第53話 本当のお姉ちゃん②



「わ、私は……」


小さくつぶやいた後、お姉ちゃんは長いこと黙っていた。


目隠ししているから、お姉ちゃんがどんな表情をしているかは分からない。


「お姉……ちゃん? ボクのこと、覚えてる?」


「……ええ、覚えてる、全部。記憶に影響はないみたい。間違いなく、ついさっきまで、私はあなたが好きだった」


じゃあ、今は?

怖くて聞けなかった。


…………

……………………


また長い沈黙。


口を防がれてるわけでもないのに、なんだか息苦しい。


お姉ちゃんは傷付いているのかもしれない。

好きでもない人間を、能力で無理矢理好きにさせられて。


ボクの能力で。


「ごめんなさい。ボクのせいで、こんなことに……」


「ううん、あなたは悪くない。知らずにやったことなんだし、気にしなくていいんだよ」


少し沈んではいるけど、優しいお姉ちゃんの声。


「それより、ありがとう。私を正気に戻してくれて。そのままにしておいた方が、あなたにとっては都合が良かったでしょうに」


「そ、そんなの当たり前だよ」


「優しいんだね」


「お姉ちゃん……」


「でも、お風呂は一人で入ってね」


「あ、うん……」


これが素のお姉ちゃんかぁ。

ボクのこと嫌ってるわけではなさそうだけど、ちょっと冷めた感じ?


ボクとしてはグイグイ来てくれる方が助かるんだけど、それは能力じゃなく、努力してそういう関係にならなきゃいけないんだよね。


いつか、お姉ちゃんと本当の仲良しになれるといいな。

そのためには、なんとしても生き残らないと。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る