第339話 約束の人物
本日は以前に王妃から話があったとある人物と面会を行う約束であるため、クレハはルークと共に自身の部屋で待っていると部屋をノックする音が響き渡る。
「クレハ様、お約束されていた方がいらっしゃいました。お通ししてもよろしいでしょうか?」
「はい、問題ありません。」
クレハがその声に返事をした途端だった。突如、部屋の扉が勢いよく開かれ、いきなりクレハの元に女性が突撃してきたのだ。
「おい!何をしている!」
「ちょ、なにやっているんですか!オーナーを放してください。」
流石に予想外のことだったのか、誰もクレハに接触することを止めることができず、この女性をここに連れてきたドルクスや隣にいたルークが急いでクレハから引き離そうとしている。
しかし、彼女がクレハを掴む力はあまりにも強く、ルークやドルクスの力ではびくともしない。しかも、何故か分からないが奇妙な声を先ほどから放っているため、その不気味さが一層際立っているのである。
「グフッ、フガッフガッ、あぁ、これがクレハ様の匂い~、もっと、もっとクレハ様を感じたい~。イヒヒヒッ、グヘヘヘヘッ。」
クレハに突如抱き着いてきた人間、簡単に言えばただの変態だった。自分の体に顔をうずめながら豚の様に鼻を鳴らす目の前の女に動揺することなく冷ややかな目で、クレハが近くにあった花瓶を頭にたたきつけると鈍い音をたてながらこの変態は沈黙するのであった。
「ドルクスさん、これ、なんですか?」
自身の服が変態の粘液でドロドロに汚れてしまい、不機嫌であったクレハは先ほどの変態に向けた冷ややかな目を維持したままドルクスに目を向ける。そんな彼女が怖かったのか、ドルクスはクレハに目を合わせようとせずに、彼女の正体を伝えるのであった。
「その、彼女がクレハ様とお約束をしていた王立学園のタミトン学園長です。私が知る限りでは高貴な身分の方々からも模範とされるような品性を持たれた方なのですが・・・。」
「これが品性を持っている?今のを見れば私が知っている品性とはずいぶんと異なる品性のようですね。この人、本当にその人ですか?」
流石にドルクスの話とここまで違うようであれば実は約束をしていた人間とは別人なのではないかという考えがクレハの中に浮かぶ。しかしながら、その考えはドルクスによって否定されるのであった。
「いえ、私も実際にお会いしたことがある方ですから、間違いはないと思います。」
「だったら、どうして先ほどはあんなことを・・・。そう言えば、この人の話をしていた時の王妃様のあの顔、どう考えても何かマズいことを隠していると言ったような顔でしたね。まさか、王妃様はこの人がこうなるって分かっていたからあそこまで気まずそうだったのかしら?
はぁ、とりあえず、縄を持ってきてもらえますか。また目を覚まされたら面倒です。とりあえず、ぐるぐる巻きにして目を覚ますのを待ちましょうか。」
「えっ、一応この人、学園長なんですよね、良いんですか?」
「良いんです、私の中ではこの人は学園長ではなくただの変態ですから。」
こうして、クレハとタミトン学園長の初対面は散々な結果に終わるのだった。
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