ヤマノテ陰陽師【東京/自制心/変身】
頭が狂うから頭狂とはよく言ったもので、こんな東京という町で平常心を保って生きていくなんて、ぼくには不可能に近かった。
東京の町に引っ越してからというもの、時に頭痛に悩まされるようになったぼくは、そうなると決まって人間がバケモノに見える幻覚症状があった。
きっと田舎から出てきているから、都会の闇の恐怖が幻覚となって現れているに違いないんだ。
そんなある日、ぼくの耳元に幻聴が聞こえる。
「めざめよ」
なんなんだ、いったい!? 目覚めるってなんだよ!! 急いでそこからぼくは離れる。
しかし、その日から外にいるときはこの幻聴が聞こえてきた。そこでぼくは気づいた。
東京タワーだ。東京タワーからたれ流される電波を聞いたものと聞かなかったもの。聞いたものたちは、めざめよ、ということばの通りに力を得る。
バケモノに見えた人間たちはめざめた人種だったのだ。めざめた人々は山手線の内側の陰陽師の結界を超えると、著しく自制心が減っていく。
やがて、山手線の内側から外へ出ようとする人間たちを狩ろうとする者たちが出てくる。
人間を変質させる。ある時突然発生した怪電波によって、東京の町は2分された。目覚めた者と、目覚めなかった者。
やがてぼくも目覚めるものとして、変身した。しかし、ぼくだけは山手線の内側から外へ出ても、自制心がなくなることなく、無害の人間に危害をくわえようとする目覚めた者たちを狩る側へと回っていった。
やがてぼくは、狩るものとして、目覚めた人間たちを狩るようになった。
そうしていくうちに、目覚めた人間も目覚めない人間も結局変わらないという事実に気づいてしまい、やがて、ぼくは自身というものを喪失する。
頭が狂うと書いて頭狂。
うまく言ったものだった。
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