第48話 優しいお姉ちゃん



「お姉さんは、ボクのこと知ってるの?」


このお姉さんがボクの家族や親しい人なら話は早い。

でも、お姉さんは首を小さく横に振った。


「いいえ。私が知っているのは、あなたが能力者の一人だということと、私のパートナーということだけ」


能力者?

パートナー?

どういう意味だろう?


「あなたは、どうしてあんなところで倒れてたの?」


「え、あんなところって…?」


「そこの廊下で倒れてたんだけど、覚えてないの?」


お姉さんがドアの方を指して言った。


「実はボク、何も思い出せなくて……。自分の名前も、家族も、どうしてここに来たのかも……」


「記憶喪失ってこと? じゃあ、能力のことは知ってる?」


「ううん。それも分かんない」


「そっか……。とりあえず座ってお話しよっか。お茶でも飲む? お腹は空いてない?」


「うん、お腹は空いてないから大丈夫。それより、何がなんだか分かんなくて不安だから、お姉さんのこととか、さっき言ってた能力のこととか、色々教えて?」


「分かった。じゃあ、あっちのソファでお話しようね」


お姉さんは優しく手を引いて、窓際にある二人掛けのソファに座らせてくれる。

お姉さんもすぐ隣に座る。


テーブルを挟んで正面にもソファはあるのに、わざわざ近くに。

少し緊張する。


「最初に言っておくけど、今日はもう遅いから、ここに泊まっていきなさい。さっきフロントで一緒に泊まれるように手続きしてきたから安心して。ただし、ここでは姉弟ってことになってるから、私のことはお姉ちゃんって呼んでね」


「う、うん、お姉ちゃん」


少し恥ずかしくて、うつむき加減で言うと、


「かわいいー!」


お姉ちゃんが横からギュッと抱き締めてきた。


ふわわ、柔らかい。

あったかい。


「私ね、こんなかわいい弟がいたらいいなって、ずっと思ってたんだ。だから嬉しくて嬉しくて」


嬉しいのはこっちだよぉ。

幸せ過ぎて、頭がポワポワする。


こんなことしてていいのかな?

今、大変なはずなのに。


いや、大変だから……かな。

お姉ちゃん、優しいな。


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