第336話 帝国からの寄付

「オーナー、前に言われた通り商人さんたちには帝国の商人の店から商品を買ってもらっていますけど、本当にこれで良かったんですか?


いくら安いからと言っても買ってばかりであればお金もなくなってしまうのではないですか?」


クレハが行った要望、これは商人たちに自分の店と似たような商品を販売しており、それがかなり安ければ帝国の商会から迷わず買い取れと言うものだった。


「えぇ、これでいいんですよ。むしろ感謝しなければいけませんよ、彼らはここまでサービスをしてくれているのですから。」


ルークの見立てではいくら安い商品を購入していると言ってもそれが続けばお金が無くなってしまうと考えていた。しかしながら、クレハの頭の中では別の未来が想像されていたのだ。そんな彼女の想像が現実になるのはすぐ先の未来であった。




「ドパスさん、流石にそろそろ限界ですよ。この赤字商売をいったいいつまで続ければいいんですか?このままじゃ、こっちが破産してしまいますよ。」


「それは分かっているが、まだ奴らの店はつぶれていないだろ。あいつらの店はここまでやっているのにどうして潰れないんだ!何か気が付いたことはないのか、ここまで商品を安くしているのにあいつらが潰れないのはおかしい!」」


赤字覚悟で商品を販売しているにも関わらず客は一向に自分たちの元へとやってこず、クレハの店は一向につぶれる気配がない。だからこそ、彼らは徐々にこの現状に不信感を募らせていくのだ。


「気づいたことって言っても、・・・うん?そう言えば・・・。」


「なんだ、何か思い出したことでもあるのか?」


「あぁ、最近めちゃくちゃ買い物をしていく客がどっかで見たことがあるなって思っていたんだが・・・。あぁぁっ、思い出した、あいつあの店の商人じゃないか!」


「お、おい、一体どういうことだ。最初から説明しろ!」


最近、よく彼の元に客としてきていた人間、実はクレハの要望により自身の周辺にある帝国の商会から買い占めを行っていたのだ。


この行為がなぜ、彼らにとって不利になるかと言えば彼らは元々赤字の状態で商品を販売していたのだ。つまりは、彼らにとって自身の商品を買われれば買われるほど損をするということになる。


しかも、現状では帝国の商人たちを追いだすためにクレハが徹底的に資金を投入していた。これにより、クレハの店を任されている商人たちはいくら帝国の商人たちの店から物を買おうと全く懐は痛まず、商売を続けることができるのだ。


そのうえ、住人たちは自らを陥れた帝国の商会に足を運ぶはずもなく、ますます彼らの懐事情は厳しいものとなってしまう。


しかも、クレハは帝国の商人たちが撤退するころに彼らから購入した商品を少し高めの値段で販売する予定なのだ。


だからこそ、この安い時に大量に購入しておいても最終的に利益が増えるだけなのでクレハにとってこのイベントは帝国商人側からのボーナスとしか考えられなかった。


こうして、いつの間にか帝国の商人たちは自分たちが知らない間にクレハに寄付を行っているのだった。

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