カンダタ【脳/バス/蜘蛛】

パックはこのバスをハイジャックしたことを既に後悔していた。

ロンドンで強盗をした後にひたすら西部へ逃げてきた。そして次に目をつけたのがこのバスだった。

しかしこれはとあるコミュニティの人間しか利用しないバスだった。


スパイダーマン。

額に大小の四つの穴が空いた人たち。

正面はまるで蜘蛛の顔のように見える。

彼らのコミュニティでは生まれた直後に、前頭葉に向けて4箇所の空洞を作る。

己の精神世界を外科的に制御することがコミュニティの習わし。

パックも実際に目にするのは初めてだ。


圧倒的に静かな精神世界を持つ彼らは、ハイジャックごときでは動じない。

穏やかにパックを諭すだけ。

「どうしてこんなことを?」

「怒りに身を任せてはいけないよ」


パックが宥められている間にバスは彼らのコミュニティに入る。

その頃にはパックは、このコミュニティに身を任せることを決めていた。

手術を受けて、新しい穏やかな人生を送るのだ。


○○○


サンド刑事は驚いていた。

強盗をしたパック・リードを追っていると、彼は既に"刑を執行されていた"。

彼のような衝動的な強盗犯などはロボトミーのうえ、この村に送られる。

人権団体からの批判を避けるため、表向きは宗教的なコミュニティとされているのだが。

本来額にあるはずの穴がないが、パックは既にとても穏やかな表情をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る