第二幕開始
第47話 記憶を失った少年
気が付いたらベッドの上で仰向けになっていた。
「ここは……?」
上半身を起こし、周囲に目を向ける。
見た感じ高級ホテルの一室のようだが、こんなところに来た覚えはない。
「どこなんだろう? いや、その前に、ボクは……? ボクは……?」
自分のことが思い出せなかった。
名前も住所も家族の顔も、何も思い出せない。
でも、ここがホテルだということは分かる。
ベッドから降りて、カーテンを開ける。
窓の外は夜。
でも、暗くない。
すごい夜景だ。
高層ビルがたくさんある。
知らない街ではあるが、ここが日本だということは分かる。
記憶はないが知識はある。
そんな感じだ。
洗面所に鏡を見に行く。
そこに映ったのは、女の子のように可愛らしい顔、長めの髪、華奢な身体。
でも下半身には、自分が男であることを証明するものがしっかりとあった。
男であることに違和感はない。
ボクという言葉も自然と出ていた。
年齢は10歳くらいだろうか。
まだ子供だ。
こんな子供が一人でホテルに泊まるのはおかしい。
誰かに連れて来られたのだ。
もしかして誘拐された?
でも、こんな高級っぽい部屋に監禁なんてする?
確かめるために、出入り口のドアをそっと開けてみる。
普通に開いた。
閉じ込められているわけではなさそうだ。
ワケが分からない。
何か手がかりは?
部屋の中にある物といえば、大きめのスーツケースが一つだけ。
勝手に開けるのは、あんまり良くない、よね……。でも、今はこれしか手がかりが……。
罪悪感に苛まれながらも、スーツケースを開けてみる。
中に入っていたのは、女性物の服や下着。
それから、化粧品や薬が入ったポーチなど。
持ち主の顔や名前が分かるような物はない。
どうしよう……?
ここにいた方がいいのか?
早く逃げた方がいいのか?
迷っているうちにカシャっという鍵の音がし、出入り口のドアが開いた。
「あ、気が付いたんだ」
言いながら入ってきたのは、とても綺麗で優しそうなお姉さんだった。
ボクはドキッとする。
大学生くらいだろうか。
どう見ても母親という年齢ではない。
「あ、こーら。だめでしょ、勝手に人のカバン開けちゃ」
スーツケースが開けっぱなしだったことに気付き、ボクはすぐに謝る。
「ご、ごめんなさい! 何か手がかりはないかなと思って……」
「そっか…」
お姉さんはムッとした表情を緩ませながら、こちらに近付いてくる。
そして、ボクの頭をそっと撫でてくれた。
「ごめんね。こんなに早く目が覚めるとは思ってなくて。怖くないように書き置きくらい残しておくべきだったね」
うわ、優しい。
それに、いい匂いがする……。
また心臓が高鳴ってくる。
何がどうなってるのか分からないけど、このお姉さんが来てくれて良かったぁ。
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