第35話 嘘
「……あん?」
空が光ってから10秒ほど経ったが、小石には何の変化も起きなかった。
改めて空を見上げると、まだ光っている。
まるで空にスポットライトが固定されているかのように、ずっと光り続けている。
『これは……?』
世界探偵が訝しげに言う。
『成層圏に入った瞬間、光弾が停止した?』
その言葉で俺は気付いた。
そういうことか!
そういうことかよぉ!
さっすが神様。
やってくれるぜ。
間違いない。
停止能力発動中に地球に入ってきたものは、自動的に停止してしまうのだ。
その証拠に…
俺は時間停止能力を解除してみる。
次の瞬間、空から降ってきた光弾が地面に着弾し、小石が砕け散った。
「ちょ、ちょっと、なにこの男!?」
「どっから現れたの!?」
「変態!? 変質者!?」
俺の周りにいた女子高生たちが悲鳴のような声を上げる。
うるせえ、大人しく止まってろ。
俺は再び停止能力を発動。
女子高生たちは口を大きく開けたまま固まり、無音状態が戻った。
俺は電話の向こうにいる世界探偵に言う。
「惜しかったな。思い通りいかなくて」
『……そのようですね』
「なんにせよ、お前らは俺を脅した。交渉は決裂だな」
『残念です。これからどうするのですか?』
「自力であの女を探すさ。どうせそこにはいないんだからな」
『なぜ分かるんです?』
「そのくらい自分で考えろ。ま、今のお前らはそれどころじゃないだろうがな」
俺は一方的に通話を切り、携帯電話の電源も切った。
これでGPSによる追跡はできないはずだが、念のためこの携帯電話は壊しておこう。
その後、適当にどこかの地下鉄にでも入れば、衛星カメラから逃れられる。
というわけで、ここはさっさと離れるとしよう 。焦ることはない。カワイイ女の子ならどこにでもいるさ。
俺は女子高生グループを尻目に、さっき乗り捨てたバイクで最寄りの駅に向かって走り出す。
あの女は宇宙ステーションにはいない。
世界探偵の言葉は嘘だ。
根拠はある。
宇宙ステーションの高度はせいぜい数百キロ。
あの女の射程は少なくとも数千キロまで伸びてるはずだから、本当にそこにいるなら余裕で俺を殺せる。
リッパーの能力なら時間停止能力が適用されない俺の体内を直接攻撃できるから、超長距離射撃のように止めることはできない。
つまり、あの女が意識を取り戻した時点で俺は詰む。
だが。
神様がそれに気付かないはずがない。
神様は、わざわざ俺を復活させて新しい能力まで与えた。それなのに、簡単に俺が死ぬような状況を許すか?
許すはずがない。
ついさっき超長距離射撃を防げたことで確信した。
俺は、やられ役の雑魚なんかじゃない。
俺が、主人公だ!
そして今、あいつらは絶対絶命の危機に陥っている。
俺が停止能力を解かない限り、あいつらは地球に降りてこられない。
宇宙ステーションにある食糧が尽きれば、それで終わりだ。
よりによって餓死とは、冴えない最期だな、世界探偵さんよ。
それとも、そこにいる3人で限られた食糧を巡って殺し合うかい?
それはそれで傑作だな。
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