Sing with friends
ゆうまる
Chapter1 Our dreams and the future...
>>1 Encounter with you
──昔から、何をやっても駄目だった。
『やーい、のろま〜!! 』
『……え? こんな問題も分からないの?? 勉強出来そうな顔してるのに……』
『何でこんな事も出来ないのっ!? 』
脳裏を過る、過去の記憶。
何でもいい。自分が唯一自慢出来る事で彼奴らを少しでも見返してやりたかった。
だけど、私は結局あの頃と何も変わらないままで。
目の前に無造作に置かれた真っ白な紙を見て、私は『はあ……』と深い溜息を零す。
「私って、何でこんな駄目人間なんだろ……」
「──さあ? 何ででしょうね?? 」
『バンッ!!』
突然の音にビックリした私は、思わず視線を白紙から前方へ移動させた。
「今は授業中ですよ、日向(ひなた)ゆかりさん!! 」
何だ、先生か。
「驚かせないでくださいよ……」
「っ!? 貴女、今何て!? 」
先生の顔が真っ赤に染まっていく。
まるでリンゴみたいだ。
「突然目の前で、机に教科書叩き付けてきて、心臓止まっちゃったらどう責任取ってくれるんですか? 先生? 」
「〜っ! もう良いです!! 後で職員室に来るようにっ!! 」
「……はい」
周りから『クスクス』と笑い声が聞こえる。
生徒は皆、先生では無く私を見ていた。
まあ当たり前か。
学校っていうのは勉強をする為に来る場所であって、授業も真面目に受けなければならない。ノートをきちんと取りながら、先生の話も真面目に聞いて……、そんな事は分かっている。
でも……。
目の前に置かれた紙は、何度見てもやっぱり真っ白だった。
私には才能が無い。スポーツも勉強も出来なくて。当然、学級委員何かに向いている訳でもなく。あれも駄目これも出来ない……、そんな感じで繰り返される毎日が、私は嫌で仕方なかった。
何でもいい。何でもいいから『私はこれが得意なんだっ! 』って、自信を持って言えることが欲しかったんだ……。
私はそれを掴み上げると、思いっきりぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱の中にポイッと放り投げた。
「……日向さん、話をちゃんと聞いていますか? 」
「え? 」
気がつくと私は職員室にいた。
どうやら無意識にここまで来ていたらしい。
いつの間に授業が終わっていたんだろう……。今日は時間が経つのがやけに早い。
「あー……、はい」
「……はあ。もう1度言いますが、日向さん、貴女はやれば出来る人間なんです。ですから、授業は真面目に受けるように」
「……はい」
周りを見ると、私と目の前の先生以外、ほとんど人がいなかった。遠くからは、『1、2、1、2』と声が聞こえる。陸上部か何かだろうか。
不意に窓の外に目をやると、校庭はもうオレンジ色に染められていた。
本当に今日は時間が経つのが早いなあ……なんて思いながらボーッと突っ立っていると、突然目の前に1枚の紙が押し当てられた。
「……? 」
何かと思ってそれを手に取ると、それは物凄く見覚えのある物だった。
「それ、貴女が頑張っていた証ですよね」
「あ、」
……そうだ。これは、ついさっき私がぐしゃぐしゃに丸めて捨てた……。
「何で、先生がこんなものを」
「……貴女は毎日授業中に書いていましたよね。休み時間にも。それなのに、捨ててしまって良いんですか? 」
何でそんなことを聞くんだろう。
先生には関係ないのに。
「良いも何も……、そんな真っ白い紙、とっておく必要ありますか? 」
ちょっとイライラしたので、喧嘩腰で返してみる。
もちろん答えは──。
「真っ白くなんてありません」
「──え? 」
『とっておく必要はありません』
そんな答えを私は期待していた。というか……それ以外に答えなんて無いだろうと思っていた。
「何度も書き直した形跡が見られます。消しゴムで何回も消して、真っ黒になっている箇所もありますよね。私には、とても真っ白には見えません」
「…………」
……真っ白じゃないか。
結局全部消したのだから。
「……ねえ日向さん、貴女は小説を書くことが好きですか? 」
「え?? まあ……、はい」
先生の突然の質問に、私は少し狼狽えた。
何で、突然こんな質問を?
