冒険者ギルドに就職しました。

@take4funa

就職しました!

第1話 就職

「ほ、本日からお世話になります!よろしくお願いいたひまぶっ!」

『……盛大に噛んだな』


 ああ嚙んじゃった……どうしよう、挨拶も碌にできないと思われたかも。

 冒険者ギルド二階の会議室。正面には3人の幹部が座っています。真ん中の女性がたぶん支店長さん。ふっくらした優しそうな人ですが、こちらを真っすぐに見る視線にどうしても緊張しちゃう。


「ふふふ、新人くんはだいぶ緊張のご様子だ。なに、最初はみんなそんなもんよ。ねぇ?」

「おうよ。俺っちなんて挨拶回りじゃ緊張しすぎて下着履くのも忘れちまったぜ!あれ?そういや今日も履いてねーや!ガハハ!」

「変態は黙れ」

『うわ変態』


 そ、そっか。ちょっと安心……?やっぱり豪快な人が多いのかなぁ。


「よろしくな、新人くん。私は支店長のトットだ」


 中央に座る年配の女性。想像通りの優しい声。口調はちょっと意外。

『ユーキ、こちらも名乗らなきゃ』

 あ、まだ名前言ってない。


「よろしくお願いします!ボク……わわわたしはユーキと申します!申し遅れました!」


 礼、礼……こんな感じかな?


「ははは。作法は気にしなくていいよ。お貴族様の屋敷じゃないからね」

「お、ボクっ子か?おじさんそういうのだーいs」

『やっぱ変態』

「変態は黙れ。私は副支店長のニコだ。この変態も副支店長だが気にしなくていい。空気のようなものだ。そんで……ユーキだったか。お前は男、でいいのか?経歴書にはそうあるが」


 やっぱり聞かれるよね……。こんな外見だし。


「は、はい。その、一応、ついてます……」


「ぷっ」

「グハァ」

「おま、」


『あなたねぇ……』

 何か悪いことを言っただろうか。支店長さんまで笑っている。


「す、すまない。くくっ。ユーキ、君は素質あるな」

「お前、その表情で……『ついてます…』っておじさんは……グハァっ」

『「変態は黙れ」』


 ??

 よくわからないけどみんな楽しそうです。よかった。第一印象から最悪、という事態は避けられたようです。念願の冒険者ギルドに就職できたんだから、これから少しでも長く働けるといいな。



****



「じゃあユーキ、改めて。今日からキミは<ジュネラシア採集事業者互助組合ルクシア支部>の職員だ。就職おめでとう」

「ありがとうございます!」


 支店長……トットさん。隣の副支店長がニコさん。反対側も副支店長の……変態さん?何て呼べばいいんだろう。


「これがルクシア支部からの辞令だ。組合職員ユーキ、キミにはリゼ支店への勤務を命ずる。まあ、要するにここだな」

「はい!拝命いたします」


「はいめい?……お前難しい言葉知ってんなぁ」

「変態は黙れ。そうか、ユーキは教育所上がりだったか」


 そうです。こんなボクが仕事にありつけたのも、教育所で色々な勉強をさせてもらえたから。領主さまには感謝しきれません。1年半しかいられなかったのが残念です。


「期待していますよ、ユーキ。それじゃ、実際の仕事については……ニコ。お願いできる?」

「ええ。お任せください」

「頑張れよ!じゃ店長、俺っちも仕事に戻るぜ!」


 あ、変態さん……結局名前聞きそびれちゃった。



****



 ギルドの建物は二階建て。一階は受付や酒場になっていて会議室や執務室は二階にあります。別棟に解体設備や訓練所、宿泊施設なんかも併設されているので、なかなか広大な敷地です。教育所も大きい施設だったけど、あれは庁舎移転で使わなくなった役場跡だったから随分と雰囲気が違う。何と言うか、こちらは開放的。


『ユーキは迷子になりそうだね』


 会議室を出たニコさんがどこかにボクを案内してくれるみたい。自分の席とかあるのかもしれない。大きな建物だけどまあ、さすがに迷子になるようなことは無いかな。ここよりも今住んでる場所の方が余程迷路みたいだ。


 リゼの町はそれほど大きくないから、各種ギルドは重要な就職口。一番人気は商会ギルドで、ここは新人だと貴族や有力商人の紹介とか、教育所で図抜けて成績優秀な人とかじゃないと入れない。次は馬車ギルド。経費で色んな町に行けるのが良いみたい。男性には鍛冶ギルド、女性だと芸術ギルドなんかも人気。ギルド職員は裏方が基本だけど、鍛冶や芸術ギルドの場合は職人側に回ることも少なくない。冒険者ギルドは……あまり人気の就職先ではないかな。

 冒険者になる人は多いけど、わざわざ職員を目指す人はほとんどいない。実際、スタッフもほとんどが元冒険者で、荒っぽい人が多いとか。美人で優しい受付嬢なんてフィクションです。未経験の新人はだいたい1年持たずに辞めちゃうらしいです。まあ、だからボクなんかが就職できたんでしょう。



「ユーキ、ここがお前の席だ。と言ってもしばらくは研修続きで席なんて要らないかもしれないけどな」

「はい!ありがとうございます」


 職員の執務室には5人分の机。

 え、少なくない?小規模な支店とは言え15人くらいは働いてるはずなんだけど。


「ここは斡旋部の執務室だ。渉外部と管理運用部はまた別の部屋になる」

「あ、そうなんですね。ボクは斡旋部に所属するのでしょうか?」


 斡旋部……たぶん受付関係とか、そんな感じかな。

『美人受付嬢でも目指すのかな?ふふふ』


「ああ。新人はまず斡旋部に配属だ。そこで適性を見て、場合によっては他部署に異動する」

「わかりました。あの、依頼受付をするんでしょうか?」

「そうだな。と言ってもカウンター業務は経験がモノをいう。しばらくは斡旋表の作成、依頼ランクの確認、あとは依頼元への対応なんかがメインになるだろう」


 うおお。具体的な業務の話が出ると緊張してくる。

 でもいきなりカウンターに座ったりするわけじゃないんだね。そこは少し安心。


「んじゃユーキ、早速現場に行ってみようか」


 いよいよです……大丈夫かな……。


『そんなに心配しなくても大丈夫よ、あなたなら』

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