第32話 情報交換

忘れるはずもない。

3ヶ月ほど前、ライブ配信で俺を挑発してきたあの世界探偵だ。


あれ以来、配信はなく、特に動きも見せなかったというのに、この状況で電話をかけてくるとはな。


俺は女の子グループの中に身を隠すような位置に動く。これだけ密着してれば、そうそう攻撃できないだろう。


「それで、世界探偵さんが何の用だ?」


『まず始めに言っておきます。以前、私はライブ配信で、あなたを処刑台に送ると言いましたが、あれは撤回します。もうそんな状況ではなくなりました』


「へえ、じゃあ俺は無罪放免ってことでいいのかい?」


『情報交換に応じてくれるのであれば考慮します』


「交換ね。それなら、まずは言い出した方が先に情報提供するのが筋ってもんだろ?」


『ごもっともです。私は今、宇宙ステーションにいます。そこから衛星カメラであなたを見ています』


なるほど、停止能力の範囲外にいたのか。

って、なんで探偵が宇宙に行けるんだよ?


「そりゃすごい。世界探偵改め宇宙探偵とでも名乗ったらどうだ?」


『考えておきます。では、今度はこちらから質問しますが、よろしいですか?』


「どうぞ」


『先ほどから、あなた以外のすべてが止まっているように見えますが、それがあなたの能力なのですか?』


こっちが見えてるってのは本当みたいだな。

まあいい。

バレてるなら答えても問題ないだろう。


「そうだよ。時間停止能力ってヤツだ。今度はこっちが質問な。あんた、さっき俺のこと初代リッパーって言ったよな? じゃあ二代目のことも知ってるんだな?」


『知っています』


「どこにいる?」


『その前に、こちらが質問する番です』


ち、細けえな。


『殺されたはずのあなたが、なぜ生きているのですか?』


「神様だよ。神様が俺に新たな命と能力をくれたんだ」


『ほう……。まあ神が不公平なのは今に始まったことではありませんし、そのような不正行為があっても不思議ではありませんね』


「で、俺の能力を奪った女はどこにいるんだ?」


『ここにいますよ』


「はぁ!?」


『ここにいます』


「本当か? ちょっと電話代われ」


『それは無理です。彼女は今、ひどく衰弱していますので、電話に出られるような状態ではありません』


怪しいな。

そりゃそうか。なにも馬鹿正直に答える必要はないもんな。


だが、こいつがあの女について何かしら知ってる可能性は高い。

まだ話は続けた方がいい。


「分かったよ。じゃあ次はそっちが聞く番だ」


『あなたは神を信じますか?』


はぁ? なんだその質問。

宗教の勧誘かよ。


まあ、能力を授かる前までの俺だったら信じちゃいなかったが、今は違う。


「信じてるに決まってるだろ。現に、こんな素晴らしい能力をもらってるんだから、疑う余地がない」


『能力者同士で殺し合いをさせるような神でもですか? 』


「勝てば神様になれるんだ。そのくらいの試練はあって当然だろ? 今度はこっちが聞くぞ。あんたとその女、どうやって宇宙ステーションに移動したんだ?」


『スペースシャトルを使わせていただきました』


「いやいや、おかしいだろ。なんで探偵がスペースシャトルなんか手配できるんだよ? しかも昨日の今日で。金を払えばどうにかなるって類いのものでもないだろ?」


『それが世界探偵の所以ということです。私は世界各地のあらゆる難事件を解決したことで、各国の首脳から融通を受けられる立場にあります。さすがに、スペースシャトルの緊急手配は初めてだったので、ずいぶん無理をさせてしまいましたけどね』


まるで漫画の世界だな。

まあ能力者バトルなんかやってる時点で漫画みたいなもんだけど。


『では次に、今回最も大事な質問をさせていただきます』


「お、おう。まあ言ってくれ」


『あなたは、能力者同士の戦いに勝てば神になれるというその勝利報酬、おかしいとは思いませんか?』




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