剛球 -ゴウキュウ- 【始まり/バット/車】

野球のルールが変わってしばらく経つ。

球界に突如として現れた剛腕投手、鈴木が野球という競技を破壊した。

その腕から放たれる速球は捕球できる捕手が存在しないため、キャッチャーは廃止。

ボールが前に飛ばなすぎるためフィールドは縮小。内野の線を超えればホームラン。エトセトラ。


B球団今年のドラフト1位、シンドウはかつての野球を取り返そうとしていた。

まるでバッターがピッチャーのお情けでボールを前に飛ばさせて頂いているかのような。

かつてのスラッガーに憧れて野球を始めたシンドウにはそれが許せなかった。


鈴木との初対戦。

シンドウにその記憶はない。

余りの球威を間近で感じた衝撃で、何も思い出せないのだ。

打ちひしがれたシンドウは、1人の力で鈴木の打倒は無理だと悟る。


一人目、ヤマサキは球界一の体格を持つ外野手。

ルール改定により球界を追われてもなお、トレーニングを欠かしていなかった。

腕力だけならば、鈴木の足元には届くかもしれない。


2人目、シロウマルはルール改定以前の10年の山籠りをしてバッティングを磨いている男。

そのバット速度はカマイタチを巻き起こし、車のタイヤすら両断する。


シンドウはヤマサキ、シロウマルをチームへ呼び、鈴木と再び対戦する。

作戦はこう。

ヤマサキの剛腕によるバントでファールを続け、鈴木の体力を削る。

続くシロウマルの高速のバットでタイミングをはかる。

そして最後にシンドウがクリーンヒットを狙う。


そして挑む対戦。

ヤマサキは奇跡的に10球のファールに成功するが、手首を破壊されてしまう。

シロウマルは真芯で捉えることに成功するも衝撃に耐えきれず肩を砕かれる。

そして最後のシンドウの打球は、ピッチャーゴロ。


鈴木はそのボールを一塁へ投げることはなく、シンドウも一塁へ走ることは無かった。

ボールを前に飛ばされた屈辱と、前に飛ばすことしか出来なかった屈辱。


ヤマサキは決意する。シンドウに己の剛力の秘訣を授けることを。

シロウマルは決意する。シンドウに己の神速の秘訣を授けることを。

そしてシンドウは・・・。


歴史を変えた剛腕へとただ一人立ち向かったスラッガーの物語の、始まりがここである。

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