第45話 俺は主人公だから



俺が答えあぐねているところを見てか、おばさんが言う。


「どうしたんだい? 早く答えな」


「あ……いや……」


これではジリ貧だ。

とにかく、話を中断させないと。


「すみません、その前に、トイレ行かしてもらっていいですか? 実はさっきからずっと我慢してまして……」


「はぁ? まさか逃げようってんじゃないだろうね?」


「いや、マジ、ほんとです。こんなところで漏らすのは、さすがにキツイんで」


おばさんは若干疑いの目を向けながらも、


「仕方ないねえ。早く行っといで」


と許可を出してくれた。


「ただし、寄り道は一切するんじゃないよ。あんたの居場所は筒抜けなんだ。どっかで武器を調達しようとか、バカなこと考えんじゃないよ」


「わ、分かってます」


俺はベッドから降り、ふらふらとした足取りで保健室から出た。


さて、とりあえず時間を稼いだはいいが、どうする?


武器の調達は無意味だ。

家庭科室なら包丁くらいはあるだろうが、拳銃には到底勝てない。


逃げるのも無理。

この腕ではバイクの運転はできないし、こんなズタボロな身体じゃ走ってもすぐ追いつかれるだろう。


かといって、おばさんを言いくるめるような頭脳は持ち合わせちゃいない。


完全に詰みじゃねえか。


ちくしょう。

ほんの少し女の子にうつつを抜かしただけでゲームオーバーなんて、神様そりゃねえよ。難易度高過ぎだろ。


それとも、ここからの逆転劇があるってのか?


あるとすれば、他の能力者の介入によって状況が変わるとか?


あるいは、ステータス表示にはない隠し能力みたいなのが発現するとか?


なにかあるはずだ。


だってそうだろ?

このまま情報を絞り取られた上で殺されるなんて、主人公らしくないじゃないか。

全く面白くもない。

そんなシーン見せて誰得だってんだよ。


そうだ。

俺は主人公なんだ。

俺が行動を起こせば何かが起きるようにできてるはずだ。


どうせあのおばさん、最後には俺を殺す気なんだ。

だったら逃げてやる。


逃げてるうちに何かが起きる。

そっちに賭けた方がマシだ。


俺は決死の思いで走り出した。

足は負傷していないが、鼻や右腕の痛みのせいで上手く走れない。

それでも、走る。


まずは外だ。

外に出て時間停止を解除すれば、世界探偵が何らかの形で介入してくるかもしれない。


超長距離射撃で殺される可能性もあるが、おばさんの方が先に殺される可能性だってあるんだ。

おばさんが死んだら、すぐに時間停止をかければいい。


時間停止無効と能力者探知は渡したくないが、この場で死ぬよりはマシだ。


玄関が見えてくる。

よし、もうすぐだ。


「待ちな!」


背後から怒号。


嘘だろ。

もう追いかけて来やがったのか。


だが、あの距離からじゃ拳銃はまず当たらない。


おばさんにもそれは分かっているのか、拳銃は構えず走って追いかけてくる。


とにかく外へ出るんだ!


追いつかれるギリギリのところで、なんとか玄関から飛び出す。


ここで時間停止解除!


「逃げても無駄だっつってんだよ!」


俺はあっさりとひっくり返され、おばさんにマウントを取られてしまう。

同時に、周囲から女生徒たちの悲鳴が上がる。


さあ、舞台は整った。

何が起きる?


「なめてんじゃないよ!」


怒りの咆哮と共に、拳が顔面にめり込んできた。


あが……!

な、なんで?!


痛い、と感じる間もなく二撃目が降りてくる。


ぐげ……!

意識が飛びそうになる。


おいおい、何やってんだ世界探偵。

チャンスなんだぞ?

ただ見てるだけなんてありえないだろ?


容赦のない三撃目。


あじぇ……!

し、死ぬ。

にゃんで?

にゃんで何も起きない?


四撃目。

五撃目。


もはや何をされているのかも分からなくなってきた。

おばさんの顔も見えない。

遠くから叫び声だけが聞こえてくる。


俺は、死ぬのか……?


いや、まさか……

それが正解なのか!


死んでもまた蘇る、隠し能力が俺にはあるんだ!


現に一度蘇ってるじゃないか!


そうだ!

それなら、この状況も理解できる!


死んでも、何度もでもやり直し






神様





























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