私は先生の真っ直ぐな視線が怖くなり、目を逸らす。
「貴女は、小説を書くことが好きで、書いているんですよね? 」
「……あ、」
──はい、もちろんそうです。
……言葉が出なかった。何で??
私は執筆が好きで、だからこうして毎日書き続けてきたのに……。
「……っ、」
言葉が出ない。
口を開こうと思っても、何故か口の何処かで詰まってしまう。
「……貴女はまだ高校2年生です。他にも大事な事が沢山ありますよ。職業だって、今から勉強すれば色々あります。『本当にやりたいこと』を見つけてください」
『話は終わりです』と言う様に、先生は私に背を向けた。
本当にやりたいこと……?
そんなこと、遠の昔から決まっている。
私の夢は……『小説家になること』だ。
小さい頃から、物語を考えることが大好きだった。お気に入りのお人形を使って、よく人形ごっこなんて遊びをしたものだ。でも、いつからかそれだけじゃ足りなくなって、『この物語を何かの形にして残してみたい』そう思うようになった。それが、私が小説を書くことになったきっかけだったんだ。
初めて物語を書いた時は、よくお母さんやお父さんが褒めてくれたっけ……。
『ゆかりは、将来有名な小説家になれるな!! 』
そう言って、私の頭をよく撫でてくれていた。
……今なら分かる。
あれはただのお世辞だ。高校生になった今、両親は口を揃えてこう言う、『遊んでばかりいないで勉強しなさい』と。
「遊び……?? 」
私は近くにあった小さな石っころを、軽く蹴り飛ばした。
お母さんにも、お父さんにもそれは遊びに見えるらしい。私は本気なのに……。
でも、こんなに頑張っていても納得のいく物語がつくれない。それどころか、完成させることすら出来ない……。私には、やっぱり小説家になる才能なんて無いんだな……。
「……はあ」
帰り道、急にポロッと涙が溢れてきた。
周りには誰もいないし、今日ぐらい、泣いてもいいよね……。
「うっ……、う……」
『なんでこんな事も出来ないの?』
悪魔の様なこの言葉が、毎日、毎時間私の頭の中でずっと囁いている。
私だって、好きでこんな風になった訳じゃない。『こんな事』が出来るような、当たり前の人間に生まれてきたかった。でも、どんなに頑張っても越えられない壁はあるんだよ……。
「…………」
気がつけば、家まであと少し。
でも、もう少しだけ1人の時間が欲しかった。
だから私はその日、いつもの曲がり角を右に進んだ。この道を行くと家まで遠回りになる為、普段の私なら絶対に曲がらない道だったが、今日は何となくそうしたい気分だった。
しかし、今思い返すと、その『何となくした行動』が私の人生の分かれ道だったのだろう……。しばらく歩いていると、少し遠くから女性の歌声が聞こえてきた。その歌声は、先を歩けば歩くほど近く、大きくなっていった。
「……っ!! 」
私はその歌に、言葉に出来ない何かを感じた。この歌は、私の何かを変えてくれる。この歌なら、きっと!! ──そう思った時、私は走り出していた。
『この歌をもっと近くで聴きたい……!! 』
そう思って、無我夢中で走ったんだ。
「はあっ、はあ……」
体力の無い私は、少し走っただけで直ぐに息切れを起こした。それでも走った。
この先にある世界を、知りたくて……!!
