第291話 お願い?独り言?

「ビオミカ男爵、この度は大変申し訳ございませんでした。目が曇っていたのは我々の方でした、男爵のご慧眼を疑ってしまい本当に申し訳ございません。」


国から全能薬の危険性が大々的に発表されたということもありクレハはすぐさま審問院から解放された。


ここ数日クレハを尋問していた担当者は先日までの余裕は一体何だったのかというくらい今は顔を青くしながら謝罪をしている。それもそうだ、先日までは客観的根拠がないのであれば早く規制をやめたほうが良いと散々自分で言っておきながら結果的にはクレハの言い分こそが正しかった。


しかも、そのことで本来であればすぐに終わるような調査も長期間にわたってしまいどう考えても目の前の男爵は怒り心頭といった感じだ。


「いえいえ、間違いなんて誰にだってあることですから。気にしないでください。一刻も早く薬の対策をしなければならないこの時期に調査に突然やってきて協力的にしているにもかかわらず長期間拘束されていただけの話ですから。


ほんと、全然気にしないで大丈夫ですよ。わたしが何を言っても客観的な理由がないとしか言わなかった無能さんにはこんな結末は予想できなかったでしょうから。えぇ、仕方ないですよね、その程度の考えしかできないのがあなた達なんですから。」


クレハはニコニコと笑顔で担当者の謝罪を受け入れるが言っている内容は棘だらけだった。担当者も隠せていないクレハの苛立ちを感じ取りさらに顔面を青白くさせる。


「大変申し訳ございません、後日、改めまして謝罪に参らせていただきます。それから、お急ぎとのことですのですぐさま領地にお送りさせていただきます。」


「そうですか、領地に送っていただくのは感謝いたします。ですが、謝罪に来るタイミングは考えてくださいね。今は国すらも規制を始めている段階なのですから、私もここ数日の分、いろいろとやることがあります。今来られても邪魔なだけですから、これ以上私の時間を無意味奪わないでくれますよね?」


クレハが目を顰め担当者に告げると彼は無言でコクコクと頷く。それを確認したクレハはにこりと笑みを浮かべると領地に帰っていくのであった。


「謝罪の件、楽しみにしていますね。あっ、そう言えば今度とある事業を始めようと思っているんですけどその施設をどうしようかと検討中なんですよ。


いろいろと備品も必要ですし、こだわりたいんですけど結構お金が飛んでしまうんですよね。ほんと、どこかの誰かにプレゼントしてもらえれば助かるんですけどね。」


こんなことをクレハが言い始めると彼女の意図を感じ取ったのか担当者は冷や汗をかき始めた。


「ビオミカ男爵、流石に事業を行うほどの施設を建築するとなると莫大な予算が必要になりますし、申し訳ないとは思いますがそれは無理ですよ。」


「いえ、私は何も欲しいとは言っていませんよ。そんなものをプレゼントしてくれたらいいなと思っただけです。そう言えば、今回の件が公になれば審問院の来年度からの予算ってどうなるんでしょうね?


活動に必要性が感じられなくなってしまうのであれば私だったら少なくしてしまいますね。しかも一度下がってしまえば翌年も次の年もそこから下がることはあっても上がることはないでしょうね。


さて、長い目で見れば一体今回の件でどれだけ審問院の予算が減らされてしまうんでしょうか?はぁ、被害者が訴えでなければ事件は起こらないんですけどね~。」


もはや願望ではなくただの脅しだった。しかしながらクレハの言うことはもっともで今はまだ全能薬の危険性が発表されたばかりでそれどころではないが今回の件が公になればまず間違いなく、審問院の今後の活動予算は減らされてしまうだろう。


「誠心誠意、上の方と話し合いをさせていただきます!」


担当者は敬礼をし、クレハを送り出すのであった。

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