22:悪役令嬢ともうひとつの悪夢

久しぶりに悪夢を見た。


だが、それはいつも見ていたものとは同じようでまったく違っていたのだ。






“私”は暗い夜道を歩いていた。そこはあまり知らない裏道で、でも急いで帰らねばならないからと近道を早足に進んでいたのだが、それは突然に起こった。


見知らぬ男が現れたかと思うと、ニヤニヤと顔を歪めながら“私”に向かって包丁を振り下ろしてきたのだ。

逃げようとしたが足を掴まれ転倒してしまう。そして上を見上げればニヤニヤとした嫌な顔と、“私”に向かってくる切っ先。怖くて怖くて、“私”はそのまま意識を失った。



そう、これは前世で殺された時のことだ。夢ではなく現実に起こった過去だ。そしてそれを私はまるで幽体離脱したかのように第三者目線で見ている。


何度も何度も包丁で刺されている“私”は、たぶんもう絶命しているのだろう。ピクリとも動くことなく血溜りの中に沈んでいた。


その手にはあの雑誌がしっかりと握られていた。


“私”を存分に刺した男は相変わらずニヤニヤとしながら“私”の手から血塗れになったその雑誌を奪い、ビリビリとページを破っていく。


バラバラになった雑誌のページはふわりと風に乗りとあるページが1枚、私の目の前を過っていった。


『あ……』


私がそのページに目を奪われていると、どこからかサイレンが耳に届いた。


とっさにそちらへ視線を動かせば、あの男が警察に囲まれ……包丁をぶんぶんと振り回していた。


「ちくしょう!ちくしょう!この女のせいだ!こいつが手間をかけさせたから逃げ遅れたんだ!!」


自分勝手な言い訳を叫びながら勢い良く腕を振るとーーーー血で濡れた手から包丁が滑り、男の首を切り裂いたのだ。


血溜りにさらに血が降り注ぎ、その中に男が倒れた。


倒れた男が首を回転させるかのようにぐるりと上を向く。首の傷口が開きビチャビチャと音を立てさらに血が噴き出した。


そして……私を見た。


「許さないぞ」


そう言って息耐えたのだった。


私にはその男の目が恐ろしかった。だってあの目を知っている。


憎悪に満ちた目で私を見る、ミシェル王子と同じ目だと思ったからだ……。
















「……!」


じっとりした汗が肌にシーツを張り付かせる気持ち悪さで目が覚める。


怖くて、怖くて……ライルの姿を探した。


部屋にはいない。なんとなく予感が働いてお父様の部屋へと行くと、中から話し声が聞こえた。


そして聞いてしまったのだ。ライルの声を。


『……じゃあ、そのゆきずりの旅人がこの手紙の国王でアタシの父親だって言うの?

アタシはーーーー』


「!」


それだけが聞こえて、私は咄嗟にその場から離れた。


今、ライルは何を言っていたのだろう?

国王?ライルの父親?お父様やたぶんロナウドも一緒にいる気配がした。3人で何を話していたの?


……ライルの家族はお祖母さんだけのはず。そのお祖母さんも亡くなったって言ってた。


でも、そういえば両親は?ライルの両親のことはなんとなく聞いてはいけない気がしていたけれど、もしかしてライルの父親が見つかったってこと?





ライルのお父さんが、どこかの国王?じゃあ、ライルは……どこかの国の王子様……?




なんとか部屋までたどり着き、冷たいシーツにくるまる。


ガクガクと震えが止まらない。だって、思い出してしまった。


あの夢の中で見た、ビリビリに破られた雑誌のページ。私が見たあのページに書いてあったことを。





〈シークレットキャラ情報解禁!〉


〈シークレットルートではヒロインが悪役令嬢に窮地に追いやられるが、シークレットキャラがそれを救ってくれるぞ!〉


〈極秘情報!実はシークレットキャラはとある国の王様の隠し子らしい……!ヒロインは闇を抱えたシークレットキャラの心をつかむ事が出来るのか?!〉


〈さぁ、あなたはシークレットルートを開くことができるかな?〉


そしてシークレットキャラの後ろ姿が描かれたイラストが1枚載っていた。


そのキャラクターは、とても鮮やかなワインレッドの髪をしていた。

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