41:悪役令嬢と恐怖の出会い
あれから何日経ったのだろう。
あの通路を駆使し、公爵領地内の領民の家を転々と移動していた。結局使用人たちが全員集合することは出来なかったが、入れ替わりで定期的に顔を見せてくれる。私もその間は変装したりあの少年にも協力してもらって兵士の目を掻い潜って過ごしていた。
公爵領の人たちはとても親切で優しかった。マダムに至っては私の変装用にと新たな服まで用意してくれたのだ。それと、ドクターと呼ばれるおじいさんにも出会った。ライルの事をよく知っているらしくライルの子供の頃の話を聞かせてくれた。そして私を見て「そうか、お嬢さんがセリィナお嬢様か……やっと会えた」と、まるで孫でも見るかのように優しく接してくれた。
そして不思議なことにいつの間にかあんなに怖がっていたはずの街の人達が全然怖くなくなっていたのだ。みんな私たちの逃亡に協力的で「公爵家の方々を信じてますから」と口を揃えて言ってくれた。屋敷から外に出ても、こうして触れあっても大丈夫なんだ。と頑なだった心がほぐれていった気がした。
あれから何度も兵士たちに探られたがみんなの協力もありバレることはなかった。
たった数日。それでもとても長い数日を過ごしていた頃……。
私の前にあの人物が姿を現したのだ。
「こんなところに隠れていたのね」
私と同じプラチナブロンドの髪と翠玉色の瞳をしたひとりの少女が目の前に立ちはばかる。
「あ、あなたは……」
そこにいたのはヒロイン……フィリア男爵令嬢だったのだ。
フィリアは私を見てニヤリと口の端を歪める。最近は兵士の数も減ったし国王も諦めたのかもしれないと油断していた。いつもなら使用人の誰かと一緒に行動しているのだが、今日に限って誰も側にはいなかった。今になって思えば、なぜかどうしてもひとりで行動したいと思い頑なに同行を断ったのだと思い出す。ヒロインが現れるなんて考えもしなかったが、まさかこれもゲームの強制力だったのだろうか。
「あんたを探し出せばあたしは自由になれるのよ!」
私の腕を掴み、ゲラゲラと笑うヒロインの姿に背筋が寒くなる。フィリアはなぜ私を探していたかを血走った目で唾を飛ばしながら語った。
「あの異国の王様がね、あんたと一緒にいた赤い髪の奴を探しているの!男か女かどっちかは知らないけど、王様とそっくりな顔をした赤い髪の奴ならセリィナとべったり一緒にいるって教えてあげたのよ。
そしたら、あんた……セリィナ・アバーラインを見つけたらあたしを優遇してくれるって約束してくれたの!
これであたしは公爵令嬢より高位な貴族になれるのよ!あっははは!」
「や、やめっ……!」
血走った目のまま高笑いするフィリアの姿に恐怖を覚えた私はとっさに抵抗しようとするが、すでに遅かった。
わたしの口元には何か甘ったるい香りのする布が押し付けられ、その香りを嗅いだ途端……私の意識は途絶えたのだった。
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