らしたルネス国王は書状を奪い取り、その内容に驚愕する。
「な、なんだこれは……!」
そこには、“罪を犯したルネス国王を王座から退けさせ、新たな統一者を誕生させる。その名はラインハルト”と、スリーラン王妃の直筆でサインがしてあったのだ。
ブレーグスがルネス王のために血眼になって探している“ラインハルト”なる人物がすでにスリーラン王妃の手の内にあるのだ。未だに公爵家の人間すら発見出来ずにいたブレーグスは悔しさに顔を歪める。公爵家の娘を捕まえれば必ずラインハルトなる人物の行方を掴めると信じていただけに、スリーラン王妃にしてやられたと感じたのだ。
「何を考えている、スリーラン……!」
怒りと困惑に震えるルネス王が、書状を握りつぶして呟いた。
***
「こんなめちゃくちゃな事、本当に大丈夫なんですか?叔母様」
「あら、わらわに話を持ちかけたのはそなたでしょうに」
何を今さら。と、喉の奥を鳴らすスリーラン王妃。彼女は今、他国にいながらユイバール国王妃と言う立場と権力をフル活用している。この場にユイバール国の宰相がいれば卒倒するであろう事案だ。確かにライルから持ちかけた話だが、腹を括ったスリーランの行動力に驚かされてばかりだ。
しかし、あまりのんびりしていられないのも事実である。
「仕方無いでしょう。ルネス王本人は裏で暗躍しているのが好きなので、こうでもしないと表に出てきませんからね。ユイバール国王家としては決して許されない罪を犯したのだから、償ってもらいます。これは王家の姫たるわらわの決定です……それに、国の頭が自らの罪を隠蔽するような者では、いずれその国は滅んでしまうでしょう。お兄様さえいなければ、わらわがどうとでも納められますーーーーいえ、納めてみせます。
それに、そなたの大切な令嬢の存在にお兄様が気付くのも時間の問題。そうなればどんな手段に出るか想像しただけでも恐ろしいわ」
「叔母様……ありがとうございます」
ライルは自分の素性と共にセリィナとの事も包み隠さずスリーランに告げていた。スリーランは本当はルネス王を退けた後はライルに……とも思ったが、ライルのセリィナへの気持ちを聞きそれを口にはしなかった。
ただ、兄であり夫であり国王であるルネスに、自分の罪はちゃんと償わせたい。そう思っていた。
「では参りましょうか、ライル。……“ラインハルト”も準備はよろしくて?」
「もちろん」
笑顔を向けるスリーランの隣で、ふたつの影がゆっくりと動いたのだった。
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