第212話 商会長は痛い奴

「おい、貴様だな。わが商会の営業妨害をしてくれたのは、話がある、ついてこい!」


クレハ達が宿のレストランで船乗りたちと食事をとっていると、とある男がいきなり話しかけてきた。今日は以前にチンピラたちから助けてもらったお礼もかねてクレハが全員にご馳走していたのだ。


そのため、みな雰囲気も良く食事を楽しんでいたところに水を差すように現れた目の前の男に良い感情など抱いていなかった。


男はいきなりクレハについてこいと話すと宿を出ていく。しかし、そんな男についてこいと言われたからと言ってついていくクレハではない。クレハが何もなかったように食事を再開し始めるとルークが無視して大丈夫なのかと尋ねる。


「オーナー、あの人無視していいんですか?多分、あの言い方だとヘーデュ商会の人間ですよね、どうするんですか、結局前に来た人を追い返しても次々にやってくるだけですよ。今回も無視してたらまた次の人間が来るんじゃないですか?」


「まぁ、その時はその時ですよ。それに、私が調べたようだと、あの商会がつぶれるのも時間の問題みたいな感じですしね。それなら無視してつぶれるのを待ったほうが良いですよ。あの手の人間と話し合ったところでまともな話し合いができるとは思えませんし。」


「さすがクレハさん、あんなのは放っておいて飲みましょう!いちいち相手にしていたら時間の無駄ですよ、ああいうのは無視するのが一番ですよ!乾杯!」


クレハも船乗りも相手をするのが面倒になったのか、先ほどの人間は無かったことにした。ルークはそんな二人の行動に本当に大丈夫か?と言いたげな顔はするものの、特に行動を起こすわけでもなく、引き続き食事を楽しむのであった。


「貴様!なぜ、この俺が呼んでいるのに来ないんだ!来いと言っただろ!」


「あれ?まだいたんですか?別に私はあなたに用はないので帰っていいですよ。」


例の男はクレハがいつまで経っても店の外に出てこなかったため、何をしているのだと再び店に戻り、怒鳴りつける。


しかし、そんなことなどお構いなしとでも言うようにクレハはにっこりと丁寧に出口に向かって誘導する。すると、初めはその言葉を理解していなかったのか、少し経ったところでカンカンに顔を真っ赤にし始めたのだ。


「何だと、この俺を誰だと思っているんだ!俺が来いと言ったらお前はくればいいんだよ!」


「いや、本当に誰なんですか。あなたのことなんて知りませんよ。」


「ふ、ふざけるな!この俺のことを知らないだと、なんて無礼な奴なんだ。」


目の前の男はまさか自分のことを知らない人間などいないはずがないと思っていたのか、クレハが知らないと言った瞬間にさらに怒りをぶつける。しかしながら、その怒りを向けられてる本人は涼しい顔をしているのだった。


「はぁ、いるんですよね時々。大して有名でもないのに自分のことを有名人か何かだと思っている人が。そう言う人に限って本当に誰も知らないような人なんですよ。誰かは知りませんがはっきり言ってダサいですよ。痛いです。ねぇ、皆さんもそう思いませんか?」


「あぁ、ほんとだよな、マジでダサいわ。」


「そうだ、そうだ!酒がまずくなっちまうからさっさと帰るんだな!」


クレハの問いかけに船乗りたちは一斉に目の前の男のことを馬鹿にし始め、彼はさらに怒りをためていくのだった。

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