第2話 歩きタバコを粛正せよ
それから数日間、俺は大都市駅の構内と周辺で歩きスマホの粛清をおこなった。
能力の使用による疲労感は今のところない。この程度なら問題ないのか、無制限に使えるのかはまだ分からないが…。
もちろん相応の代償は覚悟している。
これほどの能力だ、ある日、突然、廃人となってもおかしくはない。
能力の効果範囲は300mほど。
その範囲内であれば、壁の向こうだろうと階下だろうと何でも切り刻める。
巨大な岩を一刀両断することもできるし、毛細血管を一本だけ切断することもできる。
能力の発動条件は心の中で念じるだけ。対象を見る必要すらない。
よって、俺の仕業だと気付く者は絶対皆無。たとえ防犯カメラに映っていても証拠はどこにもない。
どんな名探偵でも解決不能な完全犯罪だ。
はじめのうちはマイクロSDカードを作っている会社に苦情が殺到した。
しかし数日後には、そういうレベルの出来事ではないことに、人々は気付きはじめる。
明らかに歩きスマホが狩られている。
噂が広まるのは早かった。
街という街から歩きスマホが消えた。
ほんの数日前まで、そこらじゅうに蔓延っていた歩きスマホどもが綺麗さっぱりいなくなった。
みんな恐れているのだ。
この俺を。
クククッ、計画通り。
では次の粛清に移ろうか。
歩きスマホより数は少ないが、周囲に与える害の大きさでは上を行く社会問題の一つ、歩きタバコの粛清にな。
なぁ、そこで歩きながらタバコ吸ってるお前。
それ分かっててやってるんだよな?
タバコの煙が身体に悪いことを大人が知らないはずないよな?
身体に悪いものを自分が吸うのは勝手だけど、人に吸わせるのはおかしくねえか?
すぐ後ろに人が歩いてんのにタバコに火つけるのはおかしくねえか?
それもうケンカ売ってるんだよな?
そっちが攻撃してくるなら、反撃してもいいんだよな?
そう言いたいが、奴らには手出しができない。
路上喫煙は迷惑行為だが違法というわけではない。
路上禁煙区域でない限り、奴らが罪に問われることはない。禁煙区域ですら、近くに警官がいなければ不問で終わる。
下手に注意などすれば、こっちが殴られる。路上喫煙者にはガラの悪い奴が多いからな。
大抵は吸い殻もその辺にポイッだ。
許せねえ。
お前らみたいなチンピラヤクザは俺が粛清してやる。
殺しはしない。
ただ、少しばかり肺に穴を開けさせてもらうだけのことだ。
いつもいつも周囲に息苦しい思いをさせてるんだから、お前も息苦しさを味わっとけ。
俺の能力は真っ直ぐ切るだけでなく、円状に切ることもできる。つまり穴を開けることもできる。
余程処置が遅れない限り、死には至らない程度の穴。
もっとも、酸素欠乏症で脳細胞が一部壊死する可能性はあるがな。
どうせお前らの脳なんて最初からイカれてるんだから、ちょっとくらい変わりないだろ?
報いを受けろ!
「うお…?」
たまたま俺の近くで歩きタバコをしていたヤンキーの手から、火がついたままのタバコがポロッと落ちる。
「うう…、んだよこれ」
つぶやきながら、苦しそうに胸を押さえる。
苦しいか?
苦しいだろう。
少しは周りの気持ちが分かったかバカヤロウ。
いや、分かんねえだろうな。
これくらいじゃあ、こいつはタバコをやめねえ。
だからさ。
「うげ……ぇぇぇぇぇぇ…!」
俺はヤンキーの睾丸を切り刻んでやった。
絶対に治らないよう念入りに100分割してやる。
お前みたいな奴が子孫を残したらダメなんだよ。
親がクズだと子もクズになっちまうからな。
よかったな。
そこで転げ回ってりゃあ、すぐに救急車を呼んでもらえるぞ。
じゃあな。
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