36 : 悪役令嬢とあの言葉
「さぁ、セリィナ!今こそあの言葉を言うのよ!」
「で、でも……!」
「もうそれしかないの!全てはセリィナにかかっているのよ!」
ふたりのお姉様に背中を押され、私は意を決して息を吸い込んだ。
本当にこんな事で上手く行くのだろうか?だが、今はこれしか方法がないのも事実だ。もしかしたら何の効果も無いかも知れないが、それでもやるしかない……!
私は口を開き、お姉様に教えられたあの言葉を放ったのだった。
「オ、オトウサマナンカ、ダイキライー(棒読み)」
「ぐわっはぁ!!」
お父様が吐血して倒れた?!
「やはり、クリティカルヒットしましたわね!それにしても、吐血だけで済むなんてお父様ったらお強いわ」
「恐ろしい言葉ですわ……。わたくしがあんなこと言われたら心臓が止まりましてよ」
どうやら魔法の呪文「オトウサマナンカダイキライ」は最強らしいです。
「くっ……!なんて恐ろしい事を……。だ、だがワシが簡単に口を割ると思ったら大間違いだぞ娘たちよ……!」
あ、起き上がったわ。良かった、生きてる。お父様はまだ生きてる!
「ちっ。しぶといですわ」
「こうなったらさらに酷い事を言うしかないわ!セリィナ頑張って!」
ローゼお姉様が舌打ちし、マリーお姉様が私にさらなる合図を出してきた。もうここまで来たらやるしかない。
「は、はいっ……!えーと、えーと……。
オトウサマノカオモミタクナイワー(棒読み)」
「どぅっふぅ……!!」
「さらに追い討ちよ!」
「オトウサマクサイー(棒読み)」
「おぉぉぉぉぉ……!もうやめてくれぇぇえ!!なんでも、なんでもしゃべるからぁ!!」
お父様は地に膝をつき、敗北を認めたのだった。
やはり、お姉様達の教えてくれた呪文は最強だったようです。
***
地下通路を通り、お姉様たちが言っていたお父様との待ち合わせ場所には無事に着いたのだが……その後が大変だった。
「お父様はライルの居場所をご存知なのでしょう?今すぐ教えてくださいませ!」
「そうですわ!セリィナが悲しんでいるのですよ?!」
やっとお父様が姿を現したと思った途端、お姉様たちの猛口撃が始まったのだ。しかしお父様は頑なに口を割らない。「今は言えない」と、それだけだった。
落ち着いて考えればお父様なりに何か思うところがあって秘密にしているのだろうとわかるのだが、何せその時はとにかくライルの事が知りたかった。
だから思わず私も「一生のお願いです。お父様!」と涙を溜めて訴えてしまったのだ。
娘たちからの連続お願いにはお父様もかなり揺れたらしく「ぐぅ……!一生のお願い……セリィナの一生のお願い……だがしかし!いくらセリィナのお願いでも今は言えないのだ……!」と苦しそうに身悶えしたがやはり断られてしまう。
だが、私の瞳から涙が一粒零れた後……護衛で一緒に来ていた使用人たちがハイライトの消えた死んだ魚のような目でお父様を見始めた。
「ないわー。旦那様ないわー」
「セリィナお嬢様の一生のお願いを断るなんて……正気か?」
「あーあぁ、旦那様やっちまったなー」
「セリィナ様を泣かせるなんて……例え旦那様でも、ヤるか?」
そんな冷たい視線にグサグサと刺されながらもお父様は必死に耐えたのだ。
そして痺れを切らしたお姉様たちは「「こうなったら最後の手段よ!」」と私に最終兵器“魔法の言葉”を耳打ちしたのだった。
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