33: 悪役令嬢と使用人②
なんてことだろう。私はアバーライン公爵家の隠された秘密を知ってしまった。
いや、まぁ、確かに使用人たちのことには驚いたけど……あの兵士たちに使用人のみんなが傷つけられなくて本当に良かったと思っている。だってみんなは私の大切な家族同然だもの。
ロナウド曰く、アバーライン公爵家の使用人に起用されるためにはそれなりの戦闘技術が必要らしく……まさか料理長が元暗殺者で、庭師は闇格闘家(なんでも闇賭博的なアレらしい)なんて過去を持つとは欠片も知らなかった……。うん、ゲームではモブ扱いの使用人のバックまで語らないから仕方ないけど本当に驚きました。もしかしたら侍女のみんなもなにかあるのだろうか?採用試験で頭角を現した場合はそこから修行してから採用らしいけど。
……え、公爵家の使用人になるのってそんなに危ないの?普通の貴族だよね?……謎です。
とまぁ、そんな謎な秘密を知ったのはいいとして。確か屋敷にいるのは危ないから移動する……と聞いたのに、連れてこられたのは屋敷内の普段あまり使われていない倉庫の前だった。
「この間やっと完成しましたのよ」
「こんなにすぐ使う事になるとは思っていませんでしたけど、間に合って良かったですわ」
そしてお姉様たちが「「じゃーん!」」と口を揃えて倉庫の扉を開いて見せたのだ。
「こ、これは……?」
そこにあったのは地下へと続く細く長い道。先の方は暗くてよく見えないがとにかく奥へと続いているようだ。
「これは地下通路ですわ。公爵領の領地内にならここを通ってどこへでも行けましてよ」
「いくつかの場所へも避難場所として繋げてありますわ。もちろんそこに住んでる領民にも承知済みですわよ。
まずはお父様たちと合流しましょう。緊急事態の時に落ち合う場所は決めてありますわ。そうしたら……」
そこで言葉を切り、ローゼお姉様は私の手をそっと握った。
「ライルの行方を探しましょう。お父様ならきっと何か知っているわ。わたくしたちの可愛いセリィナをこんなに悲しませるなんて許せませんもの、すぐに見つけ出してきっちりお仕置きしなくてはね」
「大丈夫よ、セリィナ。アバーライン公爵家が本気を出せば砂漠に埋まってる一粒のダイヤだってすぐに探し出せますわ。なにがなんでもライルを探し出してもう二度とセリィナから離れないと誓わせてやりますわ」
「ローゼお姉様、マリーお姉様……私……」
私の手を握るローゼお姉様の手の上にマリーお姉様が手を重ねる。
「だから、安心なさい。セリィナには笑顔が似合っていてよ」
優しく微笑むふたりのお姉様の優しさに涙が溢れた。
「お嬢様方、とにかく通路を進みましょう。使用人たち数名はお嬢様方の護衛としてついてきなさい。残りは追手の目を引き付けるために散らばって時間を置いてから集合するように」
ロナウドが使用人たちに指令をしながらそれぞれに役目が与えられ、みんながウキウキとし出す。
「よっしゃぁ!護衛役ゲットぉぉぉ!これでセリィナ様をお守りできるぞぉぉぉ!」
「まじかぁぁぁ!これじゃ3日もセリィナ様のお姿が見れない……じ、地獄だぁ!」
え、いやなんで私基準なの?使用人たちの異様なテンションの落差に溢れた涙も引っ込みそうだ。ちょ、料理長?なんで護衛役外れたからって包丁振り回してるの?危ないよ?
「セリィナは相変わらず公爵家のアイドルね。ライルが見つかってもセリィナを悲しませた罪でみんなにフルボッコにされそうですわ」
「天使より可愛いから仕方ないですわ。みんなセリィナの為ならなんでもするくらい溺愛してますもの。……1番セリィナを愛しているのはわたくしですけどね!」
「あら、それはわたくしよ。ちなみにライルを1番に殴るのもわたくしですわよ」
「それは一緒に殴りましょう」
お姉様たちがにこにこしながらぽそりと何か呟いたようだったが使用人たちの反応にあたふたする私の耳には届かなかった。
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