第259話 王族だろうが連行します!

「おやおや、私をお呼びかと思えばこの国の王妃様を年増とはずいぶんと無礼な人間もいるようなのですね。それに、先ほどメイドの方が言ったように沢山食べてはいけないものなのですから無理やり食べるのはよしたほうが良いと思いますよ。」


クレハが王妃たちのいるもとに向かうと会場にいる人間の目線が一斉にクレハに向かう。ナタリー王妃たちの様子をうかがっていたほとんどが、どこの誰だというような目でクレハを見ている。


国外の貴族であればその反応も自然だと思われる。しかしながらここにいる人間でクレハのことを把握しているものなど本当にわずかだったのだ。


確かにクレハは男爵という爵位も手にしており、商会もやっている。だからこそクレハのことを知る人間も多いかもしれないと思うのも間違いではない。


しかしながらクレハは貴族とのかかわりがほとんどなく、王城に来る際も王妃に用があるときだけなのだ。だからこそ、そんなクレハが貴族たちに知らない人間だと思われるのは仕方ないことだった。


彼らからすればただでさえポポルコ王子達が行っていることが信じられずハラハラしているのに今度は一体なんだと思ったのだろう。それはもちろんであるがプアア王妃たちにとってもそうだった。


「お前をお呼び?まったく、ここには碌な人間がいないのか。お前なんかこの私が呼ぶわけがないだろう、痛い目に合いたくなかったらさっさとどっかに行け!私はこれを作った人間を連れてこいと言ったんだ、小娘なんか呼んでないんだよ。」


クレハは理解していない彼らのためにわざわざ目の前にいるのはこの国の王妃だと説明してやるもそんなことにはまったく触れず、興味がないと言うようにクレハに消えるように告げる。


しかしそれとは反対に自分がハンバーグを作った人間だと名乗りを上げた瞬間にナタリー王妃はなぜという目でクレハを見る。このような人間にそのような事を言ってもいいことなど何一つないからだ。


「はて、痛い目とはいったいどんなことですか?」


「お前、ママがさっさと消えろって言っているんだ、いいから消えろ!」


「いえいえ、私、そう言うのが気になると夜も眠れない体質でして、私がこの場所から消えなければいったいあなた達は私のことをどうするつもりなんですか?」


クレハは彼らを刺激すると分かってこのようなことを発言したのだ。すべては彼らをキレさせるために。案の定、沸点が低かったのかすぐさまポポルコ王子たちはクレハに対して怒鳴り散らす。


「分からないようだなこのクズが!分からないようならお前の体で理解させてやる。お前は楽しみがいがありそうだ、簡単には壊れてくれるなよ。」


その瞬間クレハが王妃にアイコンタクトをとると彼女はその意図を理解する。


「誰か!このものたちを捕らえなさい、この者たちは今日という日の功労者に対して自分勝手な理由で危害を加えようとしているのです!


私自身が何を言われようと我慢できますがそんな功労者に手を出すのなら他国の貴族だろうが王族だろうが許しません!捕らえなさい!」


王妃の掛け声ですぐさま周囲にいた兵士たちが二人を取り押さえる。周囲で様子をうかがっていた貴族たちは先ほどのクレハ自身の発言と王妃の発言からハンバーグを作った人間がクレハであるということは容易に理解できた。


プアア王妃たちがもっとよこせと言っていたのは彼らからしても同意だったのだ。もっとも、ここで常識がある人間であれば恥ずかしさが勝ってしまいそのような事を言うはずもないのだが。とにかく、それくらいハンバーグは彼らにとっても忘れられない味となっていた。


だからこそ、どうやってこれからクレハと接触しようかと彼らは思考を巡らせるのであった。


「王妃様、あそこまでしてしまってよかったんですか、流石に他国の王族だったら捕らえるようなことはマズかったんじゃ。」


二人が兵士たちに連れていかれるとクレハはここまでしてよかったのかと不安になる。いくら暴れようとしたからと言っても相手は王族なのだ、下手をすれば国と国との関係に亀裂が生じてしまうかもしれない。


「大丈夫よ、会場から追い出すだけだし。それに、向こうが何かを言ってくれば他国の国王の王妃を妾にしようとしていたとは何事かと言って非難してやるわ。幸いなことに証人はいくらでもいそうだしね。


だいたい、今日はお祝いに来ているはずなのにあんな態度はありえないでしょ。これ以上何かしてこようものなら徹底的に潰してやるわ!よくも私のことを年増って言ったわね。


あぁ、そう言えばありがとうね、私のために来てくれて。」


「い、いえ、私もああいう人間は許せませんから。」


(やっぱりそこに怒っていらしたんですね。)


王妃は拳をポキポキと鳴らしながらかかってこいとでも言いたげに連行されていく二人を睨みつける。王妃の目の前で言ってはいけないワードがクレハの辞書に追加された瞬間だった。

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