「〜♪ 」
そこには、私と同い年くらいの……いや、少し年下ぐらいの女の子がいた。しかし、その小柄な身体からはとても出るとは思えない程力強く、そして綺麗な歌声が周りに広がっていたんだ……。
♪
ずっと 憧れていた世界
なかなか 届かないけれど
それでも 『いつか叶う』って
あたしは 信じてる
この歌が誰かを救うのならば
あたしは歌い続ける意味があるでしょう
今日もこうして誰かの為に
歌うの 歌うよ
いつか あなたが笑うのならば
涙を拭いて 立ち上がるのならば
あたしはずっと 応援してるからね
だから 笑って笑って
夢を 叶えて
♪
「──凄いっ!! 」
『パチパチパチ……』
私は思わず、拍手した。周りには誰もいなかったけれど、だからこそ精一杯力強く手を叩いた。
目の前の彼女に、届くように。
「あ……っ! 」
彼女は私に気がつくと、徐々に頬を赤く染めてから、急にわたわたと慌てだした。
「え、えっと……、こんな歌をわざわざ聴いてくださってありがとうございます!! 」
「こんな歌……? 」
こんな歌だなんて、そんな馬鹿な。
確かに、歌詞はそこまで凄くないのかもしれない。メロディー自体もよくあるやつなのかもしれない。歌声だって……力強くて綺麗だったけど、プロとは全然呼べないのかもしれない。
でも……。
「──でもっ!! すっごく感激しましたっ!! 心に、何ていうか……凄くグッと来たんです!! 本当に凄いです!! 」
「……っ!! 」
気持ちを込めて歌うってこういうことなんだろうな。一言で言えば、それが伝わってくるような歌だった。
「……ありがとう、ございます。そんなこと言われたの、久々かも。えへへ」
彼女は、ポリポリと赤くなった頬を掻いていた。照れ隠しだろう。そんな彼女の姿を見て、私も『少し褒めすぎちゃったかな』と恥ずかしくなる。
「あたし、よくここで歌ってるんです。前は駅前で歌ってたんですけど、ちょっと、『邪魔だ〜!! 』みたいな目で見られてたので」
なるほど。
まあ確かに、駅前って人が多いイメージがあるし……。ていうか、そもそも駅前でライブって許可は得ていたのかな。
そういえば歌に夢中で何にも気が付かなかったが、ここはシーソーとジャングルジムしかない小さな公園だった。周りには家もあまり無いし、人通りも少ない。誰にも迷惑がかからないうってつけの場所ということだろう。
「まあでも、この通り人が全然通らないので誰にも聴いてもらえないんですけどね……。でも良いんです! これはこれで練習にもなりますし、こうして貴女とも出会えましたから! 」
そう言って彼女はニッコリと笑った。
彼女はきっと、本当に歌う事が好きなんだろう……。さっき歌っていた時もそれが凄く伝わってきたし。
「……歌手になるのが夢なんですか? 」
自然と、言葉が出た。
凄く自然に。
間違っていたらどうしよう、なんて事は考えなかった。
……だって。
「はい! 勿論ですっ!! 」
こんなにキラキラしていて、眩しくて。
私とは全然違う。
『本気で夢を追いかけてる』って痛いほど伝わってくるんだ。
──じゃあ、私は……??
「あたし、おばーちゃんっ子なんですよ。両親を早くに亡くしちゃって……。小さい時はそれでよく泣いてたんですけど、おばーちゃんは凄く優しくて……暖かくて。あたしによく、歌を聴かせてくれたんです」
『〜〜♪ こんな歌ですっ! 』
彼女は、楽しそうに喋っている。
「あたし、おばーちゃんからも勿論そうですけど……、歌に沢山の幸せを貰ったんです。だから、あたしも皆に沢山の幸せを届けたいなって思って」
「そう、なんですね」
それ以外、返し方が分からなかった。
『凄いですね』とか、『良いですね』とか、他にも沢山あったんだろうけど……、そう返すのは躊躇ってしまった。
だって、私とは本当に……比べ物にならないぐらい、凄かったから。
「あたし、明日もここで歌うんです! 良かったらまた聴きに来てくださいね! それじゃあ、またっ! 」
そして、彼女は笑顔で手を振って、ササッと何処かへ行ってしまった。
「…………」
1人になった私は、地面を黙って見つめる。
まるで、格の違いを思い知らされたような、そんな気持ちだった。彼女は必死に夢を追いかけていた。私も、もちろん本気だ。小説家になりたくて、ずっと必死になって……、
『──あなたは小説を書くことが好きですか? 』
急に、先生が言っていたあの言葉を思い出す。
……何で? どうして急にあんな言葉を。
「好き……、に決まってるじゃん……」
私はボソッと呟いた……。
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