第347話 大人の喧嘩

とある授業終わり、クレハが教室から帰ろうとしている時だった。本来であれば声を掛けられるはずがない人間に声を掛けられたのだ。


「おい、そこの成り上がり、止まれ。」


「はい?」


クレハが突然声を掛けられ、振りむくとそこにいたのはギュラーであった。ただでさえ、授業中は面倒ごとを運んでくる彼であったが、このように二人きりの状態で声を掛けてくるなどさらに面倒ごとの香りしかしないとクレハが考えていると案の定だった。


「おい、成り上がり、お前、ずいぶんと学園長に顔が利くんだな。この前、見ていたぞ。まさか、学園長があんな変態だったとはな。」


「あぁ、あれを見ていたんですか。まさか、リゼラン先生以外に目撃者がいたとは驚きました。それで、何か用ですか?」


「ふっ、俺の言いたいことがここまで言ってまだ分からないのか。お前が学園長に顔が利くことは分かっているんだ。


それならば、お前は俺の言うことを聞け。そうすれば俺はこの学園の頂点に上り詰めることができる。そうだな、試しにあの学園長が知り得た情報で伯爵家以上の家をゆするネタがないか調べてこい!」


ギュラーの考えでは学園長はクレハに頭が上がらず、クレハは普段の授業から自分に頭が上がらない。だからこそ、クレハを掌握することでこの学園を支配できると考えていたのだ。


しかしながら、彼には一つ誤算があったのだ。普段の授業ではクレハは一切反論しないため、自分に頭が上がらないと考えていたがそんなことは全くない。


「それで言いたいことは全部ですか?」


「はっ?」


「ですから、それで言いたいことは全部ですかと聞いているんです。特に用事がないのであればもう行っていいですか。授業のことならまだしも、そんなくだらないことで話しかけないでください。まぁ、あなたが授業のことを聞いてくるなんてありえないかもしれませんが。」


クレハがギュラーの返事も待たずに歩き始めると予想外の答えに呆気にとられていた彼は大声を上げ始める。


「お前何っているんだ、この状況分かっているのか!学園長の秘密がばれればお前ら教師だって今の待遇で学園に残ることはできないんだぞ。


いいのか、このままお前が俺の言うことを聞かなければ学園中に例のことをばらすぞ。」


「別に私は困りませんから、困るのはあの学園長くらいでしょうけど、私は知ったことではありませんし。それと、少々お聞きしたいのですが、あなたのような短絡的な人間がそんな回りくどいことはできませんよね。誰に言われてこんなことをしているんですか?」


普段から見ていればギュラーの頭が足りていないことなど容易に想像できる。だからこそ、彼一人の行いであれば学園長に直接脅しに行くとクレハは考えたのだ。


「てめぇ、なんだと!男爵風情がそんな口を聞いて親父が黙っていると思っているのか!」


「なるほど、伯爵の指示ですか。残念です、まだ子供ですから授業中のこと程度あれば許していましたが今回ばかりは伯爵も関わっているので、話は違ってきます。


大人の喧嘩であれば私が手を出すことも問題ないでしょう。ふふっ、楽しみにしていてくださいね、普段からの行いの上、私を脅そうとしたのですから、あなた方には少しばかり痛い思いをしてもらいます。あぁ、学園長に関しては本当にどうでも良いので、好きにしてください。」


「お前、本当に我がホルイン家を怒らせたようだな。ちょっと名の知れた商会をやっているらしいが、所詮は成り上がりの男爵家だ。そんなものは簡単につぶせるんだぞ。これが最後のチャンスだ、頭を地面に擦り付けて靴をなめれば許してやる。そうでなけ、おいっ!」


何やらギュラーがうるさいことを言っているようだが、そんなことは無視し、クレハは早速ホルイン家に対する制裁をルンルン気分で考えるのだった。

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