【★】トマト【バカンス/コップ/絶体絶命】

助けて。

泣きながらトマトスープの空き缶に向かって呟く男。


ママの冬バカンスは決まって日本。

2年に1回1週間。

日本のNarukoという町で毎日温泉に浸かる。それだけ。

僕は退屈だ。一人遊びをしているとカヅキと出会う。

カヅキは地元の女の子で僕より3つ上のお姉さん。僕が7才でカヅキは10才。

いつか世界に出る女になるとかで、一人で雪の猫を作ってた僕に話しかけてきた。英語の練習台になれと拙い英語で突然。ちなみに僕はフレンチですが英語も喋れます。

カヅキはホテル(日本語で旅館)の娘で、地元の閉塞感が嫌いだと言う。だから世界に出るんだとか。

カヅキのエネルギーに憧れた。


それも今は昔。

25歳、僕は絶対絶命だった。

PACS(夫婦未満恋人以上みたいなやつだよ)だった女性に裏切られて仕事を失い一文無し。

アパートを追い出されて路上生活2ヶ月目。流石に少し絶望感が出てきた。

何故か昔のことを思い出す。

モバイルを買ってもらえないとこぼすカヅキが教えてくれたのは紙のコップを使った電話だった。

フランスじゃトマトスープの缶でやるんだよと教えると、そんなところまでシャレてるのかと絶叫していた。


傷心旅行である。

結婚資金の使い道も無くなったので。

28歳、2年付き合った男との破局。

世界に出るとか言ってたのに東京にすらついて行けず鬱になって出戻り。地元の男と付き合ってこのザマ。

家で泣いてたらおかあが最近ハマってるとかいうトマトスープの缶が目について、気がついたらパリ。


カフェでコーヒー買っても紙コップが貰えないらしいのでわざわざタンブラーを買わされた。

飲み干したら泣けてきた。

助けて。

タンブラーに向かって呟いた。

視界にはやたら綺麗な街並みとしみったれた曇り空、それから、道端でうずくまる、スープの缶を持ったホームレス。

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